第17話
ザ・パーフェクトが不信の目で
「ですから不可能なのです。真心回路がある胸の部分は特殊コーティングがされており、通常の手順ではたとえ銃弾を持ってしても破壊できません」
「特殊コーティングがもしペラペラの紙になったとしたら?」
「ありえない仮定の話をしても時間の無駄ですね」
「ありえるとして考えてよ」
「もし万が一そう言うことが起こったとしても、開けたらすぐに中のスイッチを押さなければなりません。猶予はわずか0.4秒。それを超えると、自爆します」
博士はため息を吐き、ややこちらを見下すような視線でそう言い放った。
「余裕だね」
ザ・パーフェクトはわざと難しい顔をして言った。
「え? ホント?」
「うん。どう考えても余裕。あくびでそうなくらい。すぐに伝えなきゃ」
「すごいじゃん! やったー!」
まだ何もやってないのにサンシャイン・ダイナは快哉を叫ぶ。
こう素直にリアクションされると、こっちも気分が良くなってしまう。
なるほど、物怖じしないで他人のパーソナル・スペースにグイグイ侵入してくる性質から苦手な人もいるだろうけど、一度気を許してしまえば素直で好感が持てる。
「バカなのですか? そんなことできたらはじめから苦労しません」
木大角豆博士は甲高い声を上げてて威圧するように言った。
「そうなんだよ。うちらバカなんだけど、そういうことだけは得意なスーパーヒーローなの」
「あーし、伝えてくる!」
そう言ってサンシャイン・ダイナはクラウチングスタートで飛び出した。
スーツに通信装置はついているというのに。
ザ・パーフェクトは通路を映したモニターを見ながらゾングルちゃんの足を握る。
しかしその力を弱めて面白い予感ににやけながら追いかけた。
「ピンちゃ~ん! ロボットの弱点わかったよー!」
「シッ! 静かに! なんで大騒ぎでやってきたの」
「急いで伝えなきゃって思って」
「大声出したらバレちゃうでしょ、ロボットは音声を感知するんだから」
「そっか。ごめん!」
「だいたい通信があるでしょ」
「喜ぶ顔が見たくて。えへへ」
サンシャイン・ダイナとピンキー・ポップル・マジシャン・ガールのやり取りは思った通り間の抜けたものだった。
ザ・パーフェクトはロボットの弱点とそれに対する作戦を伝える。
「あくまで一つの案だが、俺の能力で特殊コーティングをペラペラの紙に変えるというのはどうだ?」
「うん、それしかないわね」
「そうか。あくまで俺の案に過ぎなかったが、それしかないようだな」
ザ・パーフェクトが考えた、というより他の者たちも全員思いついたようなアイデアを自信満々にハンド・メルト・マイトが言う。
そこに何の恥じらいもないあたりが、彼の面白いところだ。
「ロボットを抑えつける役はラクスケがやるしかないと思う。多分、メチャクチャやられるけど」
ザ・パーフェクトはラック・ザ・リバースマンに向かって言った。
「メチャクチャやられても耐えるさ、このボクが!」
「もし自爆したらグジョグジョになると思う」
「グジョグジョ……わかった。グジョグジョでも決してボクは諦めないさ!」
普段からタレた目で気の抜けた表情をしている彼だが、覚悟を決めたような発言の時ですらあんまりしまらない。
実は彼こそがチームの中で一番何を考えてるかわからない人間だ。
かと言って、不気味さを感じたりはしない。
悩みや緊張などのネガティブな感情なんて、人間には生きる上で必要ないのではないかと、どこか気持ちを軽くしてくれる。
「任せて。あたしが瞬時にスイッチを押して自爆なんてさせないから」
ピンキー・ポップル・マジシャン・ガールがきりりと目つきを鋭くする。
ハンド・メルト・マイトが親指を立てる。
四人の姿が通路を曲がり見えなくなり、ひと仕事終えた気分でザ・パーフェクトが戻ろうとした時、サンシャイン・ダイナが大声を上げた。
「みんなー! がんばってー!」
通路にこだまのようにその大きな声援が反響していく。
やがて四人は足をもつれさせながら戻ってきた。
その背後からロボットの軍勢が追いかけてくる。
「なんで大声を出すのよっ!」
「裏はかけなかったぜ」
「侵入者発見、直ちに排除します。侵入者発見、直ちに排除します」
ロボットは躊躇なく銃を乱発する。
ラック・ザ・リバースマンが身体を盾にしてそれを防ぐ。
よろけるラック・ザ・リバースマンをサンシャイン・ダイナが抱きとめる。
「なにこれー、大丈夫?」
その瞬間にハート・ビート・バニーが特殊能力を発動した。
軽く腕を薙ぐとロボットは壁まで吹っ飛び粉々になった。
「見て! バニちゃんの格好」
サンシャイン・ダイナが巨大なゴリラみたいになったハート・ビート・バニーを指差す。
その発言だけはまずい。
ザ・パーフェクトはサンシャイン・ダイナを黙らせようとゾングルちゃんを構える。
ハート・ビート・バニーの変身後の姿に関しては、ザ・パーフェクトすらも話題にできないアンタッチャブルなものだ。
彼女は自分のその姿にコンプレックスを持っているし、落ち込みやすい彼女がそれを指摘されたらどうなることか。
しかし、心配は意外な方向から回避された。
サンシャイン・ダイナの言葉に即応じるようにラック・ザ・リバースマンが答えた。
「うん。めちゃくちゃ格好いいよね! フレッシュ!」
ゴリラ化したハート・ビート・バニーの身体が一瞬ピタリと固まる。
「まじで? ウケるー」
「ボクさ、すごい好きなんだよ。ハート・ビート・バニーのアレ」
ハート・ビート・バニーはさらに一撃でロボット一体をペシャンコにした。
「あーこりゃ、一気に行くしかないね」
ザ・パーフェクトは呆れた声を出しながらも、事態の面白さに笑みがこぼれてしまった。
ロボットの制圧が終わった時には、チームのメンバーはラック・ザ・リバースマンを除きズタボロだった。
戦闘に参加する予定でなかったザ・パーフェクトですら汗まみれで息を切らしていた。
「どうです、私のロボットたちは強かったでしょう?」
博士が自慢げな表情でそう語る。
「まぁね。でもうちらの方がもっと強かったよ」
ザ・パーフェクトはそう答えた。
こんな気分になるのも悪くはない。
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