Session01-8 話し合い 〜バーバラ〜

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 さて、こう口火を切ったが話すことは決まっておる。

 我とアイルの秘密。そして、今後の展望についてじゃ。

 皆の目を一度しっかりと見据え、まずは秘密について語ろう。


「今回については、一党の面子と、そして多分に運の巡りが良かったこともあろうが、無事、討伐任務をこなすことができた。皆のおかげじゃ。」


 その言葉に皆が頷いてくれた。そう、実力が足りないわけではないのじゃが、死んだ冒険者達の件が重なって不意を突けたという点も大きかった。それを過小評価し、我らの実力を見誤ってはいかん。

 運も実力のうちとうそぶく者もおるが、”人事を尽くして天命を待つ”という故事があるように、各々の力を尽くした上で、運に恵まれるのじゃ。

 じゃからこそ、運が良かったで済ましてはならぬ。それ以外は、全てうまく行った。

 古来、”勝って兜の緒を締めよ”という。そういう口うるさい事を言うのも我の役割じゃ。


「今回は……」


「今回は、道中も含めて、ボク達で決めた作戦通りに展開、行動ができて、失敗がなかった。凄いことだと思います。でも、あの一党が返り討ちにあったことで、追い剥ぎ共が油断していた事が大きいアドバンテージになっていたとも思います。ボク達の腕が良い悪いではなく、改めて、うまくいかなかった可能性も考えて、精進すべきですね。」


 あれ、ルナ?

 我が言おうとしたことを滔々とうとうと語ってくれてしまったぞ?

 いや、戦女神の神官じゃから、あり得て良いとは思うけども……あれ?


「そうじゃな。古来……」


「確かに、ルナの言う通りですね。たしか”勝って兜の緒を締めよ”ですか。あくまでも、今回は初の任務。気を抜かないように注意すべきですね。」


 フィーリィ、お主もか!

 軍記や兵法書を読んだことがあれば、見たことはあるじゃろうからあり得るけれども……。

 我の面目丸つぶれじゃないかのぉ。


「バーバラ?」


 おおっと、アイルが我が途中まで口にしていた事に気づいててくれたのか、声をかけてくれたわ。

 すまんなぁ……では、気を取り直して。ごほん!


「二人の言う通りじゃ。この様な幸運が再度起こることはマレじゃ。改めて、気を引き締めてまいろう。よいな?」


 我のまとめに皆が頷いてくれた。

 この件は大丈夫そうじゃな。では、本題に入るとしよう。

 アイルに目配せをして、一度頷いて見せると、アイルも理解したのか頷き返してくれた。

 我は一度深呼吸をし、本題を切り出した。


「先日じゃが、我とアイルで少し話をしてな。二人で秘密を打ち明けあったのじゃ。」


 我がそこで一度言葉を区切ると、三人が我とアイルに交互に視線を送る。

 その視線を受けたアイルは、三人に答えるように頷いた。


「我はこの一党のリーダーを自負しておる。そのため、アイルの秘密が問題になる可能性があり得ると思い、二人の秘密を互いに共有して、もしも、この依頼の後、別れることになった時に問題にならぬように、また、途中でその問題が明るみに出た際にフォローし合える様にしておったのじゃ。戦女神に誓って、お主たちを信じていないわけではない。しかし、そう感じさせるものであったと思う。誠に申し訳ない。」


 我は三人に対して、アイルと二人で秘密を共有していたこと。そして、それを皆に伝えなかったことに対して謝罪の言葉を伝え、頭を下げた。


「皆、すまない。これについては俺からも、バーバラに頼んでいたんだ。責めるなら、俺を責めてくれ!」


 我の言葉に続いて、アイルが謝罪の言葉を伝え、頭を下げたのがわかる。

 ……あれはあくまでも我から提案をしていたことなのに、アイルは自分が我にそうするよう依頼したという風に言ってくれておる。アイルが実直な性格みたいだと言うことがわかる物言いよ。


「……理解はできたぜ?まぁ、なんだ?この店の上物の酒、それで許す。今後はなしにしてくれよ?」


「……私としても仕方ないこととは思いますが……。そうですね。ピッピと同じくお酒にしておきましょうか。」


「ボクは、打ち明けてくれたことが嬉しいです。もしも、罰が必要であるなら、お二人と同じで大丈夫だよ。」


 ピッピは盃を持つような仕草を見せて、フィーリィはくすりと微笑みながら、ルナはニコリと笑顔を浮かべて、そう言ってくれた。


「かたじけない。……改めて、秘密について語ろう。まず、我からじゃ。」


 我はそう言い、皆の顔を見回した。目を合わせると、皆が一度頷いてくれる。それを確認してから、続ける。


「我が名は、バーバラ・ロドス・デ・フォルミタージ。フォルミタージ家のロドスの娘のバーバラという意味じゃ。フォルミタージの名を聞いた事があるかの?」


「フォルミタージっていやぁ……たしか、鉱人族のでっかい工房の名前じゃなかったか!?たしか、ハルベルトにも支店があったはずだぜ!?」


 ピッピが驚きと共に解説してくれたの。まぁでかい中でも中間どころっていうところじゃがな。フィーリィとルナはピッピの話を聞いて驚いておるようじゃ。


「……なんと言いますか、良いところ出だとは予測していましたが……。確か工房の規模によって、爵位相当の地位を得るという事でしたよね。……となると、伯爵位相当ですか。」


 うんうん。フィーリィは知っていてくれたか。鉱人族の国は、王政ではある。じゃが、四年毎に行われる全工房参加の品評会にて、最優秀の品を作成した工房が王となり、四年間の舵取りを行うのじゃ。しかし、それだけじゃと小さい工房の品が最優秀となった際に、そう言った舵取りのノウハウがなく、困ることが考えられる。

 そう言ったことを防ぐ為に、工房の格付けを行い、大規模工房の長十名については顔役として政治に関わることとし、中規模から小規模の工房の中から十名を選挙にて選び政治を行っておるのじゃ。

 血縁で継ぐわけではないため、公爵位はない。上位三大工房については侯爵位相当。残り七大工房は伯爵位相当。中規模工房の上位三分の一を子爵相当。残りを男爵相当としておるのじゃ。

 大きい工房程商売の規模が大きいため、各国の上層部とつながり安い。関税などのやり取りなどを代表して行う事が多くなるのじゃな。


「うむ。そのフォルミタージ工房の現工房長ロドスの三女が我じゃ。」


 そう伝え、冒険者になった理由を三人に改めて伝えた。

 冒険者として名を馳せたい。それもこのメンバーで。

 父上と殴り合いの喧嘩をし、工房の助力を得ず、自力で名を上げる事を約束し、家を出たことも伝えたわけじゃ。


「今、我が考えてる案として”徒党クラン”を作り、活動を行うことを考えておってな。正直、冒険者として成功するには、一党だけでは機会は限られておる。なれば、面倒なところはあれども徒党を作り、活動することが名を馳せる近道になるということじゃと思っておる。それにじゃ……。」


 皆にわかりやすいように背負い袋にしまっといた地図を広げて、ハルベルトといくつか場所を指差して見せた。皆の顔を見回して見ると、アイルは気づいたようじゃ。


「”迷宮”のある場所だな。しかも、森とかが迷宮となった辺りだな。」


「そうじゃ。攻略されてない迷宮を我ら徒党にて攻略したり、未開拓地への開拓の話に乗れれば叙爵もあり得るじゃろう。」

 

 アイルが口にしたが、”迷宮ダンジョン”には種類がある。

 洞窟や、墳墓というような自然的、人工的に作られた場所に魔力溜まりができて、”迷宮”と化すもの。

 森や平原、山と言ったところに凶悪な魔物が住み着き、”迷宮”という扱いになったもの。

 前者については、一部の魔物が闊歩する”迷宮”でなければ危険度は下がるのじゃ。”迷宮”には魔物がひしめいておる。そして、その存在は基本的に敵対的なのじゃが、何故か、”迷宮”の入り口、そして階段をまたいで追いかけてくる事がないのじゃ。

 そのため、管理ができて、一部の魔物以外が存在している”迷宮”については、冒険者や兵士を使って、魔物を倒した際に生じる魔石や、なぜか時々現れる宝箱から得られる財貨。そう言った物を定期的に稼ぐために維持しているところが殆どなのじゃ。

 では、一部の魔物とは?

 ゴブリンやオーク、トロールと言った”緑肌グリーンスキン”共、ゾンビやスケルトン、ヴァンパイアと言った”不死者アンデッド”共、そして昔語りにも存在した”悪魔デーモン”共じゃ。

 先ほど、【”迷宮”の入り口、そして階段をまたいで追いかけてくる事がない】と言った。じゃが、この三分類のもの共はそれが当てはまらぬ。

 魔物は”迷宮”内で一定の間隔で生み出されるということは周知の事実となっておる。場所ごとにその時間は違うので、必ず情報収集はせねばならないがの。

 そして、その仕組みとは別に、”緑肌”と”不死者”は仲間を増やす。前者は人間の女の胎を、後者は人間自体をもって。仲間が増えに増えたら周囲へ繰り出すこととなり、災禍となるわけじゃな。

 そして、”悪魔”どもは不倶戴天の敵となっておる。昔語にある、悪魔どもの迷宮へ徒党が挑み討ち果たした話の始まりは、悪魔の王が存在する”迷宮”が現れた国で、討伐をするのではなく、その”迷宮”を活かす選択をしたところからなのじゃ。

 初めは蜜月の如き関係じゃったが、少しずつ悪魔共は国の要人に甘言を吹き込み、悪魔が国の上に立つようにもっていき、遂には成し遂げてしまう。

 その後に起こったのは災厄という言葉が生やさしいほどで、その国は滅んだ。じゃが悪魔は消えぬ。消えぬ悪魔が周囲の国へその手を伸ばすのは自明の理じゃった。

 その時に立ち上がったのが隣国の王子であり、その旗印の元に様々な階層の者が集まり、徒党を組み、遂には悪魔の王を討滅するわけじゃな。

 それ以降、悪魔自体を不倶戴天の敵とし、交渉自体を行う事が禁忌となり、崇拝しようものなら魔狩人といった物騒な輩に浄化されることとなったのじゃ。

 ここまでは、魔力溜まりからできる”迷宮”。

 ここからは”迷宮”という範疇に値すると認定された地域についてじゃ。

 ”緑肌”や、”不死者”は”迷宮”以外にも存在する。街道を通っていても、はぐれ”緑肌”などが出てくることがあり得るし、盗賊に殺された者共が成仏できずに”不死者”となることもある。

 今のところ、”悪魔”が自然発生し、”迷宮”と判定されるような事は生じてはいない。

 ”迷宮”と判定される例としては、森や平原で大型の狼の魔物や、竜が住み着いたりする事などがある。それが存在することで眷属などが増え、脅威になることのじゃ。

 そのため、”迷宮”扱いとして注意を呼びかけるのじゃ。ただ、自然発生している魔物は、前年の天候によって個体数が増えたり、食糧が足りなくなることで”迷宮”指定の範囲から出てくることがある。

 その為、定期的な間引き作業として冒険者の収入の一端となっていると言えた。

 こう言った土地は、開放できれば遠征軍を手配した領主や貴族、そして徒党の頭目にある程度の土地を与えた上で所属する国の領地となることが殆どじゃ。

 そうやって、貴族となった冒険者も存在する。

 成り上がりとしては、最高の物と言えような。

 ハルベルトには近辺に、管理している”迷宮”が二つ、そして”迷宮”扱いとされ、未開拓となっている土地がいくつか存在しており、冒険者として名を上げる機会が多そうであるというわけじゃな。


「なるほど。そう考えると、確かにハルベルトは条件が良いですね。辺境伯都でもあるので人の流通は多く、仕事も多い。人材も探し安いでしょう。」


「そうなると、”徒党”を組むためにも実績の積み上げ、人材の確保、運用資産の手配、拠点の確保、各々の実力の強化……ってところがボク達の課題かな?」


 フィーリィがうんうんと頷いてくれておる。それにルナが今現在の課題をピックアップしてくれるとは!

 おお、本当にこのメンバーは得難いな!


「じゃ、そこらへんは改めて仕事を終えてからもう一度話そうぜ?それよりも、あたしはアイルの秘密ってのを聞きたいなぁ」


 ピッピがニヤニヤした目でアイルを見ておる。

 フィーリィもルナも気になるのか、チラチラっと視線を送っておるな。

 さて、ここからが本番じゃ。気を引き締めて話さねばな。


「おっほん!我の秘密はここまでじゃ。改めてアイルの秘密じゃが……アイル、我が言ってかまわんか?」


「……バーバラに任せた。」


 おお、一任か。信頼してくれておると考えよう。

 アイル以外の三人に視線を配り、顔を寄せるように手招きをする。

 それに合わせて顔を寄せてきたので、小声で言ってやったのじゃ。


「アイルはな……”両性具有フタナリ”なのじゃ。」


 その言葉に、三人が一瞬固まったのがわかる。

 そして、三人ともにアイルを見ておるな。


「……”両性具有”ってことは、その、なんだ?……下に生えてるってこと……だよな?」


「……それほどの体格と技術と知識を持っていて、”両性具有”となると、商家か貴族の出身ですね?」


 ピッピが率直に聞きおったな。まぁ女であれば、気にはなるものじゃしな。チラチラっと興味津々な目を向けておるわ。

 フィーリィは流石の目の付け所じゃの。”両性具有”は、今も生じる理由がわかっていない事の一つ。そして、偏見が根強いのも特徴じゃ。故に、平民の身であれば……まぁ良くて捨てられ、悪くて悪魔として殺されるというところじゃろうからな。

 ルナは……恥ずかしがるように顔を伏せて……ちらちらっとアイルを見ておるな。あからさまに頬も赤い。いやぁ可愛らしいのぉ。

 アイルは三人の顔をしっかりと見た後、強く頷いてみせた。

 まぁ、その質問はどっちもあっておるしの。

 さて、我が答えるとしようか。


「二人の質問には、我が答えよう。」


 我の言葉に、三人が顔を向けてきた。アイルは瞑目しながら、待っておる。……信じてくれておるんじゃな。ありがたい事じゃ。

 では、その信頼に改めて答えんとな。


「まず、アイルの本名はアイル・コンラート・フォン・ベルンシュタインという。ベルンシュタイン家のコンラートの子のアイルじゃな。この国の北方を守護する辺境伯家の三男じゃ。それ故に、”両性具有”だとしても、平民よりはマシな待遇だったと言えよう。」


 アイルの生まれた家について口にしたところ、三人とも改めて驚きおった。

 まぁそうじゃろうな。我にアイルと、それなりの地位の生まれの者が同じ一党に所属することなど、確率は相当低くなる。

 さて、驚いてるところ申し訳ないが続きを伝えねばな。


「アイルの母親は側室でな。ベルンシュタイン家が付き合いのある鬼人族の部族、三つあるうちの一つの部族の族長の娘だったそうじゃ。ベルンシュタイン家、引いてはこの国との友好のため、婚姻をしたわけじゃな。その結果、生まれたのがアイルというわけじゃ。」


 一区切りするように、杯に手酌でエールを注ぎ仰ぐ様に口にした。いやぁ、ぶどう酒も良いが、喉越しはやはりエールの方が良いな!

 口元を拭い、三人の顔を見回した後、続けるぞと言ってから続きを口にした。


「先ほど、三つの部族があると言ったな?そのうちの一つとは婚姻をした。そこまではいいじゃろう。じゃが、他の部族はどうじゃ?その二つの部族も『我も、我も!』と思うのは必定じゃ。そこで上がったのが、その二つの部族の部族長の娘……アイルの幼なじみじゃな。その二人との婚姻じゃ。順当に行くのであれば、当主であるアイルの父、もしくは継承権の近い長男か次男が娶ることになるじゃろう。それを何とかするために、冒険者となった。それがアイルのきっかけじゃ。」


「……アイルは、その二人を娶るつもりなのかな?その二人は、それを望んでいるのかな?」


「……恋物語でもあるだろう?小さい頃にした約束だ。望んでるかは……わからない。……俺が”ただの”男か女だったなら、そんな話にはならなかっただろう。男であれば、父に名乗り出れば良い。女であれば、俺自身が同じ様な立場になる。以前の問題だ。しかし、俺は”半端者”だ。そのどちらでもない。であれば、あの二人が、俺以外の相手に組み敷かれている姿は見たくない。父や兄二人に意趣があるわけじゃない。俺の望みを叶えるにはまわりを納得させるだけの実績をあげねばならない。……そういう事だ。」


 我の言葉で、アイルのきっかけを伝えると、ルナがハッとした表情を浮かべながらアイルへ声をかけた。娶るとは我は言わなかったが、まぁそう考えるわな。それよりも、望んでいるのかどうかを確認するとは、我でも思いつかなかったわ。

 それに対するアイルの答えも、また凄いのぅ。

 ……自分勝手ではあるが、ここまで思われるのも冥利に尽きるものじゃろうなぁ。


「……アイルの事情は把握いたしました。他にはございませんか?」


「ああ、これ以外はないぞ。」


 フィーリィがアイルの発言の後、締めくくる様に口にしてくれた。いやぁ助かった!ちょっとこの雰囲気の中、話を進めるのは躊躇してしまったからの。

 これ以外はないということを口にしてうなずくと、アイルもまたうなずいて見せた。


「では、今の話を元にですが、今後の事を話しましょう」


 フィーリィ、お主、ぐいぐい来るのぉ。


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一人称視点をテスト。

もうちょいスムーズに書けるようになりたい・・・。

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