第34話
内紛と言ってもいいだろう。
特殊能力者たちは異なるイデオロギーを抱えて戦い始めた。
そもそものきっかけはスーパーヒーローたちの思いもよらないところから始まったのだ。
近い将来、巨大な隕石が地球に落ちてきて世界が滅亡するのが判明した。
科学者たちが何度も計算に計算を重ね、それは疑いようのない予測となった。
そして当然のごとく人類滅亡の予測に対して箝口令が布かれた。
ネット上にはそれに関する噂が立っていたが、ネットの噂はネットの噂の域を出ず、翻弄されるのはごく一部のものだけであった。
しかし実際に起こりうる危機に対していつまでも隠蔽することはできない。
隠し様のない事実としてその事態が発覚した時に、各国首脳はすでにそのことを把握しており、数年前から対策を練っていたことがある国の迂闊な政治家の弁によって明らかになった。
そうなってくると民衆も隠されていたということに反発を覚える。
この国の政府は何をしていたかというと、すでに巨大な地下シェルターを建造し始めていた。
その予算を捻出するために軍事費や行政の費用が大幅に削られていたことも発覚する。
多くの者は、この数年、警察などが縮小されていることに警鐘を鳴らしていたが、そのからくりの種が判明したと騒ぎ立てた。
タイミングとしては最悪だった。
初めに対策をしていることを明らかにしてから、隕石落下の報をしかるべき手段で報じていれば、人々の不安は和らぎ、政策は評価されたかもしれない。
重要な事実が隠蔽され、後手後手に回って言い訳をするように情報が剥がれていったために不信感だけが残る形となった。
近年の社会不安、犯罪件数の劇的な上昇と凶悪化、それは間違いなく警察機構の弱体化に原因がある。
そしてその犯罪に対する機関として設立された超本営。
スーパーヒーローたちは正義の元に戦っているとされていたが、見方を変えれば、政府の独断専行に対する目くらましともとれる。
その身勝手な正義に対する反発から生まれた思想こそが真顔の反骨であった。
初めは超本営の特殊能力者に反発する過激派集団と思われていたが、その根の奥には終末に追い込まれた異なる正義があったのだ。
超本営からも多くの離反者が出て真顔の反骨の思想の下に集った。
特殊能力者のみならず、一般人もその政府のやり口に反対をするものが増えていく。
特殊能力者の離反には他にも大きな理由もあった。
いくら巨大な地下シェルターといえど、収容できる人数は数万人。
それは国民の中からランダムに選ばれると政府は発表した。
その際に、安全と秩序を考えてシェルター収容の選別には特殊能力者は除外されることとなったのだ。
社会は大きく混乱した。
終わりゆく世界に向けて、経済は乱れ犯罪も激化する。
そして巨大な組織として膨れ上がった真顔の反骨は政府に対してクーデターを企てた。
超本営はそのクーデターを阻止するために出動する。
特殊能力者たちは異なるイデオロギーのもとに、紛争をはじめたのだ。
人類滅亡というデッドラインが迫っている中、勝者が讃えられることも、何かを勝ち取ることもない無益な戦いが幕を開けていた。
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