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「レナリア。恐らく、キミの言う通りなんだろう。俺の〝装備〟が、俺に〝最強の力〟を与えてくれる。だからこそ――俺がこの程度の魔物に負けるコトは、ありえない」

「え……えっ!? ナクト殿は、何か装備を身に着けているのですか? では……そのマントの下に!? さ、最強だなんて、一体どのような凄い装備を隠してっ……!?」


 レナリアが目を輝かせている間にも、無尽蔵に湧いて出てくる触手を、ナクトは炎の剣で軽々と斬り払いながら言った。


「隠しているつもりなんて、ない。レナリアも、見ているじゃないか」

「見て、いる? え、っと、私にはマントくらいしか……あっ、まさかそのマントが、ナクト殿の言う〝最強の装備〟ですか!? 確かに何だか、神々しいような……!」

「いや、これはただのマントだ。俺にとってはな。……まだ、分からないか?」


 ナクトが問いかけると、レナリアはただでさえ大きく円らな目を皿のようにして、目を離さず観察する――が、やはりナクトの装備の正体は、見えていないらしく。


「う~ん、う~ん、隠していないのに、見えない……な、難解な謎かけでしょうか……そもそも、マントを羽織っているのでは、分かりませんよう……う~ん」


 うんうんと悩み続けるレナリアの様子が、ナクトには何だかおかしくて、軽く失笑した――が、ここは人類不可侵の危険領域、風向きは突如として急変する。


「ナクト殿は、一体どんな装備を……え? ……ひっ!?」


 呑気とさえ言える様子で悩んでいたレナリアが、短い悲鳴を上げた。

 無理もない、彼女の視線の先には、新たなローパーが――深い森の奥から染み出してくるように、何と十数体も現れたのだから。

 触手の数を合計してみれば、優に百本は超える。おぞましく蠢く触手達に、レナリアは再び顔を青ざめさせ、柔らかそうな唇を恐怖に震わせた。


「あ、あんな恐ろしい魔物が、こんな、沢山……こんなの、ど、どうすれば……」

「―――来る」

「え、な、ナクト殿? 来る、って、それは今、ローパーの大群が……――ぇ」


 怯えるレナリアが、ナクトの言葉の真意を知ったのは、この直後。

 それはあまりにも、突然に、無慈悲に、飛来した――風を巻き上げ、上空から着地すると同時に、兇悪な獣牙でローパー達を紙屑のように引き裂き、喰い散らす。


暴牙獣タイラント》――危険領域に住まう桁外れの魔物達の、更に上位に君臨する、〝魔物の中の暴君〟。獣毛は一本一本が鉄の硬さ、その下の皮膚は鋼鉄同然。彼の者の暴虐を象徴するのは、大剣の刃を彷彿とさせる、二本の巨大な獣牙。


 後から現れたローパーの大群は、この《暴牙獣》から逃げてきたのだろう。結局は、逃げる事も叶わず、触手の一本も残さず引きちぎられてしまったようだが。

 ただ、その場に居合わせた人間は、不運でしかなくて。


「あ、ああ、ぁ……やっ――」

『――――!!』

「! ……ぁ……ぅ」


 牙を剥き出した《暴牙獣》の、形容できない咆哮は、落雷にも似て――ぺたり、レナリアはその場に、へたり込んでしまう。

 もはや抗う気力さえ起きないのだろう、圧倒的な絶望感に俯くレナリアに――けれどナクトは、ナクトだけは、常と変わらぬ平静な声音で、言った。


「レナリア、俺は言ったな。俺の〝装備〟が、俺に〝最強の力〟を与えてくれる、と。まだ分からないのなら――今、はっきりと、見せてやる」

「……ぇ……? な、ナクト、殿……?」


 光を失いかけたレナリアの眼に、微かな輝きが残り、堂々と立つナクトに注目した。

 もはや暴虐の牙は、ナクトの目と鼻の先にまで、迫っている。

 にも拘らずナクトには、恐怖も動揺も、微塵もない。


『―――――』


 嵐の前の静けさか、しん、と風さえも止み、木々が呼吸を止めると。

 ついに《暴牙獣》が、ナクトへと躍りかかっていく――!


『――ボオオオオオッ!!』


 ローパーの屈強な触手さえ、容易に引きちぎる、暴虐の牙を前に。

 ナクトは退きもせず――逆に両手を広げ、マントを大きく開け放ち――!


、俺の敵だけを焼き尽くせ――《万象滅炎陣ワールド・バーン》――!」


 それは、天をも焼き尽くす、紅蓮の火柱――踊り、荒れ狂う、灼熱の炎舞。

 百を超す触手の群れが、ただの一瞬で焼き尽くされ、灰燼と化した――!

 それほどの炎を放ちながら、ナクトの制御により、敵対者以外に火の手は及ばない。

 後に残ったのは、両手とマントを大きく広げる、ナクトの堂々たる立ち姿のみ。


「う、うそ……あんな、とんでもない怪物を、一瞬で……す、すごい……すごいですっ、ナクト殿! ああっ、ナクト殿は一体、どんな装備をっ――!?」


 そして、ついに明かされた、彼のマントの下を目視した、レナリアは。


「どんな、装、備……をっ?」

「と、まあ、こういうコトだ。分かったか、レナリア。……レナリア」

「………………」


 レナリアは、大きく目を見開き、完全に硬直し……数秒後。


「……~~~……きゅうぅ………」


 ぱたり、気を失い、地に横たわってしまった。

 そんな彼女を見て、ナクトは心配しながらも、すぐに状況を把握する。


「レナリア……そうか、危機が去って、張り詰めていた気が緩んだんだな。きっと、疲れが一気に出たんだろう。仕方ない、安全な場所へ連れて行くか。よいせ、っと」

「ぁぅっ。ぅ、あぅ……な、ナクト殿の、マントの、下……ぜ、ぜ、ぜ……きゅう~」


 ナクトがお姫様だっこしてやると、彼女はよほど疲れているのか、うなされるように声を漏らしていた。一刻も早く介抱してやらねば、とナクトは。


「よし、行くぞ――とうっ!」


 ここへ来た時同様、一瞬にして、その場から姿を消した。


 ――ナクトが実際に見せつけた、桁外れの実力。

 そしてレナリアが〝見たまま〟の事実を、言葉にするならば。


 ナクトの言う、〝最強〟の――〝最強の装備〟とは――




〝全裸〟―――〝全裸〟でした―――………


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