“EM-2e5756-《メリダ=ティミス》が記す”

 親愛なるへ――


 まずは、この記録の続きを閲覧しようという気持ちを君が持ってくれた、ということに対して、感謝を。

 結論から言うと、私の求めていた情報データは、おおよ情報網ネットワークのアーカイヴから浚うサルベージことが出来た。

 ただしそれに少なからない日数と、労力(勿論もちろん、《タツミ》氏があの建造物アーキテクチャを造り上げるのにかかったものに較べれば、砂粒に等しいほど些少さしょうなものだろうけれど)を必要としたことは、この記録のタイムスタンプから察してほしい。


 さて、私が真っ先に頼りにしたのは、言うまでもなく氏のスーツから直接ダウンロードさせてもらったデータだった。

 ところがこれが曲者で、当然といえば当然だが(氏と私とでは文字通り生きた時代が違うのだ)ほとんどのデータが既に現在いまでは誰も使わなくなってしまっているような古式ゆかしい規格フォーマット暗号化エンコードされていて、私はそれに対する適切な復号機デコーダを見つけるためだけに丸三日情報網ネットワークの迷宮をなく彷徨さまよった。

 それに見つかったのは良かったものの、ようやくコンタクトの取れたそのプログラムを所有していた《ベデック》の吝嗇けち陋劣ろうれつなことと言ったら! 現在いま技術テクノロジーの水準で言えば子供の玩具おもちゃにもならないような代物に、私が一体幾ら大枚をはたくことになったか――ああ、もう止めておこう、愚痴っぽい話は無しだ! やめやめ!

 ともかく、目的の物は手に入った。

 いざ、ご開帳、とやってみると――《メイ・ヤー》! 披瀝ひれきされたのは、《タツミ》氏が実際に建造のため使用したのだろう、聖堂の設計図だった。

 それも、なんとか私の多機能工作機マルチ・ツール建築コンストラクト機能との互換性もある。これでやろうと思えば、私は《タツミ》氏の建築の隣に瓜二つの建物をもうひとつ建造することだってできるわけだ――私に、氏と同様の熱意と根気強ささえあれば、という非常に厳しい条件が付くけれど。

 現在いまならば建物全体の構成を一枚の設計図で管理して、各部のパラメータを調整し(勿論もちろんここにそれなりの腕前が必要とされるわけだけれども)、あとはトリガーひとつで、巨大なタワーが、ドカン!――といった具合のこともできるのだが、《タツミ》氏の時代はまだそこまで技術テクノロジーが発達していない。氏の作成した設計図も、床、天井、壁、それぞれの柱、さらにそれらを装飾する彫像等といった、細かい部材のひとつひとつに及ぶまでの膨大な量のもので、さらにそれに、崩壊を免れてそれらを一個の建造物アーキテクチャとして組み立てるための綿密な作業手順書がセットで付く。

 私はそれらを仔細しさいに眺め、改めて、信じられないアンビリーヴァブル、と感じる。

 私にはそれが、《タツミ》氏が己の人生を燃やし尽くした痕跡に見えた。

 昼夜問わず、一心不乱に設計図を引き、次にはそれとにらめっこしながら部材を作製し、それらをひとつひとつ然るべき順序で――厳密にストリクトリィ――配置していく。その鬼気迫る《タツミ》氏の表情が、脳裏に浮かぶ気がした。

 時には枯渇した素材マテリアルを採取するため、ここいら一体を飛び回りもしただろう(もしかしたら海にも潜ったのかも)。

 氏をそこまで駆り立てた情熱は一体何処から来たのか。

 それを考えると、やはり私はこの建造物の“実物オリジナル”のことについて益々ますます興味を惹かれてくる。

 元々この聖堂は一体何処の? 誰が? なんのために? そして、どういう想いで造り上げたものだったのか?

 私は、まずそれを知らなければならない。

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