第3話 レンくんとの出会い
ん? あれ、もう朝か。昨日は帰ってきてからお風呂に入ってすぐ寝たんだっけ。
外は生憎の雨、ちょっと強めだ。こんな日は初めてレンくんと会った日を思い出すなぁ。丁度一年前だったかな……
――一年前
「あーもー、なんでこんな時に限って」
仕事終わりの自宅最寄り駅午前一時、傘もないのに外は大雨、タクシーもいっぱいときた。走って帰るしかないなぁ。風邪ひいたら最悪だよ……
ダッシュで道を通り過ぎる。と、ごみ捨て場のごみの山から何やら猫らしき鳴き声。しかも弱っているような……
「……仕方ない、助けるか」
ごみを除けて鳴き声の主を探す。お、いたいた。うわ、相当弱ってる。
「にゃあ……」
ぐったりしながら私の方を見て小さく鳴いた。とりあえず家に連れて帰ろう。温めてあげなきゃ。
少しダッシュを早めて家に急いだ。
「はーい、にゃんこさ〜ん、まずは温まろうね〜」
体を拭いてあげて、落ち着くまで毛布に包む。その間にお風呂の準備だ。私も早く入らないと風邪をひく。お湯を張り終わったら一緒に入ろう。とりあえず私も服を脱いで体を拭いて新しいシャツを着てっと。
猫のそばに寄って見てみればその青い瞳が私をずっと見ている。そして小さく鳴き続けた。
「よしよし、大丈夫だからね」
おでこを撫でてあげると私の手を握ってきた。私を信用してくれてるのかな? 他の人間に酷いことされてたのかな……
そうこうしているうちにお風呂が沸いた。さぁ入ろう。
「にゃんこさ〜ん、お風呂だよ〜」
水場が怖いのか私にしがみつく猫。ちょっと震えている。とにかく温めてあげなくては。
「は〜い、あったかいよ〜」
洗面器に張ったお湯に猫を浸からせる。不安そうな顔はしているものの逃げたりはしない。丁寧に優しく洗う。そうしていると猫の顔はだんだんリラックスしているような表情になってきた。
「にゃ」
「気持ちいいかな〜はい、終わったよ〜」
綺麗になった。後は洗面器のお湯を張り替えて猫を浸からせ、私も体を洗う。その間も猫はおとなしく洗面器に浸かっていた。
「ふう、君、おとなしいね」
「にゃおん」
「ん? どうしたの? って、わわっ」
なんと猫は私の浸かっている浴槽に飛び込んできた。
「あはは、一緒に入りたいんだね」
「にゃあ」
しっかり抱き寄せて一人と一匹、長風呂を楽しんだ。
「よーし、上がろう。さ、猫さん、体をふきふきしましょうね〜」
脱衣場で猫を拭き上げる。小さな猫だ。今日は一緒に寝てあげよう。一応明日は休みだし動物病院にも連れていかなくちゃ。
――翌朝
「んん……」
朝の目覚め。さてあの猫は……あれ、あれれ?
「すぅ」
私の隣にいたのは小柄な少年。私の腕を掴んで離さない。まさか……と、思っていたら少年が目を覚ました。
「んん……あ、ボク、まさか……」
ちょっと焦りだす少年。あーホントにあったんだ、あはは。
「あ、あの、ボク……昨日助けてもらった猫です。信じてもらえないかもだけど……」
うるうるとした瞳で私を見る彼。私は反射的に彼を抱きしめていた。
だって可愛いんだもん!
「よしよし、何も言わなくていいよ。辛かったんだね。お姉ちゃんに甘えていいからね」
こんな可愛い子を目の前にして疑問も何もない。ただ抱きしめていたかった。
「名前は?」
「ボクはレンっていいます」
「そっか。ならレンくん、私のところにいたい? 私は大歓迎だよ?」
「うん。いい人そうだから……ボクをいじめたりしないよね?」
「もちろん!」
「じゃあ、お姉ちゃんがボクのご主人様になるんだ……えへへ、嬉しいな」
あー! 笑顔! 笑顔が凄い! これは守るしかない。これからの私の使命はレンくんの笑顔を守ることだ!
――
「なーんてこともあったなぁ」
雨音を聞きながらふと一年前に思いを馳せる。あの日から私の毎日は幸せの連続だ。仕事が大変なときもあるけど全部レンくんが忘れさせてくれる。
「むにゃ」
ギュッと抱きついてくるレンくん。あの日からずっと夜は二人で眠る。というよりは二人でなにかしている時の方が多い。猫は気まぐれ、なんていうけどレンくんは常に甘えん坊だ。
どうせ雨だし今日はダラダラしよう。レンくんも昨日の疲れで長いこと眠るはずだ。私も二度寝といきますか。
こんな休日の使い方も良いなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます