第14話 パスタ

 世界の平和を守ったわたしとアスカちゃんさんは、翌日の日曜日に駅前のショッピングモールにデートにやってきていた。


 わたしはアスカちゃんさんの腕をぎゅっと抱きしめて、終始ニコニコ顔である。


「ステラ、ちょっと離れない?」

「離れません!(*'ω'*)」


「そう……でも人が見てるし――」

「離れません!(>_<)」


「歩きにくくない?」

「それもまたヨシ!」


「まぁいいわ……」

「やったぁ!」


 こんな他愛もないやり取りも、お互いに命を託し合った戦いのあとだと、格別にステキな感じだよねっ!


「まぁこうやって平和に過ごせるのも、ステラのがんばりのおかげだもんね。今日はのランチは好きなものをおごってあげるわよ。どこか行きたいところはある?」


「ほんとですか!? じゃあ蕎麦で! ショッピングモールの飲食街にネットですごく話題の蕎麦屋があるんですよ! 蕎麦つゆがですね、それはもう絶品らしいんです!」


「そうね、モールに私のお勧めのうどん屋があるから、そこにしましょうか。コシの硬さから選べる超本格手打ちうどんのお店よ」


「わたし蕎麦が! たまには蕎麦が食べたいんです! お蕎麦にいさせてください!」


「あ、トッピングは自由にしていいわよ。平和になったお祝いに、夢のトッピング全種乗せに挑戦してみるのもいいかもしれないわね」


「問答無用でガン無視された!?」


「ステラ、私の辞書に『蕎麦』という文字は載っていないの」

「アスカちゃんさんは、どこのナポレオンなんですか!?」


 ナポレオンの辞書には『不可能』という文字は載っていなかったらしい。


「ナポレオンはきっと、蕎麦を食べたことがないと思うのよね。だから彼の辞書には蕎麦も載ってないと思うわよ?」


「そりゃそうでしょうよ、だってナポレオンはフランス人ですよ? 蕎麦に限らず、うどんも食べたことないですよ、きっと。麺類なら普通にパスタじゃないですかね?」


 って、なんの会話ですかこれ?


「きっと好みはナポリタンね。ナポレオンだけにナポリタンってね」


「え、あ、はい。そーかもですね」


 わたしは寒すぎるダジャレをさらっとスルーした。

 ステラ大人の対応である。


「ちなみにパスタって『粉を練ったもの』って意味だから、うどんも蕎麦もスパゲッティも全部パスタなんだからね? 正義の味方=麺にたずさわるプロとして、覚えておきなさい」


「え? パスタって、スパゲッティをオシャレに言う言いかたじゃないんですか? やだなぁアスカちゃんさんは。たばかろうったって、そうはいきませんからね?」


「スパゲッティは正しくはパスタという総称の一部よ。ラザニアもマカロニも全てパスタなんだから」


「またまたそんなぁ」


「本当よ、ほら――」


 そう言うと、アスカちゃんさんはグーグル先生で検索した「パスタ」の意味を説明するサイトをスマホで見せてくれる。


「うわっ、ほんとです! 知りませんでした! うどんも蕎麦もパスタだったんだ!」


「さらにちなみに言うと、食べ物じゃなくても歯磨き粉でもなんでも、粉を練ったものは全てパスタって言うのよ」


「マジっすか!?(;´・ω・)」


「マジっす。このへんは麺ラー検定の初級で出てくるから、正義の味方を目指すのならちゃんと覚えておきなさいね」


「あ、いえ、わたしは一応、銀河系アイドルを志望してまして……」


 みんなもすっかり忘れてるかもしれないけど、わたし早乙女さおとめステラは、物語の女神や銀河系アイドルを育成する、アルファルド学園に入学したばかりの1年生なのですよ。


「ほら、そんなことよりうどん屋が見えてきたわよ」


「話してる間についちゃいました……なんて巧みな話術……ううっ、うどん一神教徒は手ごわいです……」


 とまぁ?

 こんな感じで、わたしとアスカちゃんさんはつかの間の平和を満喫したのだった。


 しかし第二第三の世界征服を企む魔獣が、この先もきっとあらわれることだろう。


 わたしたちの戦いはこれからだ!



「うどんの女神と、銀河系蕎麦アイドル。」


 第一部 ~完~

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