第5話 新しいお友達
「やったー! 終わった!」
よーし、片付けたぞー。今日はもう帰る! 久々の定時上がりだ。
「立川さん、お疲れ様です。私はもう少し残業しますので」
「南ちゃん、無理しないようにね。それじゃ!」
もうルンルン気分だ。帰ったらレンくんと遊ぼう!
――
「さてさて、最寄りに着いた着いた」
ここからは歩いて家に帰るだけである! と、暫く歩いた先の神社から猫らしき鳴き声。これは……ケンカしてる鳴き声? ちょっと気になるから見てみると一匹の猫が多数の猫に囲まれている。うーん、野生の戦いに介入するのは良くないんだけど……やっぱり不利になってる方を助けたい。
「こらー!」
ズケズケと猫の間に割って入る。すると囲んでいた猫は散り散りに逃げていった。だが果敢にも一匹で戦っていた猫はその場に残り……
「シャーッ!」
「大丈夫だよ〜。悪いことはしないからね〜」
「フーッ!」
完全に警戒してるなぁ……んー仕方ない、アレを使おう。細長いパウチに入った猫のおやつで釣れるかな?
「ほ〜ら、おやつだよ〜」
なるべく近くでフリフリする。どうだ?
……寄ってきた!
「あ〜、いい子だね〜。ん?」
よく見るとこの子、前足を怪我してる。手当てできるかな……と、思ってたらおやつがなくなった。これは逃げちゃうか?
「ニャッ!」
一言残して茂みに消えてしまった。あの怪我、大丈夫かなぁ。とにかく帰ろう。
――
「なーんてことあったんだー」
「へぇ、その猫さん、すごいね。ボクだったらすぐ逃げちゃうな」
帰ってきてからレンくんとレースゲームをしつつ、あの猫の話をする。それにしても外はいきなりの雨だ。
「けがしてたんでしょ? この雨、大丈夫なのかなぁ……」
「うん、お姉さんもそれは心配」
あの傷にこの雨は痛いはずだ。やっぱり無理にでも手当てするか家に連れてこれば良かったかな。
――ピンポーン
あれ? こんな時間に誰かな。宅配は頼んでないし……変な宗教勧誘じゃなきゃいいけど。
「はーい、どちら様ー?」
チェーンロックをかけたまま、ドアを開ける。ん? 誰もいない?
「おい! ここだ! おれはここだ!」
なにやら下から声がする。足元を見てみると……あら可愛い! ルビーみたいな赤い目の可愛い男の子だ!
「助けるなら最後まで助けろ!」
「……もしかしてあの時の猫さん?」
「そうだぞ! お前のにおいを追いかけたらここだった! 早く入れろ!」
「はーい、猫さまの仰せのままに〜」
こーんな可愛い子を放置なんてあり得ないよね! 急いで保護しなきゃ。
「む、ここがお前の家か。なかなか良いな!」
「あはは……人の家に上がり込んで第一声がそれかぁ」
「ご主人様〜、どうし……あれ? 新しい猫さん?」
「むむっ、先客がいたのか……」
「レンくん、この子がさっき言ってた猫さんだよ」
「へぇ〜!」
上がり込んだ新しい猫に警戒するでもなくただキラキラと目を輝かせるレンくん。対して新しい猫さんは警戒気味だ。
「大丈夫だよ、猫さん。レンくんは悪いことしないからね」
「ぬぅ、おれは別にこんな弱そうなやつ怖くないぞ!」
口ではそう言ってるけど少しビクビクしてるのは手に取るようにわかる。あ、そうだ、名前聞かなきゃね。
「ねぇ、猫さん、貴方の名前はなんていうの?」
「おれか? おれはリンだ! お前の名前は?」
「私は千尋、立川千尋っていうの」
「そうか、なら千尋よ。これからよろしくたのむぞ!」
「はーい。でもその前に……」
この子を保護するのは決定。しかしやらねばならないことがある。
「それじゃ、リンくん、お風呂にしようか!」
「なっ、なにをいきなり! おれは水場は嫌いなんだ!」
「だーめ、お風呂入らなきゃ汚いよ」
「い、いやだぁ!」
逃げようとするリンくん。それを……
「リンくん、お風呂入ろう? ボクも一緒に入るから」
「な、なんでお前が……くっ、離せ!」
レンくん、がっちりとリンくんをホールド。ナイス、レンくん!
「はーい、お風呂でキレイキレイしようね〜」
「う、うわわわ!」
お風呂へGO!
――
「じゃ、リンくんから洗うね〜」
「だったらご主人様はボクが洗うよ!」
「ぬぬぬ……」
まずはシャンプー。ちょっとロングめの黒髪を丁寧に洗っていく。リンくんは強がってはいるけど水に怯えてるのはわかる。華奢な体が小刻みに震えてるもん。しっかり声をかけながら優しく優しく洗う。
「はーい、流すよー。目、つむっててね」
「うぐ……」
流し始めた瞬間、ビクンッとはねるリンくん。ちょっと勢い強かったかな?
「……うう」
「怖くない怖くない。大丈夫」
「……いたい」
「ん?」
「いたいよぉ」
シャワーが終わってからさっきまでの威勢がまるでない声を出すリンくん。一体何が……
「ご主人様! リンくんの腕、見て!」
「腕……? うわっ!」
よく見たらリンくんの右二の腕の内側から血が流れ出している。ずっと腕を押えてたんだ……なんで気づかなかった、いや、さっきまで傷はなかったはずだ。むむむ、とりあえずそんなことはどうでもいい、手当てしてあげなきゃ!
「大丈夫、大丈夫だからね」
声をかけて脱衣場に出る。レンくんは率先して救急箱を取りに行ってくれた。まずは怪我の状態を……
「うう……はぁ、はぁ」
「っ! これは酷い」
二の腕の内側が血だらけだ。それに深そうな傷もある。消毒しないとマズいよね……
「ご主人様! 救急箱を……って、その傷……」
「レンくん、リンくんを押さえてて。多分暴れちゃうから」
「うん!」
私がうまいこと体格差で押さえつけ、レンくんが腕を確実にホールドする。後はタオルを咥えさせて……
「じゃあいくよ」
消毒液を染み込ませたガーゼで傷を拭う。
「ん"ん"ー! ん"ん"ー!」
「痛いよね。でもちょっと我慢してね」
明らかに暴れだすリンくん。かわいそうだけど消毒しないと後がマズい。消毒だけで済めば良かったけど洗わないといけない汚れもあったからそれも洗う。リンくんは暴れっぱなしだ。
――一時間後
「ふぅ、応急処置終わり」
「よくがんばったね、リンくん!」
三人ともヘトヘトだ。リンくんは特にぐったりしている。
「うう……いたかった。いたかったよぉ」
「よしよし。大丈夫だからね」
リンくんを抱きかかえてなだめる。威勢はまるでない。多分ずっと我慢していたんだろう。でもこの傷は専門家に見てもらわないとマズい。夜だけどまだやってるかな……ひとしきり全員着替えた後、電話をかける。
――Truuuu、Truuuu……
『もしもし、
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