第36話

 周防はため息を吐いて頭を掻きながら瑞貴を見た。

 どうにも瑞貴は言葉が足りない。

 鬼ケ原と風早は理解しているだろうが、紫子も聖羅も小鳥にしてみれば何をすれば良いかが正しく理解が出来ていないだろう。

 紫子も聖羅も小鳥も鬼ケ原と風早の能力を知らない上、小鳥は自分の能力をまったく理解していないのだ。

 先程確かに鬼ケ原の能力を説明したが、そこで何故風早なのかや紫子と聖羅、小鳥が必要なのかがゴッソリ置いてきぼりだ。


「あのなあ、丹羽。もうちょっと説明しないとだめだと思うぞ」


 周防の言葉を聞き、瑞貴は片方の眉を上げて淡々と短く言葉を発する。


「では頼みます」


 また大きく息を吐いた周防と瑞貴を交互に見た竜堂は、不思議そうに口を開いた。


「思うんだけど、周防先生も丹羽もさ、誰かの能力について何でそんなに詳しいんだ?」


 素朴な疑問だ。

 だが本質的でもある。

 知らない者は知らないのだ。

 何故この学校にそれだけの能力者が集まっているのか。

 その大元。


 周防が瑞貴を見ると、瑞貴は首を振って周防へ任せると瞳で伝える。

 大きくため息を吐いた周防は顎を摩って答える事にした。

 色々言いたい事もあるのだが、周防にとって丹羽の跡継ぎである瑞貴の言う事は絶対なので。


「丹羽のは説明したと思うんだが……。それで俺か。俺の場合は精神感応能力の一種。代々こういう能力持ちでな。相手の能力やら何やら分かるの利用してだな、能力持ちの家系の子を集めたんだよ。そういう学校なの。何らかの能力の才能在りそうなのもスカウトしたり入学するように誘導したりだな。大なり小なり才能在りばっかりだぞ、あの学校に居るの」


 色々言わずに簡単に説明した。

 周防の能力を正確に把握しているのは瑞貴だけなのは分かっている。

 紫子も斧研も知らないのだ。


 誰かに知られるという事はリスクになる。

 それは周防の一族で代々言われている事だ。

 だから自分の能力にしろ瑞貴の能力にしろ正確には伝えていない。

 むしろ本質は一切教えてはいないのだ。

 誰も彼も勘違いしてくれたら万々歳。


 周防は能力を誤認させるのが得意だ。

 自分さえ欺くのも。

 必要の無い時は真実自分の能力だ、相手の能力だと信じ込ませる。

 故に丹羽の跡継ぎ以外は周防の跡継ぎの真実を知らないのだ。


「え? そうなの!? って、もしかして周防先生って次期の理事長だったりする!!?」


 芽依咲は思わず大きな声を出してしまう程には驚いていた。


「普通は言ってないしな。そうだぞ。ちゃんと跡継ぎ。だから色々権限あるの。生徒会の顧問もやってたろ。生徒会に入ってるのは目ぼしい才能ある子ばっかりなんだよ。丹羽の場合はアレだ、色々あるから気にすんな。如月の場合もな。藤原は……まあ、面倒な事ってあるんだよ。才能ってのには一般的に霊感だとか言われてるのも入る。むしろそういう子を守るのも仕事。自然と自分を守れるように指導してるんだよ。両親とか親戚にちゃんと霊能力を扱える人がいないと悲惨なんだからな。そこら辺は逢坂やら月見は顕著だよ。見ていても見てないって思いこんでるからな……こういう自覚無しの霊能力の高い子は危険なんだよ。どこで利用されるか、喰われるか……。もしかすると、この”ゲーム”に巻き込まれたのもそうだからか……?」


 周防が最後独り言ちた声は、不思議と空間に響き渡る。

 能力を自在に使っていた面子は、ハタッと気が付いた様な表情になって顔を見合わせた。


「おそらくな。折角の有用な餌だ。積極的に狙われた可能性が高い。だとすると他のチームもそうだという事か……? それとも主催者との親和性が高く与えられた能力が必要以上に高くなるから……という事もあり得るか。それはそれとして、周防先生、話が見事にズレ切っています。軌道修正を」


 瑞貴が眉根を寄せながら感情の起伏無く告げる言葉を聴いた周防は、慌てて話を戻す。


「すまんすまん。それでだな、花山院の能力を使って色々捻じ曲げて、姫野に引き寄せてもらって、仁礼で懐かせるっていう訳だな。基盤として鬼ケ原と風早。……分かる、か……?」


 周防の不安そうな言葉に紫子は自分の能力を把握しているが故に直ぐに肯いた。

 だが聖羅は今必要な自分の能力が分からず困惑中。

 小鳥に至っては自らの異能力自体さっぱり分からない。


 周防も瑞貴に言われて焦った結果の聖羅と小鳥にしまったと頭を抱えつつ、詳しく説明しないと始まらないともう一度口を開く。


「つまりだな、仁礼の場合、生き物というか存在する有象無象だな、それらに問答無用で好かれる。そういう性質がある。何故か説明すると危険だから言わんが、兎に角自覚した方が良い。仮面を外している状態だとその性質が顕著に出る。だから無意識にしてたんだろうが、その仮面をしたままだと能力がきちんと使えないっていうジレンマだな。そこら辺もう諦めろ。丹羽、任せるからな。それで姫野だが……こっちも能力を正確に言うと色々障りがある。だから今必要な事だけ言うな。難しく考える必要はない。皆に必要な存在をって思うだけで良いんだ。出来るか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る