第五幕 Form Change !!(上級編)

「・・たまには気分変えて、違う仕事でPTやってみないか?」


 ギルド「ボルケーノ」のギルマス、ライアスさんからの突然の提案。

「違う仕事って、どんな感じのことするん?」

「ああ、例えばGANTZはPTやるとたいてい騎士盾だし、ギルは物理アタッカー、たかみさんは回復ってほぼ固定なので、」

「たまには違うフォームをやってみるというのもいい経験になるから、やってみてはどうかなと。」

「ふむ、一理。・・でも、私は盾は装備を揃えていないので、できない・・」

「自分も盾フォーム、ソロ上げはともかく、PTではきついかな?」

 たかみさんとギルさんの、早々な盾辞退発言。正直自分もきついかな。

「私もPT盾はちょっと・・LV的にマスターかエルさんが良いと思います。」

 ギルマス、ライアスさんのLVはなんと90!いわゆるカンストだ。

そしてGANTZさんが次いで89、他の3人は現在88だ。ほんとにパない。

現状自分のLVは84。この差はややきつい。

「う~ん、Naoさん連れて83Dに行こうと思ったから、俺が入ると経験値ダウンがなぁ・・。できればGANTZも外したいんだけど、」


<「Hiro」さんがログインしました。>


「ぉ、Hiroっち、盾ヨロ!!」

「こんば~・・って、いきなりなに!?」

「こん。・・Hiro盾、久々・・」

「飛んで火にいるw こんっす^^」

「・・ご愁傷様。こんばんでっす。」

「・・・相変わらず間が悪いというか良いタイミング。決まりだな。」

「・・こんばんは。」

「誰か説明してくれ~~;;」

 ・・まぁ、そうなるわな。


「83Dにいつもと違うフォームで行ってもらおうと思った訳よ。できれば経験値が落ちないメンツで。」

「・・大体把握。・・・でもそれって、エル様やるのがいいんじゃ?というか、83D初見なんだが^^;」

 あっさりと自分と同じ結論に達したことに、若干驚く。現在のHiroさんのLVは85。しかも初見となると盾はきついと思う。

「・・まぁ、自分がやってもいいんだが、それでは 面白くない! なので、頼んだわww」

「・・全面的に同意。・・がんば。」

「もう逃げられないわなw」

「まぁ、ギルマス命令。ヒロ盾な。」

「お前らは揃って鬼かい!!?;;」

「www」

 このノリは・・・


「・・・真面目な話。できなくはないだろ、ヒロ?」

「・・ぁー、エル様ガイダンスあり?」

「まぁ、そんくらいはやるわw」

「・・・ならやってみるわ。復活も頼むからな。」

「それは高いっすよ?」

「ヲイ^^;」

「ww」

「えと、エル様ガイダンスって?」

 思わず確認してしまう。

「・・エルは変態的にCFOのことをいろいろ知ってるから、ボス戦前とかでよく注意事項を言ってくれる。それがエル様変態ガイダンス。」

「・・いや、変態ってのは余計だよね?」

「だが、間違いではないな。」

 そう言われてみれば、私が先日83DにPTで行った時はエルさんがいろいろ説明してた気がする。

「でも、説明だけで行けるとは・・」

「だから面白いんじゃんw」

「ヒロ盾期待・・」

「何を期待しているんだか・・・^^;」

「・・・まぁ、なんだかんだで大丈夫でしょう。」

「任せた。ヒロ。」


 それからダンジョンに行く他のメンバーのフォームも決まり、83D前に集合。

盾役:聖騎士、Hiroさん。

回復役:ヒーラー、エル様さん。

支援:バード、ギルさん。

アタッカー1:魔導士、たかみさん

アタッカー2:ガンナー、自分であるNao。


「・・・違和感だ。違和感しかない・・・」

「それはまぁ、俺もだけど、・・一番違和感なのは、聖騎士のお前だろww」

「・・私もヒロの聖騎士スタイル、初めて見た」

 彼らよりもここに来て短い自分は、もちろん初めてだ。

「・・いやぁ、初見なんで少しでも回復いるかなと思ったけど、結果的に回復寄りなPTに^^;」

「自分もアタッカーに変えましょうか?」

「・・う~ん、どうなん、変態ガイダンス?」

「変態引っ張るなwまぁ、ちょい時間はかかるだろうけど、いけると思うわ。」

「りょーかい。ぁ、みんな熟練度500は、いってるよね?」

「んなの聞くなや。もちw」

「・・・とーぜん。」

「問題なしです。」

「・・いってます」

 何を言ってるんだろう。いくらいつもと違うフォームやるといっても、500までのスキル揃えてないのにやる訳ないじゃないか。

「ぁ、ごめ。ちょいぼけてたわ^^;・・・うんじゃ、いくっすw」

「頼むでホンマww」

 こうして83Dに入る一行。


「わーー!敵流れてる!!」

「聖騎士、ヘイト管理難しいわ~~;;」

 弱音を吐きながらも、離れた雑魚のヘイトを取るよう攻撃を仕掛けるHiro。3発目でようやくタゲ変更する。

「ん?これ出してみよ・・」

魔導士のたかみさんがスキル「ブラックホール」を唱えると、効果により範囲内の敵はダメージを受けながら発動地点の中央に集まるが、

「だーー!せっかく取ったタゲ;;」

・・倒しきれなかった敵が2体、たかみさん目指して攻撃を仕掛けてくる。瀕死になりながらも、PT全員でどうにか全滅させ事なきを得る。

「・・・雑魚戦、聖騎士無理><」

「仕方ないから特別にナイト使うのを許そう。」

「・・許そう。」

「なんで上から目線なの!?」

 などと文句を言いつつ、ナイトにフォームチェンジするHiro。それ以降は安定して雑魚を倒しながら最初のボス前へ。・・最初からこうすればよかったのに・・・

「さて、最初のボス戦。注意点は?」

「・・・ない。普通に逝ってヨシ。」

「駄目じゃん、エル様ガイダンス!!;;」

そんな会話をしながらボス戦を始める。確かにこのボスは厄介な状態異常や強力なスキルは使ってこなかったはず。・・・ただ、一部範囲スキルがかなり強力なため、なるべく避けないとちょっとヤバイ。

「だーー!死ぬ死ぬ!!!」

「防御力低いな!・・・ぁ~、ここの防具レア持ってなかったか。」

「初見って言いましたよね!!?」

「・・・まぁ、上手く避ければ・・・狭いけど」

「無茶苦茶言うない!!」

といったHiroとエル様のほのぼのしい掛け合いがありつつも、かなりぎりぎりでボス撃破。

「防具レアでた!もらう!」

「やらせはせんよ!!」

「・・・!」

すでに持っていたのであろうギルさん以外が申請。ダイス判定の結果、私が獲得できた。

「・・・ここは遠慮する場面じゃない?ねぇ・・・;;」

「「チッ」」

「2人同時に舌打ち!しかも同時やめてーーーーー!!><」

・・・獲得した自分が、なんだかちょっと情けない。


 この83Dのボスは2体。雑魚を蹴散らしつつ、最後のボス前に到着する。

「変態ガイダンスよろ」

「変態が気に食わないので、ガイダンス無しで逝ってよし。」

「ひどくね!?」


・・・・・・・・


「・・・え、何この沈黙?・・・・・マジ?」

「エル様に二言は無い!」

「・・・ファイト」

「まぁ、骨は拾うんで。・・主にエル様がw」

エル様、たかみさん、ギルさんが返事をする。・・この人たち・・

「わーい、嬉しくて泣けてくるわ!(T T)」

「「「ハイ、レッツゴー」」」

・・・意外とギルさんも調子いいことを再認識した。



 ・・結論から言うと、ボス討伐は失敗した。

「ぁ、復活アリガト。・・・というか、思いっきり初見殺しやん!!?;;」

「・・イケルトオモッテタンダヨ、スコシ」

「・・・だが死んでしまうとは、」

「情けない・・」

「君ら絶対、口裏合わせてるよね!!?」

Hiroが思いっきり文句を言うが、聞き耳を持たないエル、たかみ、ギルの御三方。・・まぁ、これは確かにちょい酷い。

「・・漫才はともかく、今回ばかりは、Hiroさんの言い分ももっともだと思いますよ。」

「何気に酷い言い回しorz」

突っ込むのはそこじゃないと思うんだけど、・・まぁ、予想はしてた。

「・・・で、エル様ガイダンスいる?」

「魔法防御上げて物理は避けろ?・・まだなんかあるなら、ガイダンスキボンヌ。」

「・・・無いけど。キボンヌとかww」

「懐かしすぎでしょww」

「・・・センス無い」


相変わらずの漫才だが、Hiroの的を得た発言に私は若干驚いた。

そうなのだ、このボス。最初は物理系の範囲攻撃スキルを主に繰り出してくるが、残りHPが半分切った辺りから魔法系の範囲攻撃も頻繁に織り交ぜてくる。

そして、この魔法攻撃、威力はそこそこだが発動が早く範囲もかなり広いので盾役は避けるのがまず不可能。・・無理に避けようとすると隊列が崩れて、立て直すのがまた難しい。

なので、攻略としては物理も魔法防御も高い盾でしのぐか、・・魔法防御の高い盾で魔法は受けて、まだ避けれる物理攻撃をとことん避けて行く位しかないだろう。・・物理と魔法の見極めが重要だし、もちろん、範囲回復は必須だ。

・・というのも、実は私が前回、件のエル様から聞いたことで理解した。

(・・この結論にあっさりたどり着くなんて・・)

「後は物理と魔法の2盾だろうけど、・・エル盾やらない?」

「・・・たかみ氏が回復でいつも通りになるから、極力却下で。」

「ダヨネ~・・」

2盾!後半魔法スキルが多いということは、裏を返せば物理が少ない。つまり前半物理盾でしのいで、後半は魔法盾でしのぐというのもあった!・・なんでこんなマイナーなやり方すぐ思いつくんだ、この人・・・

「ぁ~、う~、あ~・・・聖騎士さん、いらっしゃい・・・」

Hiroが再び聖騎士にフォームチェンジする。

「・・こっちの方がまだ魔防は高いからこれでいく・・物防弱いんで、きついけど、」

「「「ガンバレ」」」

「言うと思ったよ~~~;; w」

・・漫才は終わったようなので、再戦開始。



「ぜーはーぜーはー・・・」

「息も絶え絶えな様子を、わざわざチャットするなww」

「wwおつかれでっすw」

「・・よくがんばった」

「・・・お疲れさまです」

・・なんとかボスを撃破して83Dクリア。でもこの人、

「お疲れ様~。・・ヒロ盾、まあまあだったみたいやな。」

「・・もダメ。限界。寝ます落ちます。さようなら・・・zzz」

「オイコラw」

「早いw」


<「Hiro」さんがログアウトしました。>



「マジで落ちたーーーーー!!ww」

「・・たまにやる手・・あのヤロウ」

「どんだけきつかったんだかw」

「あいかわらずやなぁwww」

 と、発言したのはマスターであるライアスさん。・・に、気になったので聞いてみる。

「・・Hiroさんって、本当に盾、慣れてないんですか?」


・・・・・


 いきなりすぎたのかそうでないのか、しばし沈黙。そう、とても盾役が不慣れとは思えないのだ。最後のボス戦では物理範囲を高確率で避け、タゲ取り、さらにはその合間に回復まで、的確といえるくらいに行っていたと思う。

・・思えば、私と最初に対戦した時もオーダーメイド装備に驚いたが、キャラの位置取りもかなり上手かった気がする。

「・・・前に私がHiro盾見たのは、半年くらい前?」とたかみさん。

「・・自分が見たのもそれくらいかな?」とギルさん。

「ん~。1年前、大体2鯖できる前まではちょこちょこやってた気はするけど・・」とエル様。そして、

「・・・と言うか、ヒロは初めの頃から大抵なんでもやれたからなぁ。」とライアスさん。・・・はい?

「えっと、ちなみにHiroさんはいつ頃ギルドに入ったんですか、マスター?」

「・・ほぼ最初からだから、1年半くらい前かな?GANTZの次くらいに古参だよ、あれでもw」

結構驚いた。

「・・・正直、IN率がそうでもないから、もっと浅いと思ってました・・」

「・・確かに最近は少ないかなぁ。」

「・・・私が入った、大体7,8ヶ月前くらい?・・には今くらいのイメージしかない。」

「・・自分は大体1年位前からここにいるけど、その頃は今の倍くらいはINしてた気がするかな?・・だいたい、たかみんが入る辺りからIN率減った気がする。」

「・・・つまり私が原因だと?」

「・・前言撤回。確か、たかみんが入るよりは前やw」

「・・チッ、逃げたな」

「どういう舌打ち?ww」

若干、漫才が入って来たので話を戻そう。

「・・えっと、つまり1年近く前より以前は、HiroさんはかなりPTとか参加してたということです?」

「だねぇ。・・だから言ったんよ「ヒロ盾ヨロ」って。・・まぁ、半分はネタだけどw」

「半分ネタwww」

「ひどいww」

「・・マスターナイスw」


・・はぐらかされたが、つまりはマスターが認めているということだ。最強のプレイヤーが!

「・・なんで、あんまりINしなくなったんでしょう?」

「・・それぞれだよ。仕事が忙しいとかあるかもしれないし。」

「・・・Hiroは社会人?」

「・・ん~、前にそんなこと言ってた気がするけど、詳しくは知らない。つか、プライベート聞くのはネチケ違反だよ。」

「・・ごめんなさい・・」

確かに実際の生活のことを聞くのはネチケ、ネットエチケット違反だ。これ以上は話題にしないほうがいいかな。

やや気まずい雰囲気を感じる中、エル様。

「・・・ぁ~っと、ちょい言い難いんだけど、今日はそろそろ落ちます。また明日~。」

「お、おやすみ。」

「おやすみです。」

「・・おやすみ」

「おやすみなさい。」


<「エル様」さんがログアウトしました。>



・・と、もうこんな時間か。結構かかったけど、区切りがいいかな。

「では私も落ちますね。おやすみなさい。」

「お~、おやすみ。」

「おやすみっす。」

「・・・おやすみ」



こうして私は、ログアウトした。

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