城下町②

「じゃあやり直すってこと?」

 インタビューを付け加えようという提案をすると、グループメンバーのダイスケはそう言って顔をしかめた。

「やり直しじゃなくて、付け加えだよ」

 アイはなるべく落ち着いて話すように心がける。

 同じことを言わせるな、というクレームはなんとか飲み込んだ。

「えー、面倒じゃない?」

 ユウコとは簡単に打ち合わせをしてある。

 他のメンバーは後回しでも構わない。とにかくダイスケが納得すればどうとでもなるメンバーなのだから。

「先生が良いって言ってたんだし、このままで平気だろ?」

「そうかもしれないけど、新しいことを付け加えて発表したほうが点数上がるじゃん」

 しぶるダイスケをアイは説得するように言葉を続け、ユウコも

「インタビューしてないのうちらだけだったし」

 と後押しをする。

「どうしたの?」

 眼鏡をかけた小柄な男子がダイスケの横に並んだ。

「お、ケンタ」

 ダイスケの幼なじみで今回のグループメンバーの1人であるケンタだ。

 彼とアイはなんとなく上手くいかない。

「インタビューしようってさ。発表会のやつ」

「インタビュー?」

 ダイスケの言葉を噛み締めるように繰り返すケンタ。

「そう。昨日のリハがビミョーだったからって」

「びみょー?」

 ケンタは理解しているのかいないのか、それこそ微妙な表情でアイとダイスケを交互に見た。

「コイツら的には足りてないから、改めてインタビューして付け加えようって言ってるんだよ。オレは必要ないと思うんだけどさ。ケンタは?どう思う?」

 ケンタに対し、噛み砕くようにアイとユウコからの意見を伝え直すダイスケ。

 アイは思わず鼻で笑ってしまう。

「そこまで言わなくてもいいでしょ」

 問われたケンタは、神経質に眼鏡の位置を直しながら「そうだね」とだけ言った。

「点数高いほうがいいじゃん、ね?」

 やるともやらないとも言わないケンタに焦れて、アイの語気は自然と強くなる。

「あぁ、うん、そうだね」

「ほら、ケンタやるって。ダイスケもいいよね」

「えー?もう、しょうがねぇなぁ……」

 半ば押し切る形になったが、自分のすすめたい形に収まりそうでアイは安心した。

「じゃあ今日の放課後からでいいよね」

 ユウコも満足そうに頷いて、話をすすめる。

「うん、時間も無いしね。あ、ショウにも言っておいて」

「わかったー」

 もう一人のメンバーへの伝言をダイスケに頼み、アイとユウコはその場を離れた。

 背後でぽつり呟くとケンタの声が聞こえてくる。

「模造紙も書き換えるのかな?ショウくん、困らないかなぁ?」

「あー、そっか。ショウは嫌がるかもなぁ」

 ちらりと振り返ると、ケンタと目が合った。

 慌てて視線をそらすその様子に、アイのイライラが積もっていく。

 思わずついてしまった舌打ちが聞こえたのか、ユウコにぽんぽんと背中を叩かれた。



 一度帰宅し食事をしてから学校前で待ち合わせた。

 案の定、遅れてくるダイスケとケンタにさらにイライラが膨らみ、どうしてもアイの態度がキツくなる。

「仕方ないだろ、遠いんだから」

 ダイスケの言い分も分かるが、本来それを主張するべきはケンタのはずだ。

 なぜなら5人の中でもっとも家が遠いのはケンタだから。

 だが、何時に集合するのかを決める時、彼はなにも言わなかった。

 間に合わないと言ってくれればいいのに、それを言わない。

 ダイスケにフォローされなければ自分の意見も言えないのか、とアイは憤る。

「揃ったんだからいいじゃん、早く行こ、時間が無くなるよ」

 ユウコに促され、アイはケンタについて考えるのをやめた。

 こんなやつに足を引っ張られている場合ではない。

 ケンタのペースに合わせていては、授業参観を自分の思った形にすすめることが出来ない。


 ユウコがポケットから録音機を取り出して、アイに見せた。

「これ使うよね?」

「助かる!ありがと」

「じゃあ、どこから行く?」

 アイとユウコは道の左右を見比べる。

 ダイスケは左を見、ケンタもつられるように左を見た。

 ショウはただ静かに立っている。くせっ毛の長い前髪が彼の表情を隠していて、何を見ているのかまではうかがうことが出来ない。

「この時間なら畑に出てる大人もいるだろうし、行くなら左じゃね」

「あぁ、うん、そうだね」

 ダイスケの提案にケンタが同意した。

「じゃあ畑あたりまで行って、時間とインタビューの様子で戻ってこよっか」

 ケンタの反応にぴりぴりするアイに代わって、ユウコがそう提案する。

 視線で問われ、アイは小さく頷く。

「図書館とか公民館とか、そういうとこの大人たちだったらうまく話してくれるかもなー」

「あぁ、うん、そうだよね」

 ダイスケとケンタがのんびりと歩きだすのを睨むように見てから、アイはユウコと並んで歩きだした。

 さらにその後ろをショウがのそのそと着いてくる。

「……大丈夫?」

 小声でユウコに訊かれ、アイはまた頷いた。

 気分をかえるように深く息をする。

「先に図書館行こう。近いし」

 前を行く2人に声をかけ、アイは再び深呼吸。

 落ち着け、と自分に言い聞かせる。

 成功させないと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る