第3話 髪モフモフは照れ隠し

 それからの道中は意外と楽しいものになった。


 レアナとパーティーを組んだことで、レアナの方から積極的に話しかけてくれるようになった。


 それも、一応【白虎】のことは全く触れてこない。レアナなりに気を使ってくれてるんだろう。将来はいい嫁さんになりそうだ。


 そしてレーゼン王国を出て一週間。俺達はようやくボナト村へ到着した。


 村、とは言っても、集落のような物ではなく、結構大規模な町みたいだ。だけど他の町と違うのは、人間の他に亜人種の姿が目立つことくらいか。


「着いたわね、ボナト村!」


 長かったーっ!と伸びをするレアナ。……こいつ、意外と言うかやっぱりというか……残念胸だな。


「ジオウ、今失礼なこと考えなかった?」


「気のせいだ。それより、まずは宿を取ろう。宿代、出してやるから」


「本当!? いやー、気前がいいわね! モテるでしょ?」


「こんな程度でモテたら苦労しない」


 レアナの冗談を軽く受け流し、近くにあるホテルに二部屋取った。


「えー、勿体なくない? 私とジオウの仲よ? 一部屋でいいと思うけど」


「俺とお前の仲って……一週間荷馬車に乗った仲だろう。それにレアナは可愛い。俺も男だ。万が一があっては困る」


 実際そんなことはありえないが、念には念を入れてだ。


「かわっ……ふ、ふーん。なら良いわ」


 ツーサイドアップに纏めた髪をモフモフと弄る。なんだ、照れ隠しか? 可愛い奴め。


 ホテルにある程度の荷物を置くと、俺はコンバットナイフを二本装備し、待ち合わせ場所のホテル前に向かった。


「悪い、待たせた」


「私もさっき来たばかりよ。それじゃ、ボナト村の村長の所に行きましょうか」


 レアナは既に場所をリサーチ済みらしく、直ぐに村長宅へ着いた。


 村長宅をノックすると、中から筋骨隆々の青年が出てきた。


「はじめまして。依頼を受けて来たレアナ・ラーテンです」


「おおっ、お待ちしていました。私は村長の息子、ナルタと申します。……そちらの方は?」


 青年が訝しげな表情で見てくる。レアナも、俺の言い訳までは考えていなかったのか、アワアワとフリーズしている。


 ……ここで名前を出すと面倒なことになりそうだな。


「実は、今日の依頼はレアナのランク昇級を含めたものになっていまして。俺はその見届け人です」


「左様でしたか。ではどうぞ中に」


 ふぅ、なんとか切り抜けた。


(あんた、頭回るわね)


(まあ、伊達に元Aランク冒険者じゃないってことだ)


 ナルタさんに聞こえないよう、レアナと小声で会話する。これくらいピンチでも何でもない。


 ナルタさんの後をついて行くと、奥の応接室に通された。


 そこには、頭がハゲ上がってはいるが、ナルタさんに見劣らないほど鍛え上げている男性がいた。


「父上。レアナ殿をお連れしました。彼はレアナ殿の昇級試験の見届け人です」


「うむ。ナルタ、彼らにお茶を」


「はい」


 ナルタさんが応接室を後にすると、俺達は勧められるままにソファーに腰をかけた。


「わざわざ御足労いただき、かたじけない。私がボナト村村長、ガルタです。早速ですが、依頼内容の詳細を説明させていただきます」


 ……何となくだが、俺達よりガルタ村長の方が疲れてるように見えるな。やっぱり村の近くに魔物の巣が出来てるから、精神的に疲れているようだ。


 ガルタ村長から、見かけた魔物の特徴、場所、被害等を教えてもらう。


「毛の色は緑と茶色の混合で、常に三匹ずつで動いています。一ヶ月前からこの辺に住み着き、今では農作物や家畜にも被害が出ています」


 緑と茶色の混合……それと肉だけではなく、農作物も食い荒らす雑食性……間違いない、ヴィレッジウルフの特徴と一致するな。


「それに、最近ではウルフの赤ん坊まで見たという住民もいるのです。繁殖し、数を増やしているのは間違いないと思われます」


 これもヴィレッジウルフの特徴と一致するな。奴らは群れではなく巣を作り、巨大なコミュニティを築き上げ、周囲を貪り尽くす。餌が無くなればコミュニティは複数の群れに分散し、またコミュニティを形成する。


 つまりヴィレッジウルフを放っておけば、下手するとその土地が不毛の地に変わってしまうのだ。


「なるほど、分かりました。早速今から、討伐に行ってきます」


「なんと! それは心強い! 無事巣を破壊してくれた暁には、報酬は弾みますぞ!」


 ガルタ村長、目を爛々と輝かせてるな。……心中、お察しします。


 俺達はお茶を飲み終えると、南へ向かった。そっちの方からヴィレッジウルフがよく現れるらしい。


「ヴィレッジウルフの巣の破壊かぁ……ねぇジオウ。私に出来るかしら?」


「そうだな……ヴィレッジウルフが現れて一ヶ月なら、相当デカい巣のはずだ。ギリギリかもしれない」


「ギリギリ……ま、その時は期待していいわよね、ジオウ?」


「まあな。だけど、これはお前が受けた依頼なんだし、出来るだけ自分で頑張ってみろよ」


「分かってるわよ。私だってCランク冒険者の誇りはあるわ」


 それなら良いんだが……。


 だけど、俺が心配してるのはもう一つある。例の騎士崩れの件だ。このタイミングで狙ってくる可能性もゼロじゃない。レアナが集中して依頼を達成出来るように、俺も最大限バックアップしてやろう。


 ……ん? そうだ。


「レアナ、今から行くって言ってたけど、旅疲れはどうだ? もしあれなら、今日は調査で明日討伐でもいいと思うが」


「それがね、ジオウとパーティーを組んでから、異様に体力が有り余ってるのよ。何でかしら?」


「いや俺に聞かれても」


「ま、という訳で心配無用よ」


 ……なら良いんだけどな……。

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