第29話 戦う理由

「いいわよ。ただしスリーサイズは内緒だけどね」

 お茶目っぽく答えたアスカムーンに、


「その情報は知ってるアル。アスカムーン調査の過程で、ステラちゃんから聞いたアル」


 メンマちゃんがしれっと答えた。


 でも――!


「ちょっとメンマちゃん! それは内緒の秘密って言ったじゃん!?」


 わたしが慌ててメンマちゃんに「しっ、しっ」って、人差し指を唇の前に立ててジェスチャーしてると、


「シャイニング・プリンセス・ステラ」

 アスカムーンが道端の小石でも見るみたいな、冷徹なる瞳でわたしを見た。


「えっと……」


「あなた、私の個人情報を売ってたわね?」


「それはその、色々ありまして……メンマちゃん、アスカちゃんさんの熱烈なファンみたいだったから、これくらいは良いかなって……。あ、でもお金とかは貰ってないですから!」


「へぇ、そうなのね。でも聞くところによると、学食で何度も蕎麦をおごってもらってたみたいだけど?」


「…………('ω')」


 ズバリ言われてしまって、わたしは言葉に窮した。


 だってだって!


 まさか正体はラー・メンマで、アスカムーンの情報を手に入れようとしてたなんて、そんなの思うわけないじゃん!


 みんなだって気付かなかったよね!?


「はぁ……まったく、後でオシオキだからね。それでラー・メンマ。質問って言うのはなにかしら?」


 やれやれって感じで、アスカムーンがわたしからラー・メンマに向き直った。


「アスカムーンは、物語を守りながら人も守れと言ったアル」


「ええ、言ったわね。それがわたしたち物語の女神の仕事でもあるのだから」


「だけど徹底的に効率を求めて魔獣を駆除しなければ、我が祖国と民たちは魔獣の被害に苦しめられ続けることになるアル。中国5000年の歴史が生んだ物語の数は膨大。そこから抜け出す物語の魔獣たちも、膨大な数アルネ……」


「あ、そっか。メンマちゃんの祖国の中国は5000年の歴史があるんだもんね。その中で生まれた物語も、途方もない数だよね……ラー・メンマ1人じゃとても対処できないよ――」


 だからラー・メンマはあれだけ合理性とか効率的とか、そういうのにこだわってたんだ。

 たくさんの人々を守るために、自分ができる最善を尽くそうとしてたんだ。


 そう言うことだったんだ――。


 わたしはメンマちゃんの行動理念に、心から納得をしたのだった。


 そして突きつけられたのは、あまりに難しい問題だった。

 だけど、難題を突き付けられたアスカムーンはというと、


「なんだそんなこと? なら答えは簡単よ。仲間を作りなさい」


 にっこり笑ってそう言ったんだ。


「……え?」


 その答えに、メンマちゃんも一瞬ポカーンとする。


「仲間を作るのよ。同じ志を持った仲間をね。正義の味方なフレンズを作るの」


「仲間を、フレンズを作る……アルか?」


「そうよ。小麦粉がグルテンでつながり一つのうどんになるように、一人一人の力は小さくても、団結すれば強大な力になるわ。だから仲間を見つけなさい。独りよがりではダメなの。あなたは今それを学んでる最中なのよ」


 アスカムーンが子供を教え諭すみたいに優しく言葉をかける。


「あ……」


 ラー・メンマがハッとしたような顔を見せた。


 すごく良いシーンだった。

 だけどわたしはどうしてもどうしても、どうしてーも気になったので、ついつい話の腰を折って聞いてしまった。


「あのすみません、アスカムーン! 素朴な質問なんですけど、どうやって仲間を作るんでしょうか? 正義の味方ってどこで知り合えるんですか? 学会とか交流会とかあるんですか?」


「正義の味方同士は、自然と引かれ合うわ、例えば今こうやってわたしと、シャイニング・プリンセス・ステラと、そしてラー・メンマが一緒にいるようにね」


「グルテンの絆、アルネ……」


 え、あの与太話をここで回収するの!?


 っていうか『グルテンの絆』ってアスカムーンの脳内うどん畑の設定じゃなくて、正義の味方のうちでは一般理解の範疇はんちゅうなの!?


「そうよ。グルテンとは11画、つまり同じ11画の絆と同じなんだから」


「グルテンは絆……うん、小さいころに確かにそう習ったアル」


「そうよ。信じなさい、グルテンの絆を、グルテンの導きを――」

 その言葉に、


「ふふっ、アル」

 メンマちゃんは子供みたいに笑うと立ち上がった。


「ええっとあの、大丈夫、戦える?」


 あんなグルテンが11画だからどうのっていう謎の会話で立ち直れたのか心配になったわたしが尋ねると、


「友だちのステラちゃんが戦ってるのに、ワタシだけ寝てなんていられないアル。ワタシたちは、グルテンの絆で結ばれてるアルからね」


「いえあの、十割蕎麦にはグルテンは入ってないんですよね。グルテンフリーなんで……」


「ステラ、小異は捨てて大同につきなさい。今がその時よ、3人の力を合わせるの」


「え、あ、はい……」

 なぜか怒られてしまった。


「それで、どうするアルカ?」


「全員同時攻撃よ、3人が呼吸を合わせて、まったく同じタイミングで攻撃するの。そうすれば威力は2×2×2=8倍になるわ。三位一体攻撃――トリプル・グルテン・アタックよ」


「え、あ、はい……」


 なぜそうなるんだろう?

 1+1+1=3ではないのか?


 相乗効果があったとしても、せいぜい4か5くらいでは?

 いきなり8にはならないと思う。


 だけどその道のプロであるアスカムーンがそう言うんだから、そうなんだろう。

 わたしは深く考えるのをやめた。


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