其の二.召喚準備ノ心得

 神秘的な音楽が流れたかと思うと、僕達は白い空間へと飛ばされていた。

「どこだ……ここは」

 見渡す限りの白銀の空間。僕の隣には小雨と愛穂の姿があった。

「ようこそおいで下さいました。私、異世界転移をするにあたってのアシスタントを努めさせていただきます。ナビゲーションシステムス【NR13番】と申します。どうぞお見知り置きを」

 そんなことを言いながら、でかいモニターが出てきた。

「うゎ! なんだこいつは!」

 4Kテレビのような見た目をしているが、横からは腕のような物が生えていた。

「まずは、皆さんに説明をさせていただきます。皆さんを召喚する目的です。単刀直入に申し上げると、皆さんには戦争を止めて頂きたいと思います」

 唐突に不可能な事を言われて困惑する。

「ちょっと待ってね。状況が理解できてないのよ」

 そう言いながら愛穂は頭を抱えている。

「まず、戦争がなくなることはありえない……。私たちも努力はするけど……。一部の人間の思惑に乗せられて、戦争が始まる。だから、私たちがどうこうしたからって……変わらない者は変わらない」

 僕も小雨と同意見だ。なんとかして、元の世界へと戻りたい。だが、その望みは簡単に壊された。

「貴方達はもう、元の世界に戻ることはできません。あなた達が日本で暮らしていたという情報はあなた達だけが持っているということです」

「ん?ちょっと待てよ……つまり、僕達は、結局のところ、異世界召喚されないといけないということか?」

「そうですね」

当たり前のように返答してくるが、とんでもない事を言われている。

僕が頑張って築き上げた今までの人生は全て無駄になったということか……。

「どう足掻いても、戻れないの?」

「はい。もし、貴方達が日本に戻ろうとすると、そこには存在していない事となっている存在の出現による『陰ながらの世界の混乱』が生じるでしょう」

(すごい難しい話を淡々と話されている感覚だな)

僕はため息をつきながらモニターに語りかける。

「わかった。足掻いても戻れないと言うのなら、もう諦める。だが、お前には僕達が安定した生活を送れるように支援する義務があるんじゃないのか?」

「その通りです。では、話がそちらに向きましたので、チャチャっと終わらせてしまいましょう」

 モニターがそう言うと、僕達の目の前にタブレット端末のような物が飛び出してきた。

「それでは、アビリティーを選んでいただきます。アビリティーとは、全人類が持っている特殊な能力です」

「いわゆる、俺TUEEE系のチートスキルみたいなかんじか?」

「あながち間違いではないですね。チートスキルのようにメリットばかりではないですがね」

 僕は「ふーん」と言いながらあるアビリティーを見つける。

「これとか、いいんじゃないか?

『ビルド』…自身の周りにある物を使って新しい物を作り出す事ができる。デメリットとして、発動に時間がかかり、連続して使えない」

僕は、選択ボタンを押そうとする。

「そうだ、思い出した!天露琴羽さん、貴方のアビリティーはこちらです」

モニターがそう言うと、僕のアビリティーは『アニマル』と言うアビリティーになっていた。

『アニマル』…動物と喋る事ができる。デメリットなし。

「弱くね!」

「気にしてはいけません。アビリティーは時と場合で強さが変化するので」

「でも、これは戦闘に関係ないでしょ!」

 僕はため息をつきながら小雨の方を見る。

『ウェザー』…天候を操作、複合できる。デメリットは疲労感が襲う事。

「おかしくね! 小雨は強いじゃないか!」

「おにぃー。うるさい」

「ちょっと、小雨さん?」

「はい」

 僕は体を縮めて床に尻をつけた。

「ドンマイ!」

 愛穂は慰める事が下手くそすぎる。彼女の慰めは、けなしにしか聞こえない。

『ビルド&プログラム』…ビルドのアビリティー能力とプログラムの能力を掛け合わせた物である。プログラムとは、感情を持たない、いわゆる物質に指令を噛み込む事ができるアビリティーで、デメリットは酷い空腹感に襲われる事。

(もう、なにもツッコマない)

涙を流しながら、僕は立ち上がる。

「お疲れ様でした。さて、安定した生活のための下準備はおしまいです。生活に必要な家や家具などは、そのまま転送しますので、頑張って下さいね」

 モニターはニコニコと笑っている。

「ちょっと待てよ。情報発信装置みたいなのはないのか?」

異世界を生き抜くには絶対に“情報”が必要になるだろう。

「発信装置? あぁ、これでいいですか?」

そう言って、モニターは変なチップのような物を取り出してきた。

「Micro-USB?」

「これはそんな言い方をされているんですか? まぁ、そんなことはどうでもいいです。

スマホを」

僕は困惑しながらも最新型iPh○neを取り出す。

『データをアップロードしたよ!私はナビゲーションシステムのナビィーと申します』

そんなことを言いながら僕のスマホがビョンビョンと飛び跳ねている。

「可愛い」

 小雨がボソリと呟いた。

「そうか?」

「可愛い」

 愛穂までもがそう言い出した。

「じゃあ、可愛いってことでいいよ」

 僕は訳の分からない“可愛い”が入ったスマホをモニターから受け取る。

『データをアップグレード。天露琴羽…マスター。天露小雨…マスターの兄弟。河原愛穂…マスターの彼女』

「違うわ!」

僕は速攻で否定する。

『そうですか?じゃあ、大変かも知れないですね』

「それは……どう言うことだ?」

 僕の質問を無視してモニターが話しかけてきた。

「転送の準備が整いました。心の準備はいいですか?」

「「「大丈夫」」」

僕達が声を合わせて言ったのをみてモニターがカウントダウンを開始した。

「転送まで3…2…1」

白銀の世界はバキバキと割れて僕達は暗闇の奥底に吸い込まれた。

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異世界生存ノ心得〜survival in a daze〜 世も末コウセン @kota3383

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