3-08 ★章ラスト

「と、とにかく……わたし、変わりたいんですっ……ナクトさんみたいに、あんなに強くても、孤独じゃない……そんな、風にっ。ナクトさんと、一緒にいれば……変われると、思うんですっ。わたし、なんでも……なんでもします、だからっ」


 兜を脱いでから、エクリシアはずっと恥ずかしがっているのか、ほとんどナクトと目を合わせようとはしていなかった。

 けれど今、ナクトの手を小さな両手で握り――上目遣いで、見つめ合い。


「お願い、しますっ……わたしを……エクリシアをっ……

 ナクトさんと、一緒に……いさせて、くださいっ……!」


 滑らかな頬を朱色に染めて、瞳を潤ませながら、懇願してくるエクリシア。

 あれほど自信なさそうだった少女が、目を逸らそうともしない。

 それだけの決意、強い覚悟を感じて、ナクトが出すべき答えなど、一つだけ。


「わかった。俺と一緒にいて、変われるかどうかなんて、俺には分からないけど。

 エクリシアが望む限り――俺はエクリシアと、一緒にいよう」

「! な、ナクトさん……ナクトさんっ!」


 目尻から涙を切らせつつ、初めて浮かべる笑顔と共に、エクリシアが飛び込んでくる。飛び込んできても、ナクトの胸元で顔が止まってしまう辺り、本当に小柄だ。


 何だか本当に小動物みたいだな、とナクトが思っていると、エクリシアは真っ赤になった顔を押さえながら慌てて離れる。


「わ、わ、わたしったら……い、いきなり抱き着いたりして、うぅ~……は、恥ずかしい、ですっ……」

「ん、そうか? 俺としては、ずっと抱き着いてくれても、構わなかったぞ。全く重くもないし、純粋に可愛かったし」

「ふゃっ……も、もおっ、ナクトさんったら……変なこと、いわないで……ぁぅ」


 ナクトとしては、裸の心で正直に述べただけだが、照れる反応も和んで良い。

 微笑ましく思うナクト……だが、エクリシアの心中は。


(……ナクトさん、わたし……あなたで、よかったです。わたしの、兜の下の、素顔……見たのが、あなたで。……だって)


 自身の胸元で、きゅっ、とエクリシアは片手を握る。


(代々戦士の一族である、わたしの家の、家訓……《地神の重兜》に選ばれた娘は……初めて素顔を曝した男性に……生涯を、捧げなければ、ならないんです……でも)


 口元を緩めるナクトの顔を、エクリシアは、こっそりと見つめながら。


(ナクトさんは、こんなわたしと――『一緒にいよう』って、言ってくれた――わたし、強くなりますっ。ナクトさんと並び立っても、恥ずかしくないように……そうっ)


 小さく幼気な両手を、ぎゅっ、と握って、エクリシアが心の中で誓うのは。


(ナクトさんを開祖とする《流派・全裸道》を、支える女として――!

 夫婦となって……一緒に流派を、盛り立てていきましょう、ねっ……!)


 また新たな肩書が付与されているし、夫婦認定されているしで、何だかもう。

 ちなみに、ナクトに素顔を見せた以上、他者に素顔を曝す事に制約はなくなったが。


「あっ、でもでも、わたしっ……ナクトさん以外の、男の人には……素顔、見せませんからっ……(み、操を立てます……きゃっ)……あ、安心してくださいねっ……?」


「? そっか、何かよくわからんが、特別感あって嬉しいな。ははは」

「は、はいっ。だって、ほんとに、特別……ですからっ♪ ……えへへっ」


 言葉足らずゆえに、大事な部分をスルーし続けている、そんな気はしたが。

 何にせよ、エクリシアは、幸せそうに笑うのだった。


 ■■■


 翌朝、ナクトは新たな仲間であるエクリシア(フル装備)を、レナリアとリーンに紹介した。突然の話に、レナリアは戸惑っていたが。


「え、えーと、まず《剛地不動将》さん……いえ、エクリシアさん……女の子だったのですね。そこからビックリですが……でも、仲間になってくださるのは、心強いですっ」


「………ウム」

「……言葉足らずとも、聞きましたけれど……慣れが必要そうですねぇ……」


 レナリアは心配そうだが、ナクトは軽めにフォローに入る。


「いや、そうでもないぞ。確かにエクリシアは内気で、言葉少なだけど、内心はすごく素直な子だし。そうだな、例えば――」


 ここから、ナクトが〝世界的感性〟で察した、エクリシアの〝本音〟を交えた話を聞いてみるとしよう。


「二人、トモ……未熟者(あ、あの、お二人とも……わたし、全然弱くて、内気で頼りない……未熟者ですけど)」

「完全に罵倒にしか聞こえてなかったのですけれど。ナクト師匠、本当なのですかナクト師匠。いえ信じますけれど、でもですね?」


「……ヨロシク(精いっぱい、がんばりますから……これから、もっともっと、精進しますからっ。至らぬ点ばかりで、お恥ずかしいですけど……今後とも、どうか……よろしくお願いしますっ。あ、わたしのことは、気軽にエクリシアと呼んでくださいね)」

「〝ヨロシク〟一言にかける負担がすごいです……! お名前の呼び方とか、そのままだと絶対に伝わってきませんよ……!?」


 なかなか先行きは大変そうで、煩悶するレナリア。

 リーンはといえば、「まあまあ♪」といつものようにマイペース。

 そして――グッ、となぜか親指を突き上げ、やり切った感を出してくるエクリシア。


 ユニーク、という一言で済ませてしまって良いのか、分からないが。


 こうして――〝世界を救う〟ため、《魔軍》に抗う仲間達が、揃ったのだった。

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