第49話
ラック・ザ・リバースマンは市民の避難を助けていた。
多くの特殊能力者が隕石が落下する現場に駆けつけていたが、ここで戦うことを決めていた。
正義とか悪とかいうのは結局何なのかわからない。
でもスーパーヒーローの仕事が何なのかは胸を張って言える。
こうして目の前にいる人達。
その人たちの選択肢を守ることこそ、スーパーヒーローの仕事だと思うのだ。
特殊能力があることが判明して、多くの選択肢が奪われた。
ぼんやりと思い描いていた普通の生活や普通の未来を送ることはできなくなったからだ。
でもそのかわり、スーパーヒーローという、普通の人には選ぶことのできない道も見えてきた。
生きていくには選びたい道が選べないことも、選びたくない道を選ばなくていはいけないこともある。
だけど人は目の前の道を歩かなくてはならない。
何も選べないなんて状況をぶち壊すのがスーパーヒーローだ。
たとえその人が、その後に自ら命を絶つとしても、僅かな細い光でしかなくても希望を見せる、それがスーパーヒーローだ。
政府が用意した巨大なシェルターに漏れた人たちも、民間の企業が作ったシェルターや、地下の施設を利用し急ピッチで作られたものに避難をする。
空には一筋の糸のようなものが浮かび上がり、世界中の人がそれを見上げている。
それ以外はいつもとなにも変わらない青空だった。
「あの、ラックさん」
隣でハート・ビート・バニーが声をかけてきた。
彼女は元の姿に戻って長い黒髪をかきあげて微笑んでいた。
笑った際に見える八重歯、それはとても今の彼女にあったチャームポイントだ。
「うん。あらかた済んだみたいだね」
「はい、あの。あの、私。実は……能力を使うのが好きじゃなかったんです」
「え? なんで? あんなに格好いいのに」
「あとで……明日になったら教えます」
そう言うと、彼女はフフフと空気が漏れるように笑った。
彼女の答えを聞いた瞬間、近くにあった壁が大きな音を立てて崩れた。
咄嗟にハート・ビート・バニーをかばう。
よく見ると、そこにザ・パーフェクトをおぶったピンキー・ポップル・マジシャン・ガールがいた。
なぜか、背負われているザ・パーフェクトの方が息を切らしている。
「ゼーハー、ゼーハー、ピン子、早すぎる。息できないから」
「ごめんね。あら、二人とも。ちょうどよかった」
「ちょうどよくないよ。うちらとんだお邪魔虫だから完全に。エッチなことしてるから行っちゃダメだって、うち言ったよね?」
「しまっ! してません! もぅ~パフェちゃん!」
四人で空の白い糸を見つめる。
「このあとどうする?」
ザ・パーフェクトがそう口にした。
「あたしは、結婚して、子供を作って、あんなこともあったなーって昔話みたいに笑って生きていくよ」
「相手……」
ラック・ザ・リバースマンがそう言うと、見えない高速のパンチが何度も飛んできた。
「フレッシュ。痛い。早い!」
「そういうことをいちいち指摘するのが野暮なの。ラックはモテないよ」
「あの、私!」
ハート・ビート・バニーが手を挙げた。
「どうしたのバニー」
「いえ、いいんです。私も、ずっとこんな感じで。いられたらいいと思います」
「そうだよね。なんか、終わりだなんて気が全くしないもん」
「はい。守りますから。私が守ります」
「そうだよ。ボクたちがみんなを守らなきゃ」
「あ、みんな。みんなもですね。はい」
「ボクたちは戦うさ。戦い続ける。何があっても!」
ハート・ビート・バニーがピンキー・ポップル・マジシャン・ガールを見る。
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは黙って頷いた。
ハート・ビート・バニーは大きく息を吸い込んで言った。
「せーのっ!」
ラック・ザ・リバースマンは声を合わせてその名を叫んだ。
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