とうこう

 入れ替わりから2週間後、その日は登校日だった。


 サユリはシノブと朝練をしたあと、クラスに向かった。

 女バス廃部後のことはまだ決めていなかった。


 自分の席にはすでにキョウヤが座っていた。

 サユリは思い出して、キョウヤの隣の席に座った。


「やっほー、ヒラタ」


「おっす、サワフジ。

 最近どう? だいぶ慣れてきた感じがするけど」


「うん、おかげさまで、毎日が楽しくて仕方ない」


「お、吹っ切れた?」


「うん。ヒラタの言う通り、私には女子が向いてたみたい」


「でしょ? 友達増えた?」


「うん、話題についてゆくのが大変だけど、楽しくやれてる。

 何度か集まって、カラオケとかファミレスでおしゃべりとかもしたよ。

 もちろんボッチじゃなくね」


「よかった。ちょっと心配してたんだ。それ聞いて安心した。

 女子同士の付き合いは楽?」


「うん。男子より断然楽。皆んな大人だしね。

 話し易い子が意外に多くて驚いた。

 スマホで長時間通話するのが当たり前になったよ。

 お洒落も楽しくなってきた。ありがとね、ヒラタ。感謝してる」


「お互い様、気にしないで」


「そいえば、ヒラタ。

 宿題、全然やってなかったよね?

 やり直すの大変だったんだからね。

 そんなんで大丈夫なの?」


「え? 宿題って、休みの最後にまとめてやるものでしょ?」


「……それで、ヒラタをやって行けるの?」


「あー、そこは考えていなかった」


「てか、宿題の続きはしてる?」


「いあ、まったく……どうしよう?

 うつさせてくれる?」


「ダメだよ、ちゃんと理解しながら自分でやらないと」


「まいったな……じゃ、教えてくれる?」


「いいけど、どうするの?」


「じゃ、午後に図書館に集合でいい? シノブも来るのでしょ?」


「うん。わかった」


「一人できてね。他の男子連れてきちゃダメだよ」


「わかってる」



 ……



 サユリは、シノブとキョウヤと一緒に図書館にいた。


 キョウヤが言う

「サワフジがいてくれてマジ助かった」


 シノブが返す

「だよね、ウチら、いつも最終日の数日前から徹夜だったしね。

 今年は徹夜しないで済みそう」


 サユリが言う。

「てか、二人とも私の宿題の丸写しやめてよ。

 ちゃんと考えながらやりなよ。

 わからないところは教えるからさ」


 キョウヤが言う

「大丈夫、考えながら写してる」


 サユリが呆れた様に言う。

「……休み明けの試験大丈夫なの?

 ヒラタの成績がガタ落ちして、私の成績が一気に上がって、シノブの成績が現状維持だったら、変だよね?」


 キョウヤとシノブが言う。

「「あー、確かに」」


 シノブが言う。

「ねぇ、サユリ。試験対策というか、予想問題みたいの作れない?」


「今、シノブが写してるのがそれでしょ?」


「……範囲が広すぎる」


「……ちょっと考えてみる」


 サユリは、重要そうな問題に印をつけ始めた。


 キョウヤが宿題を写しながら言う。

「そういえば、女バスの廃部が正式に決まったってさ。

 二人はどうするの?」


 シノブが答える。

「まだ決めてないの。バスケ部の顧問からはサユリとあたしに男バスのマネージャーやって欲しいって言われてるけどね」


「へぇー、いいじゃん。マネージャーやってくれるとかなり助かる。

 遠征試合を手伝ってくれたときの評判、すごく良かったし」


「あたしも最初はそのつもりだったけど、サユリと話し会ってるうちにマネージャーはちょっとむりかなって思うようになってきちゃった。男子相手に奉仕活動って大変そうだしね」


「まぁ、そうか。自分でプレイするのとは全然違うからね」


「うん。だから、とりあえず夏休み中は女バスとして活動を続けることにしたの」


「他の部員の子はどうしてる? あいかわらず?」


「だねー。でも一部の子はサユリと和解つつあるよ。一緒に遊んだりしてるし」


「うそ? ほんとに?」


 サユリが言う。

「え? 和解て何?」


 シノブが答える。

「そっか、いってなかったね。

 前にね、キョウヤ君が他の部員の子とちょっとだけ口論になったのよ。

 やる気の温度差みたいな感じで。

 それで気まずくなって離れちゃったの」


 サユリが言う。

「そうだったの? 先に言ってよ。気づかず普通に話振ってた」


「ごめん。でも逆にそれが良かったのかも。普通に打ち解けてたしね」


 キョウヤが言う。

「なら朝練に誘ってみたら?」


 シノブが返す。

「流石にそれは難しいかも……でも、声かければ4人くらいはくるかな?」


 キョウヤが言う。

「なら、最後の思い出に3on3でもやろうって誘ってみたら?

 もともとバスケが好きな子達だし」


「そうだねー。このまま解散だと寂しいよね。

 ちょっと誘ってみようかな」


 シノブは、スマホを手に取ると、ほぼ凍結状態だった女バスのグループチャットにメッセージを打ち始める。

<夏休みいっぱいで、女バスの廃部が決まったらしい。

 もし良かったらだけど、最後の思い出に一緒にプレイしてみない?

 朝練は最後まで続けるから、気軽にきてね>


 しばらく経つと、エリから返信が来る

<あー、やっぱりそうなっちゃったんだね。

 最後の思い出か。毎日は無理だけど、ちょとだけ顔出そうかな>


 ミサキからのメッセージが表示される

<エリ朝練行くの? なら、行くときウチも誘ってよ>


 アヤネからのメッセージが表示される

<アタシも行ってみようかな、エリ、アタシも誘ってー>


 ハヅキからのメッセージが表示される

<ワタシも行く。暇してたし。家にいると手伝いさせられちゃうしね。

 てか、サユリが起こしてくれるなら毎日行ってもいいよ>


 エリとハヅキとアヤネは、今のサユリと一緒に遊んだことのある子達だ。

 とくにハヅキとは長時間通話をする仲だった。

 

 ミサキが返信する

<え? サワフジに起こせってマジ? なにがあったの?>


 ハヅキが返信する

<知らないの? サユリ最近イメチェンしたんだよ。

 かなり女子っぽくなって、気軽に話しやすくなったし。

 登校日の日に隠れて朝練覗いてみたけど、前みたいにカツカツしなくなったから、いい雰囲気で楽しそうだった>


 そこからはサユリの噂で大量のログが流れた。

 結局、毎朝、サユリが電話で4人を起こすことに決まった。



 ……



 翌朝。

 女バスのコートに久々に活気が戻っていた。

 サユリが下手になったせいで、みんな実力は横並びになり、白熱するゲームを楽しんだ。終始笑いが絶えなかった。

 撤収後、エリの提案でファミレスで談笑することになった。


 ミサキが言う。

「ほんと、サワフジ変わったね。これからは、サユリって呼んでもいい?」


 サユリが返す。

「うん。じゃ、私もミサキって呼ぶね」


 ハヅキが言う。

「ついにミサキも落ちたか。サユリ可愛くなったよね。

 さすが、恋に恋する乙女だよね。

 バスケは下手になったけど」


「「「あはは」」」


 エリが言う。

「それかわいそうだよ。十分上手じゃん。

 以前のサユリが飛び抜けすぎてただけだしね」


 アヤネが言う。

「心境の変化でここまで変わるとはさすが乙女だよね」


 ミサキが言う。

「あのさ、みんな、廃部後どうすんの?」


 シノブが言う。

「もし良かったら、同好会つくらない?

 楽しむだけなら部である必要ないし。

 今日みたいに、緩い感じで楽しもうよ」


 エリが言う。

「それいいね。今日みたいな感じなら大歓迎だよ」


 アヤネが言う。

「アタシも賛成」


 ハヅキが言う。

「賛成ー」


 ミサキが言う。

「同好会か。サユリはそれでいいの?

 大会とかでなくても大丈夫?」


 サユリは言う

「うん。大丈夫。

 今日、とても楽しかったし。

 みんなとバスケできるなら大賛成」


 ミサキが言う。

「ならウチも賛成」


 シノブが言う。

「じゃ、決まりだね。

 あたしから申請出しておくね」


 ミサキが言う。

「よろしく、会長。

 ところでさ、シノブとサユリって男バスのマネージャーしてるんだって?

 朝練来てた男子がそんな感じの話してるの聞いたよ?」


 シノブが答える。

「先日の遠征試合で人手が足りなくて手伝っただけだよ。

 そしたら顧問から、できる範囲でいいから遠征についてきて欲しいって言われちゃった。

 スコア付けとか審判とか応援とかね」


 ミサキが返す。

「シノブはともかくサユリってスコア付けとか審判できるの?」


 シノブが答える。

「できるよ。私はスコア付けだけだけど、サユリは全部できる」


 ミサキが返す。

「マジで? もしかして男バスの誰か狙ってたりする?」


 サユリが答える。

「ちがうよ、たまたまできるだけ。

 なんとなくできる様になってただけだから」


 ミサキが返す。

「やっぱ天才はちがうね。

 ならウチにも教えてくれない?

 ウチも男バスの応援いきたい」


 サユリが答える。

「うん、いいけど、次いつになるかわからないよ?」


 ミサキが返す。

「いいよ。それまでにスコア付け覚える。審判は流石に無理そうだけど」


 サユリが答える。

「わかった」


 シノブが言う。

「そうだ、ミサキも勉強会の時に一緒にこない?」


 ミサキが返す。

「勉強会? なにそれ?」


 シノブが言う。

「図書館で宿題と休み明けの試験対策してるの」


 ミサキが返す。

「うそ? 二人ともすごいね。どうしちゃったの?

 でも、行く。宿題捗ってないから助かる。

 って、成績そんなに良かったっけ?」


 シノブが言う。

「あー………………キョウヤ君がいるからね」


 ミサキが返す。

「あ、付き合ってるんだっけ? そういうことか。

 お邪魔じゃないの?」


 シノブが言う。

「大丈夫、そう言うのじゃないから」


 ミサキが返す。

「なら、お邪魔させてもらおうかな。

 ヒラタ君ならスコア付けも得意そうだし。

 男子の恋愛事情けるチャンスだしね」


 エリが言う。

「私もいい? 宿題写したい。男バスの応援も手伝うよ。

 てか、ミサキは男バスのシモオカ君狙ってるのバレバレだからね?」


 ミサキが返す。

「まぁね。こう言うチャンスでもないと接点ないし」


 アヤネが言う。

「アタシも勉強会いっていい? 男バスの応援も手伝うからさ」


 ハヅキが言う。

「ワタシも行くしかないな」


 シノブが言う。

「じゃ、午後に図書館に集合ね」



 ……



 キョウヤは教わる立場から教える立場にならざるを得なくなった。


 今日は、バスケのスコア付けのやりかたを4人の女子に教えるだけで済んだが、明日からは、勉強を教えなければならず、予習をせざるを得ない状況になったのだ。


 ヒラタ=キョウヤとして生きる以上、文武両道は避けて通れない。


 キョウヤは、スマホで連絡を取りながら、サユリに翌日の勉強範囲の内容を教えてもらい予習することにした。範囲外の質問はキョウヤの〝教え子〟のサユリに任せる計画だ。

 


 女バス同好会の申請が受理され、6人の主力選手が退部し同好会を発足させたので、女バスの廃部手続きがすすめられた。


 ボールや部室などは同好会に移管されることになった。

 6人の女子が男バスの遠征時の臨時マネージャーを務めるという提案が顧問に評価されたのだ。


 これを機に、顧問は、7人乗りのミニバンに乗り換えたらしい。

 そして、顧問は、男バスの遠征予定をどんどん埋めていった。

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