第37話

 聖羅と小鳥は顔を見合わせ、どうにか肯いた。

 やらなければならない事はある程度分かったが、まだ不安で言葉に出してそれぞれ確認する。


「……ええと……私、は……皆に必要な存在が来て欲しい、って思えば……良い、ですか……?」


 小鳥がボソボソとどうにか言葉を発すると、瑞貴は彼女を見て静かに肯いた。

 それだけで小鳥は気を失いそうになるのをどうにか堪えて、何度も忙しなく深呼吸を繰り返している。


「私が懐かせる……ですか? ただ具体的にはどうしたら……?」


 聖羅は不安そうに瑞貴と周防を交互に視線を動かす。

 自分のそういう性質は自覚したことも無い。

 思わず瑞貴と周防を見てしまうのは、彼等が聖羅よりも彼女の能力を知っているのを分かっているからだ。


「仲間になって欲しいという思いさえ持っていればいい。それだけでどうにかなる」


 瑞貴が淡々と聖羅を見ながら伝えた言葉に、彼女は強く肯いた。

 彼から言われた事で確かに納得出来たから。


「そういえば斧研先輩、先程の武器って形状変わったりしてるんですか?」


 逢坂がふともらした事柄に、斧研は親指を立てて肯いた。

 元気よくではあるのだが、後半はちょっと不安そうにしながら。


「変わってないよ! アレ、本人に一番合う形にしてたと思うんだよ。だから特に変更は無いかな……」


 それに周防がちょっと眉を上げてから口を開いた。

 周防の見立てでは長く使えそうだと思ったから。


「多分、使っていくと形状変わる気がするな。今の本人に合わせるっていう性質だと思うんだよ。丹羽はどう思う?」


 瑞貴は眉根を寄せてから腕を組んで肯いた。

 どうにか対人用の仮面が被られている状態を維持しているのは珍しい。


「おそらく。周防先生の見立てで正しいでしょうね。それはそれとして早々に召喚を実行する事をおススメしますが」


 鬼ケ原は一つ大きく肯くと、パンパンと二度拍手をしてから目を閉じると、緑色の光が彼から立ち上った。

 それに力を同調させる風早。

 紫子は邪魔な有象無象の様々を自分の思う通りに捻じ曲げた結果、強烈な光の本流に包まれる。

 その中で小鳥は先程の周防の言葉を実行し、聖羅は仲間になって欲しいと強く願った。



 それが後押ししたのだろう、様々な色の宝石が輝いている様な光の濁流の中、虹色の光が立ち上った後、今までが幻の様に全ての光が消える。


 後にはこの場に居た全員のそれぞれ前に、様々な存在が顕現していたのだが……


「狼か。助かる」


 黄金の眩い長めの毛皮をまとった、爪も牙も通常の狼より格段に凶悪で鋭く大きいだろう狼が瑞貴の前で首を垂れている。

 神々しさをより増しているのはその額に生えた見事に美しい二対の角。

 忠誠を誓う様に伏せをし頭を下げていても、背の高い瑞貴の腰ほどはあるだろうか……?

 十分に巨大な黄金の狼だった。


 一部を除き思考停止状態の中、瑞貴は特に驚きも無く安堵していた。

 やはり探索の共にするなら狼か犬系統だろうと願っていたから。

 望み通りで珍しく表情が柔らかい。

 瑠那も喜ぶだろうと一人密に瑞貴は喜んでもいる。


「よっしゃー! そうだよ、乗るのならこういうの!! よろしく相棒!!!」


 誰よりテンションが爆上がりで浮かれ切っているのは風早だ。

 彼の目の前にいるのはどうみても巨大な美しいヒポグリフ。

 鷲と馬、獅子の特徴がある幻獣。

 灰色の体色のグラデーションがどうにも高貴な印象である。

 グリフォンより気性が荒くない点も風早にしてみては嬉しい点だ。

 どうしたって集団で動くのだから、気性の荒さはマイナス要素になりえる事は分かっていたから。


 当のヒポグリフにしてみても風早を選んできたのだから、とても嬉しそうに撫でられている。

 本来誇り高いヒポグリフだが、甘えてもいるようで風早もテンションは上がりに上がっている状態だ。


「あー。そうか……こうくるかー」


 斧研のテンションは微妙な感じである。

 日本犬の雰囲気があるけれど、首周りの毛がフサフサと長く尻尾は長くこれまた長めの毛でおおわれて下に垂れている。

 牙も爪も凶暴な雰囲気に見事に合っているのが危険さを更に上げているだろう。

 薄く炎をまとっている姿はどうにも禍々しい。


 斧研としては、この存在がナニカは分からないけれどそれでも分かるのは”魔”やそっち系統だということ。

 喜んでいいのか落ち込んで良いのか判断できずに曖昧な表情で固まっている。


「ああ、 ”こう|”か。またとんでもないのが来たな」


 瑞貴が呟いたのに肯くのは周防。


「だよなー。あ、斧研。かなり危険だから手綱しっかりな。炎を使う上干ばつ引き起こすから。気性も荒いなんてもんじゃないから頑張れ」


 周防の声は気楽な言葉のわりに真剣身が込められている関係上、斧研は思わず顔が引きつった。

 それを尻目に周防は大きくため息を吐く。

 遠い目になるのが止められない。


「……どうしてこうなった……」


 彼の前に鎮座しているのは、頭は龍で身体は虎な馬の尾を持つ、体長が五十メートルプールがどうみても小さな盥にしか見えない巨大な幻獣だったので……

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