25,バレちゃった!?

「あぁ、そんな事はわかっているさ」

 くつくつと喉を鳴らしながら笑った蒼は机に広げていた書類を片付けると、なんだか機嫌がずいぶんと悪そうな表情をしていて――


「そろそろ出てきたらどうだ、バレているぞ」


なんて、確実に俺と悠人以外の誰かに話しかけていた。

「あ、蒼……?」

「そろそろって、誰に」

「廊下、この話をした時からずっといるだろ」

 俺も悠人も、気づいていなかった。

 蒼の声かけた方に目を向けると、ゆっくりと顔を出したのは見知った前の席の彼女で。


「その……ごめんなさい、盗み聞きをするつもりはなかったの。忘れ物しちゃって」


 申しわけなさそうに目を伏せたそいつは間違うはずもない――早川汐莉だった。

「いつから、そこに」

「九歳なら、五歳年下」

「それ最初からって言うんだぞ」

最初どころか、それより前の雑談からじゃないか。

あまりの急展開に声が上ずりながらも確認をしていくと、汐莉は楽しそうに変な声、と笑っていた。そんな、俺だって知っているよ。

「……えっと、三人ともヒーローとかヴィランって、もしかして」

「……」

「……」

「……」

 そりゃ確かに、最初から話を聞かれていたのだ。その話になるのは当然だと思う。

 どうしたものか、どうやって説明しようかと考えていると、悠人と蒼が俺の後ろに回ったのが視界のすみで見えた。

「早くカミングアウトしろ」

「そうっス、オレ達の中でご主人が一番仲がいいんスから」

「そんな理由で簡単に、って背中を押すな」

 そんな事言って、ただ説明するのがいやなだけだろ。言葉にしなくてもそれくらいわかるからな。

「そんな、私ヒーローとかヴィランとか気にしていないから」

「うんん、話を聞かれたならちゃんと説明しないと」

 ヴィランでバレて、そのままなんでもないよと話を変えられるほど神経太くないし。どこまで話をしていいのか手探りで言葉を選んで、俺は汐莉にかいつまんで説明をした。

 俺と悠人がヴィランで、蒼がヒーローである事。

 厳密に言えばラグナロクは現在万事屋で、元ヴィランの組織である事。

 俺達ラグナロクの名前を名乗る偽者がいて、そいつを探している事。

 探している途中に、汐莉の家の近くでアルカディアと戦った事と、それからパンドラの欠片の事を。

 汐莉が関わっていると考えている、とは言えなかった。

 少しだけ隠し事をしている後ろめたさとともに話を終わると、汐莉はなんだか話をかみ砕いているように言葉を口で転がしてして――違う、目がぐるぐるしているから話を飲み込めていないだけかも。

「……ヒーローでヴィランで、友達で部下?」

 あぁほら、関係の段階で混乱している!

 どうやって補足をしようとあたふたしていると、それよりも早く悠人があのね汐莉、と口を開いた。

「俺もご主人も、それからヒーローの蒼も。一般人からすれば確実に危険な事をしている……それに今だって、ご主人の言う通り偽者探しをしていて他勢力のヴィランから狙われているんだ。だから、汐莉は巻き込みたくないからこの事はこれ以上触れないでほしいっス」

 悠人の言う通りだった。

 俺達が今やっている事は、一般人の汐莉を巻き込むにはリスクが高い。俺だってその気持ちは同じで口を挟まず見ていると、汐莉がきょとんとした表情で俺達三人を見てきた。

「どうして、触れちゃだめなの?」

「えっ、どうしてって……」

 ちょっと予想外の返事が返ってきた。いや、どうしてと言われても。

「ここまで話をしてそんなこれ以上はだめなんて、都合がよすぎると思うんだけど」

 いや確かに、ごもっとも。

 汐莉の言う事は正しくて、俺だって同じ立場だったら全く同じ事を言っているよ。そこについては悠人も蒼も同じ気持ちみたいで顔を伏せていると、ほらね、と汐莉が勝ち誇ったように楽しく笑っていた。

「それに、私もしかしたら三人の知りたい事がわかるかもしれないから」

「……?」

 俺も悠人も蒼も、どの事を言っているのかわからず顔を見合わせた。

 俺達の知りたい事って、なにを――

「パンドラの欠片……だっけ?」

「っ!?」

 汐莉が話題に出したそれは話の中心にあるもので、思わず顔を上げる。今、パンドラの欠片って。

「早川汐莉、お前なにを……」

「だからパンドラの欠片、私知っているよ」

「知っているよって、どうして汐莉が……!」

「どうしてって言われても……」

 俺が慌てている様子が不思議なのか目を丸くした汐莉は、信じられない言葉を続けた。


「そのパンドラの欠片――私の家にあるから」

 

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