第23話

 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールはすぐにハンド・メルト・マイトに連絡をとった。

 チーム名を決めるというのに不参加の者がいるなんて考えられない。


 しかし彼の返事は「俺抜きで進めてくれ」というそっけないメッセージだけだった。


 出鼻をくじかれた悔しさからか、ハンド・メルト・マイトのセンスに決まらなくて嬉しいぐらいだと言いそうになった自分を恥じた。


「ファイブだと五人じゃない?」

「実はファイブにはもっと深い意味があるんじゃよ」


 ザ・パーフェクトがヨボヨボのお婆ちゃんぽい感じで打ち明ける。


 彼女の小芝居が始まりそうだったので、さっと流して話を続けた。


「まぁ、それはいいわ。でもスタイル・カウント・シックスってのもないわよね」

「ないねー。どうせな可愛くなきゃ。なんかキュンってなるやつよくない?」


 サンシャイン・ダイナの提案はわかるようでわからない、なんとも言いようのないものだった。


 スタイル・カウント・ファイブは愛着のあるチーム名だ。

 それが変わってしまうことはもっと寂しく感じると思っていた。

 しかし、こうして話していると、なんだかもっと良くなるんじゃないかという期待で一杯になる。

 まさかこんな風に思う日が来るとは。


「本当はシンプルなのがいいのよ。でもシンプルなものほど他のチームとかぶっちゃうし」

「リバースメン・シックスってのは?」


 ラック・ザ・リバースマンが挙手をする。


「あんた、それ自分の要素入れたいだけでしょ」

「全然違うさ。チームの再起を願っただけで、言われてみればボクの名前と似てるか」

「言われなくても気づくよ。誰だって」


 ザ・パーフェクトが毒づく。


 割といつもの光景だけど、見るとハート・ビート・バニーが不自然なほど顔を真っ赤にしていた。


「ね、ね、スタイル・カウント・ファイブってのは誰が?」


 サンシャイン・ダイナが尋ねる。


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールはザ・パーフェクトを指差した。

 同時にラック・ザ・リバースマンとハート・ビート・バニーも視線をザ・パーフェクトに向け、彼女は片頬を上げて胸を張った。


「マジで? 意外! ちょっとウケるんだけど」

「失礼だね。得意なように見えるでしょ、ちゃんと」

「じゃ、なにか出して、いいの」


 ザ・パーフェクトは目を細めて周りを一瞥するともったいぶって告げる。


「ポット・シック・クロックス」

「あ、格好いい。さすがパフェ、よくそういうのスッと出るね」

「まぁね」


 ラック・ザ・リバースマンに褒められザ・パーフェクトは心なしか鼻が高くなったように見える。

 しかしそんなことよりも、ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールはザ・パーフェクトの目の前にある物体に目がいってしまった。


「パフェ。それ時計とティーポット目に入ったから言っただけじゃないの?」


 ザ・パーフェクトがスィーと目をそらす。


「いや、なにか言いなさいよ」

「たまたまだね」


 明らかにザ・パーフェクトの目が泳いでいる。


「ひょっとして、スタイル・カウント・ファイブも?」

「もー、そんな昔のこといいじゃん」


 ザ・パーフェクトは頬を膨らませて身体をソファに投げ出した。

 胸にはしっかりとゾングルを抱えている。


「急にありがたみがなくなってきたわ」

「え? でもそれ違くない? スタイル・カウント・ファイブは可愛いよ。みんなで育てた名前でしょ。あーしすごい好きだよ?」


 サンシャイン・ダイナが振り向いてそう言った。


 いつも通りのそっけない言いっぷりがかえってピンキー・ポップル・マジシャン・ガールの胸に突き刺さった。


 そう、スタイル・カウント・ファイブはみんなで一緒に守ってきた名前だった。

 さっきまで感じてなかった寂しさが一気に襲ってきた。

 ポロッと涙の粒が落ちた。

 自分でも泣いているなんて気が付かなかったくらい、唐突に。


「わ、どうしたのー? ちょっと座りな。座った方がいいから」


 サンシャイン・ダイナは慌ててピンキー・ポップル・マジシャン・ガールを椅子まで引きずる。


「ううん、ありがと」


 寂しさだけでもなかった。

 自分たちにとっては当たり前のように愛着のあるチーム名だ。

 しかし、それほど一緒に過ごしたわけでもないサンシャイン・ダイナがちゃんと好きでいてくれた。

 そう言うチームになれていたこと。

 素敵な新メンバーに恵まれたこと。

 その全てが嬉しくて、たまらなくなったのだ。


「やっぱりザ・リバースメン・シックスってのでいいんじゃないか?」

「ザつけて、さらにラクスケに寄ってるじゃん」


 ラック・ザ・リバースマンとザ・パーフェクトのとりとめのないやりとりを聞いてピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは心を決めて言った。


「あの、私……」

「いいわ! キューティ・レスキュー・スクヮッド・シックス・ザ・ハートでいきましょう」


「長すぎー。ないっしょ。それはマジありえないから」

「自分のコードネームと一緒だよ」

「入れたいもの全部れ入ればいいってわけじゃない」

「あの、ちょっと覚えられないかもしれません」


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールが自分なりに解釈をして総合的にまとめた渾身の命名は、全員から反発を受けた。

 まさかこんなことになると。

 むしろ、全員一致で賛成してもらえる傑作だと思っていたのに。


「なによ。なんで急にみんなで結託して責めるの? 人を責める時のあなた達の団結力は何よ」

「バニー、何か言おうとした?」

「いえ、私はいいんです」


 ラック・ザ・リバースマンがハート・ビート・バニーに問いかける。


「じゃあ。ミーツ・ザ・ジャガーノート」

「あら、かわいい! いいかも。あーし結構好きかも」


 ザ・パーフェクトがいじっているタブレットに美味しそうな料理が写っている。


「それ肉ジャガ見て言ったわね?」

「何が元だっていいじゃん。そういうのを探るの性格がいやらしいよ」


 ザ・パーフェクトと話しているとラック・ザ・リバースマンが大きな声を上げる。


「待ってよ。バニーはなんて言おうとしたの?」

「え、私は本当に……」


 そう言えばさっきなにか言いかけていたような気がした。

 引っ込み思案で主張しないハート・ビート・バニーはうっかりすると存在を見逃してしまいそうになる。


「何かあるなら言って」

「あの。ちょっと考えてて」


 ハート・ビート・バニーはそう言いながらノートを広げた。


「まじで? ウケる。ものすごいびっしり書いてるよー」

「あ、違うんです。これはほとんどダメな奴なんで」

「これだけあればなにかありそうね」


 全員が頭をくっつけるようにしてハート・ビート・バニーのメモを覗き込む。


「私はあの。ガーティアンズ・オブ・トゥモロウっていうのがいいかなって……」

「いいよ。それ格好いいよ。すごいねバニー」


 ラック・ザ・リバースマンが顔を上げるとものすごい勢いでハート・ビート・バニーが後退する。

 そのままコンソールに腰からぶつかり、勢い良く乗り上げて裏に落ちた。


「あーし、絶対それがいいと思う」

「申請が通ればね」


 ザ・パーフェクトがそう言ってこちらを見る。


 そう言った事務手続きをするのはピンキー・ポップル・マジシャン・ガールの役割だ。


「変な言葉が入ってなければ大概通るわよ。あの変なの、なんだっけ? マンチキンズ? だって通ってるわ」

「あの、他ので全然いいんで……」


 ハート・ビート・バニーがよろよろとコンソールに寄りかかって立ち上がる。


 ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールは心の中に思うところがあった。

 みんなの顔を見渡す。


「だったらキューティ・ガーティアンズ・パフューム・オブ……」

「増やさないでいいよ!」

「長すぎなんだけど」

「ピン子はすぐ増やすんだよ」


 一気に反発する声が飛んできて一瞬泣きそうになってしまった。


 ただ、新しいチーム名としてこれも悪くない。


「決まり。ガーティアンズ・オブ・トゥモロウね」

「明日の守護者みたいな感じ?」


 ラック・ザ・リバースマンが緊張感のない顔で尋ねる。


「あ、どっちかというと未来の守護者って意味で……」

「いいよ。未来の! ボクすごい好きだ」


 ハート・ビート・バニーは頭から湯気を出して倒れた。

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