第36話
「あ、そ~れそ~れ♪ 箱の中身はなんでしょね~」
ノリノリで踊り続けるザ・パーフェクトを見て、ハート・ビート・バニーは困惑していた。
「これ絶対気持ち悪いやつが入ってるやつじゃないですか! ダメですよ、こんなの」
ハート・ビート・バニーはさっきのおなら疑惑の件もあり、心が拒否モードに入っていた。
「俺はやる時はやる男だぜ」
そう言って横からハンド・メルト・マイトが割って入ってきた。
「今は別にやる時じゃないですよ」
ハート・ビート・バニーがそういうのを無視してハンド・メルト・マイトは勢い良く箱の中に手を突っ込む。
「フッ、面白いぜ。まずはこの俺の決断力! ん? ツルッというかヌメッというか。俺の冷静な判断力によるとこれは……っ痛! なんか噛んだぜ! 噛んでるぜ! ぜっ!」
「ウケる! マイちゃん芸人になれるよ。おかしー! あ、ムービー撮ろ」
「さぁ、冷静な判断力で何が入ってたでしょうか」
ザ・パーフェクトが心底嬉しそうに司会進行を務める。
「ク……、これは……ワニか! いや、この痛みはもっとやばいぜ。おそらく、ドラゴンだぜ」
「ドラゴン? 先生、ドラゴンが箱の中に入ってることある?」
ラック・ザ・リバースマンも笑いながらそう言った
「正解は……キングコブラでした」
ザ・パーフェクトが箱を持ち上げると、ハンド・メルト・マイトの指にかぶりついた蛇がうねうねと動いていた。
「ぜーっ!」
「やばい。ウケる。急いでメディカルに行ったほうがいいよー」
「まったく、厄介すぎることになりやがったぜ!」
そう叫びながらハンド・メルト・マイトはメディカルに向かった。
「キングコブラはまずいさ、さすがに」
残された箱を見てラック・ザ・リバースマンがこぼす。
ザ・パーフェクトが蛇をキュッとつまんで言った。
「よく見るんだね。これはアオダイショウ。毒はないから」
「そうなの? よく見たところであんまり蛇の区別つかないさ」
「少なくともマイちんに冷静な判断力はないし、敵前逃亡は銃殺刑よ」
「厳しいな。でも先生にあんな行動力があるなんてさ。前はもっと色々しゃべってからだったよね」
確かにラック・ザ・リバースマンの言う通りだとハート・ビート・バニーは思った。
格好をつけすぎて、なかなか自分からは動き出さないという印象が深い。
彼も変わってきてるのかもしれない。
みんな変わってきている。
超本営の状況だけでなく。
だとしたら次は。
そう考えているとザ・パーフェクトが声を上げる。
「さ、次は……ラクスケ?」
「いや。ボクはいいさ。そもそもこれはリーダーを決めるやつでしょ? ボクはリーダーになんかなりたくない」
「本人の意志とは別に資質があるならばやるべき」
「ボクにリーダーの資質があると思う?」
「まったくないね。決まったらうちは嫌」
「ズバッと言うね」
「でもラクスケ用のやつ、せっかく用意してるんだよ。普通の人なら死ぬレベルの」
「ゲーム目的になってるよ。絶対やりたくないね!」
サンシャイン・ダイナがザ・パーフェクトの手を掴んだ。
「パフェちゃんは?」
その手を箱の中に無理やり入れようとすると、ザ・パーフェクトは物凄い勢いで抵抗をする。
ザ・パーフェクトのメガネがズレて今まで見たことないような引きつった表情になる。
彼女のいたずらは、やられている時は嫌だけど、本人も一線をわきまえているし、なにより最年少ということで許されている部分があった。
それに対してここまできちんと向き合う人は初めてだ。
バランスをとるということに関してはサンシャイン・ダイナは突出している。
こういう人がリーダーをやればチーム内の和はより良くなるだろう。
でも……。
「やるわけないじゃん。うちはもう今の地位で満足してるから。やめて! やめて死ぬから! ダイティが先! 先ににやってよ」
「いいの? あーしで? まだ入ったばっかりで能力も使えないし。ドジだよ? チームのこと考えたらあーしはダメだと思うよ」
謎の物体の入った箱を前にしてみんな好き勝手言っている。
次は自分が変わらなければ。ハート・ビート・バニーは意を決して手を挙げた。
「私、挑戦します」
「え。バニたん。どうしたの?」
「私が、リーダーになります!」
「でもリーダーになるためにはこの箱の中身はなんでしょねゲームをやらなければならないんだよ」
「や、やります!」
「やめとこうよ。蛇とか入ってるよ」
ラック・ザ・リバースマンが心配してそう言ってきた。
「私はこのチームをずっと続けたいから。やります」
ハート・ビート・バニーは首を横に振って言った。
「よく言ったぞよ。ではさっそく、あそれ、箱の中身はなんでしょねー」
ザ・パーフェクトが手を叩きながら楽しそうに踊り狂う。
思い切って箱の中に手を入れた。
しばらくなにもなく、奥の方に手を入れると、箱の下になにかヌメッとした柔らかい感触があった。
暖かく動いている。
生物であり、その感触から絶対に可愛いものではないことがわかった。
鳥肌が立ち、腕が膨れて黒くなる。
深く深呼吸をして超力化を抑える。
「ごめんなさい、とても……気持ち悪い生き物だと思います」
「もっと具体的に! おおっと、ここでジャンピングチャンス、ヒントとしてダイティがジャンプします」
「あーしが?」
「そのチャンス、お得感が何もなくない?」
ラック・ザ・リバースマン呆れ声を上げた。
「ピョーン!」
サンシャイン・ダイナが着地した振動が伝わったのか、箱の中の生物がゴソゴソッと激しく動き始めた。
「ひぃ~、怖い~。気持ち悪いですぅ~」
「危ないよ、もう手を出した方がいいさ」
ラック・ザ・リバースマンがそう言った。
だけど、ハート・ビート・バニーは手を抜けなかった。
どうしてもやりきりたい。
すぐに怖気づいて挑戦すらしない自分を変えたかった。
変身しそうになる身体を抑え、手に神経を集中する。
その大きさ、柔らかさ、生物を握ったときにわずかに鳴き声もした。
「これは……トウキョウダルマガエルです!」
「正解!」
ザ・パーフェクトが勢い良く箱を開けると中からトウキョウダルマガエルがでてきた。
「ウケる。すごすぎんだけど」
「なんで種類までわかるのさ。カエルで正解でいいよね」
「ひぃ~、気持ち悪ぃですぅ。手も臭いぃ~」
改めて触っていたものを見て、全身がゴリラのようになってしまった。
「文句は言わせないよ。決定! 新リーダー、ハート・ビート・バニー!」
「ボクはいいよ。賛成さ」
「あーしもっ」
嫌われないように、注目されないように。
それがハート・ビート・バニーの行動原理だった。
なるべく迷惑をかけたくない。
自分のエゴを出さなければ居場所ができるような気がしていた。
でもそれは幻のようなもの。
自分がいた場所は誰かが守ってくれていた場所だった。
特殊能力を出すのはまだ恥ずかしい。
でも、それを認めてくれる人もいる。
褒めてくれる人もいる。
ザ・パーフェクト手を引いてハート・ビート・バニーを前に押し出す。
「ではリーダーとしての抱負を」
「私がリーダーとなったからには、争いのない世界を目指します」
「デカイね目標。世界征服したみたいだね。ボクも大賛成さ」
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