胴体はレイアウトが大事?(2)

 黒と茶のまだらの耳がピンと立って主張しています。自慢したい時のギナの癖。ぼくは聞き役に徹しなくてはいけないでしょう。


「レリは誰かを殴る時、どこを狙うの?」

「殴りませんけど」

 当たり前のように訊かれてしまいますが答えようがありません。

「想像するの! 格闘技を思い出すの!」

「怒らないでください。やっぱり頭を狙いますよね。手っ取り早いでしょうから」

「そうなの。脳が収められている頭を狙うと戦闘不能にしやすいの」


 人体の中でも重要な器官が集中している場所でもあります。そこに大きな衝撃を受けた場合、昏倒する可能性が高まりますね。


『人は知識として急所であると知っています。ですので攻撃する場合も無意識に頭部を狙う可能性が大きくなるのです』

 意識の問題だとファトラも主張します。

『反射行動ゆえにな、馬鹿にはできぬぞ、主よ』

「そんなものですかね、ラノス」

人工知能アテンドの意見には素直に耳を傾けるの」

 そのために人類ヒュノーが生み出したパートナーですもんね。

「だから、つい狙ってしまう。そこにコクピットを置くのは愚だとギナは言うんですね?」

「なのなの」


 戦闘可能なロボットを造るのに、一番危険が高い場所に乗る構造にはできないのでしょう。それで胴体の内部にコクピットを配置するという流れなんですね。


「センサーも集中する構造上、装甲厚をとるにも限界があるの。重要な部位ではあっても、失われたら致命的な部位にはできないの」

 彼女の中で頭部とはそういう意義を持つ場所のようです。

「それに頭だからぐりんぐりん動くの。そんなところに乗ってたら『おえ!』ってなるの」

「ああ、それは間違いありませんね」

「なのー!」

 とんでもない乗り物酔いになりそうです。

「比較的揺れない胴体が望ましいの」

『もっとも装甲を強化しやすい場所でもあります。安全性を鑑みれば順当かと思われます』

『非常時の脱出機構も設けやすくなるであろう』

 ぼくを除いて皆賛成のようですね。


 議論はどこにコクピットを配置するかの方向へと流れていきます。胴体配置は決定したみたいなので、ぼくにも異論はありません。


「一番揺れないのは腰近くになるの。股関節の上あたりが計算上揺れが少ないの」

 おや、彼女は乗り物酔いに自信がないのかも?

『しかし、そこは昇降設備が設けにくいのではないか? 構造上、可動機構をとらねばならんはずであるが』

「ラノスの言う通りなの」

『では、背部であれば昇降が容易になるのではありませんか? 胸部装甲を十二分に施せば安全性は担保されます」

 話は使いやすさと安全性へと変わっていきました。

「背中には推進装置を取りつける予定なの。そこから乗り降りするようにはしたくないの」

『そうでしたか。浅慮でした』

「いいの。意見を出し合うのは大事なの」


 議論は案外過熱してきました。

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