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 しばらくの間、沈黙が流れました。大人たちも先生が何を言うのかをじっと待っているようです。

 キムラ先生は、自分とマコトくんを覗き込んでいる大人たち、それから、彼らの何人かが抱えている、またはぶんぶんと飛び回る機械の下で自分たちを見つめているカメラとマイクに向かって、静かに、言葉を選ぶようにして、話し出しました。

「そうですね、マコトくん」

 大きくうなずくと、先生は言葉を続けました。

「たしかに、マコトくんに伝えることはまだまだあります。明日も、その先も、たとえこの学校がなくなっても、ずっと」


 大人たちが、またざわつき始めました。


「教えたい、教えてほしい。お互いが持っているその気持ちを忘れなければ、授業は最後になんてならないんですね。大きな仕組みはいらない」

 どうするんだ、いったい。そんなことを口々にわめく大人たちを、キムラ先生は、あえて無視しているようです。

「今日は、最後の授業なんかじゃなくて、マコトくんから先生が教えてもらう最初の授業なのかもしれません」


 そして先生は、気持ちを切り替えるように、教壇の上でとんとんと教科書をそろえました。

「四時限目まで時間はたっぷりあります。今日も楽しく始めましょう」

 すっかりいつもの元気な口調に戻っています。


 マコトくんは、毎日そうしてきたように、背筋を伸ばして椅子に座り直しました。


(完)

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さいごのさいごのさいごの授業 安岐ルオウ @akiruo

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