5-06

「な、なな、ナクト師匠!? それじゃもう、全部見えちゃ……へっ!?」


 レナリアが危惧を口にするも、見えているのは、上半身のシルエットくらい。


 マントを脱ぎ捨てたナクトの体から、膨大なエネルギーが迸っていた――その輝きは、もはや黄金。見た目以上に分厚い鎧の如きオーラに、《闇黒の女神》は。


『ッ……な、なんだ、その、マントの下は――見えぬ!? 深淵の底すら見通す妾の眼をもってしても、まるで見えぬ!? なんなのだ、そのっ……神の如き光は!?』


 見えなくて良かったね、と思わなくもないが。

 ナクトは、身に纏った莫大なエネルギーを解き放つべく、すう、と深呼吸し。


「いくぞ――《世界連鎖ワールド・チェイン》――」


 それはレナリア達も、初めて聞く、初めて見る力――ただ、黄金に輝くナクトの体から発射されたのは、一直線に奔る炎の波。

 闇黒の破壊エネルギーと、炎の波が押し合うも、敵うはずもなく。


『ふ、ふふっ……あんな大口を叩いておいて、その程度か! やはり人間如きが、《神》たる存在に盾突くなど滑稽――!』


「――《世界連鎖》は――《世界》に存在する〝異なる属性の力を連鎖させる〟能力。さあ、まだまだ行くぞ――!」


『……そ、そそ、そんな力……ありえないっ……ありえないわっ!』


 だが、続けてナクトの体から放出されたオーラは、〝火〟とは別の力――それを見たレナリアが、声を上げた。


「!? あ、あれは、炎の波に……旋風が――!? 〝火〟と〝風〟の――二属性!?」


 炎の波を煽るように、吹き荒れる旋風――だが、更にリーンが叫ぶのは。


「いいえ……まだですわ! あれは、〝水〟の激流―――これで、三つ!」


 かつて、《光の聖城》から《水の神都》まで遡ったような〝水〟の激流が、既に暴れ狂う〝火〟と〝風〟を押し上げた。


 暗黒の破壊エネルギーと、ついに拮抗して押し合う、《世界連鎖》により組み合わされた〝多属性砲〟に――エクリシアが、もう一声――!


「……四……!」


 ナクトの下方から、〝地〟が轟き天へと向けて逆流し、〝火〟〝水〟〝風〟を支えるように固めていく。

 そして最後に、ナクトの黄金色のオーラから――《闇黒の女神》が創り上げた〝闇〟とは対照的な、一筋の閃光が射出されると。


 レナリア、リーン、エクリシアが、三人ぴたりと、声を揃えて――!


「「「Go――――ッ!!!」」」

『う、うそ、待っ、な、なに……なにこれーーーっ!?』


 全てを破壊する〝闇〟のエネルギー砲を――〝火〟〝水〟〝風〟〝土〟〝光〟、総ての属性が集まった《五大属性砲》により、押し返される。


 己自身が発動した〝闇〟の力ごと、《闇黒の女神》が、極大のエネルギーを受け止めながら苦悶する……が、しかし。


『……ふ、ふふふっ……憐れな人間達よ……妾を倒し、いい気になっているが良い……この《世界》を本当に滅亡させるのは……《魔軍》でも、妾でも、ない』

「!? な……ど、どういう意味ですか!?」


 ナクトの背後から、レナリアが慌てて問いかけると、《闇黒の女神》は答えてきた。


『妾が《魔軍》などを率い、わざわざ南へ侵攻させたのは――目的が《神々の死境》にあるからだ。忌々しき彼の地に封印されし、《闇黒の破壊神》……あの御方を復活させる事こそが目的。貴様らは、僕たる妾程度を倒し、いい気になっているに過ぎぬのよ』


 これほどの戦いが――まさか、まさか前座に過ぎなかったとは。

 衝撃の事実を語り終え、《闇黒の女神》は高笑いし、そして。


『ふ、ふふふっ……あははははっ! そうだ、絶望せよ、人間共! 妾はその絶望を肴に、遥か天涯でおまえ達を笑い飛ばしてあげるからっ! あーっはっはっは』


「その《闇黒の破壊神》とかいうの、俺が《神々の死境》にいた時、ぶっ倒したぞ」


『んもうっ! ……え、ええい、嘘を吐くな! 黙れ、もう黙れ! お願いだから!』


 何だか《闇黒の女神》が可哀想になってきた。今もエネルギーに炙られ続けているし。

 でもまあ、呆然とするレナリア達にも、情報を正確に教えてあげなくちゃな、とナクトは最後まで説明する事にした(親切)。


「いや、本当だ――《神々の死境》のかなり奥地で、なんか『世界ヲ……滅ボス……』とか言っているヤツがいたから、思い切りぶっ倒した。俺の唯一の一張羅を滅ぼされちゃ、堪ったもんじゃないしな。『我……《闇黒の破壊神》ナノニ……』とか泣きながら沈んでいって、何の力も感じなくなったし、もう出てこないんじゃないか?」


『――――――』


 絶句する《闇黒の女神》、しかしそれでも、まだ(頑張って)信じようとしない。


『……そ、そんな訳、あるか……そ、そうだ、証拠も何もないのに、信じられる訳――ちょっと待て。……おまえ、それ……その、投げ捨てたマント……おいそのマントォ!』


「ん。ああ、そうそう、このマント――《闇黒の破壊神》とかいうのをぶっ倒した時に、もらったんだった。俺は《世界》を装備しているから、どんな服も着れないんだけど……このマントだけは、壊れないんだよな。そういう意味では感謝しているよ。まあ〝破壊神なのにマント壊れないんだな……〟とは思ったけど」


『――――――』

「「「………………」」」


 二度ふたたび絶句する事になってしまった《闇黒の女神》さん、レナリア・リーン・エクリシア(兜の下)も、何だか気の毒そうな顔をしている。


 どうやら、《闇黒の女神》が目的とする、大ボスどころか裏ボスのような存在も倒していたようだし――最後まで仕事をやりきるべく、ナクトは改めて力を籠め。


「というワケで……これで、最後だ。一思いに、終わりにしてやるからな」

『……もう……』


 今も〝五大属性+闇〟のエネルギーを喰らい続けている、《闇黒の女神》に。


「見よ。これは、道。五つの力を束ね紡いだ、一筋の道。この、ただ一撃を――

《世界》の一撃を導くために創られし、大いなる道――!」


 黄金のオーラを身に纏うナクトが、自らの放つエネルギーの波に、飛び込むと。

 刹那――ナクト自身が光の矢と化し、一直線に放たれ――!


「《世界連鎖》――〝五大連結〟! 《滅神ディ・アルティメット》―――!!!」


 その右手に《世界》を纏いし、大いなる拳を、ぶちかました――!!


『……もう、もうっ――わらわ、おうち帰るうううううっ!』


 悲痛な叫び声を残し、究極の一撃にぶっ飛ばされて――《終わりの地》から更に終わりの彼方まで、飛ばされてしまった。


 今この瞬間――今こそが、人類が、《世界》が、救われた瞬間――なのだが。

 遥か彼方の空から、ナクトが帰還してくると……最後に放った一撃で、ナクトを覆っていた黄金のオーラは、消えてしまったらしく……消えてしまった、訳で。


「や、やりました、倒し――えっ。……は、はわわ、ナクト師匠ーっ!?」

「ふう、一時はどうなる事、か……――!? ナクト様、やりましたわ!(意味深)」

「!? ッ、ッ……極……ッ!?(※▽×□§〇♥)」(解読不能)


 レナリア、リーン、エクリシア、計三名――……〝別のところ〟に注目しており、誰一人として、〝世界が救われた瞬間〟なんて、見てさえおらず。

 後に三人は、こう語る。彼は、ナクトは、確かに。



《最強》―――《最強全裸》でした、と―――



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