由人、八月三十日

―――

 レポートに必要な制限文献を閲覧するため、国家図書院にアクセスしている。使い終わった文献を閉じながら、夕方聞いた先輩の声が蘇ってきた。


――念のため明日からにしたら? 毎年八月三十日生まれの閲覧者がその日に図書院使って、翌日に死ぬって噂がある。


 本当にあの先輩は、顔さえ会わせれば馬鹿なことばかり言う。


――見るにしても、必要な文献だけにしとけ。死んだ奴はみんな、余り時間で色々開いて見てたらしいんだ。

――ヤバいのが隠してあるって。


 笑ってしまう。

 制限文献で精神的に揺らぐなんて僕らみたいなエリートにはあり得ないことだ。先輩だってその一員なのに。

 誕生日がいつだとかそんな、子供のおまじないみたいなことを。



 適当なジャンルを開いてリストを流し見ながら、先輩の言葉がいつまでも思い出されるのは何故だろう。



――由人よしひと、お前は去年の奴と名前が近いから。



 ふと、『遺書(一)』というタイトルに目がとまった。






 やがて、巨大な地球の夜に墜ちていく。









〈了〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

重力、遺書、ハッピーエンド 鍋島小骨 @alphecca_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ