第20話 登場! ラー・メンマ!

「魔獣の気配がしたから来てみたら、あの噂に名高いアスカムーンがまさか先客でいるとはびっくりアルネ」


 謎の来訪者のセリフに、


「このしゃべり方! 日本で独自進化したラーメンだけでなく、本場中国のラーメンをもマスターし、両者を融合させた『本物』だけが使うことができると言われる、クンフー語!?」


 アスカムーンが驚いたように言った。


「おやおや、詳しいアルネ。さすがアスカムーンアルネ」


 そう言って笑った謎のクンフー語をしゃべる女の人。


 綺麗な黒髪で、モデルスタイルの美人だった。

 スリットの深いチャイナ服を着ていて、すごく似合っている。


 もちろん特に見覚えはなかった。

 どこからどう見ても、なにをどう見ても、文句なしに初見だった。


 完全な赤の他人。

 誰かに似ているだなんてつゆほども思いはしなかった。


「ということは、あなたはまさか――」


「ご明察アル。ワタシは本場中国の正義の味方、ラー・メンマ、以後お見知りおきをアルネ」


「やはり、ラー・メンマ! 中国でジャス活(ジャスティス活動)をしているというあなたが、なぜ日本に――」


「そんなことは知らなくてもいいアル・サン・スー」


 2人の間で行われる、なんだか分かりみの深い会話の途中だったんだけど、


「あ、あの! 中国人だからって語尾が『アル』とか、さすがにちょっと安直すぎませんか!? っていうかめっちゃ日本語上手ですよね!? もう完全にわざと語尾に『アル』つけてますよね!? このご時世、そういうキャラメイクは大丈夫ですか!? ポリコレとか!」


 わたしがついつい心配になって聞いてみると、


「これはワタシが好きでやってるただのキャラ付けだから、特に問題ないアルネ。世の中、その他大勢で埋もれてしまうのが一番辛いアル。我が祖国の人口は13億人を超えているアルからネ、差別化が大切アル」


「そうですか! ありがとうございました!」


 どうもこの語尾はキャラ付けらしかった。

 納得したわたしは素直に引っ込んだ。


「それより、苦戦しているみたいアルネ? 助けてやってもいいアルヨ?」


「どうぞお気づかいなく。ここは日本、わたしのシマよ。よその国の正義の味方の助けは借りないわ」


「そうアルカ。だけど相方のほうはアップアップみたいアルけど?」


 そう言ってラー・メンマなる謎の正体不明の正義の味方は、かなり消耗しているわたしを指さした。


「だ、大丈夫です! わたしはまだいけます!」

 わたしはそう強がってみせたんだけど、


「シャイニング・プリンセス・ステラ……かなり消耗しちゃってるわね。うん、あなたの気持ちはわかったわ。でも――ラー・メンマ、助けてもらえないかしら……?」


「そんな! アスカムーン! わたしはまだやれます! ぜんぜん平気です!」


「いいえ、あなたをこれ以上の危険にさらすわけにはいかないわ」


 それを聞いたラー・メンマは、だけど言ったんだ。


「おっと、日本人は礼儀正しい民族のはずアルネ。ならこういう時はなんて言えばいいアルカ? 7文字アル」


「7文字――」


「お・ね・が・い・し・ま・す――アルヨ」


「どうかわたしたちを助けていただけませんか、ラー・メンマ。お願いします」


「アスカムーン!」

 アスカムーンにこんなことを言わせるなんて、ラー・メンマはひどいし失礼だよ!


 わたしはかすかな怒りを覚えるとともに、そうさせてしまった自分のふがいなさを嫌というほど思い知らされていた。


 だってわたしがもっと強ければ、アスカムーンがわたしのために頭を下げる必要なんてなかったのに――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る