ランキングの亡霊たちへ

五月 病

ランキングにある小説を全て読んだ結果


 8月15日の23時07分現在、とある小説投稿サイトの高校生限定のショートストーリー部門には648作もの小説が群雄割拠が如くその週間ランキングに名を連ねている。

 そして俺は、高校生活最後の夏休みをおよそ三日ほど浪費してそのランキングに沈む作品をすべて読んでみた。正直アホである。そして残念なことにアホウな俺は加えて根性が人よりも何倍もある、これでも町内一の負けず嫌いなのだ。だから全部読むということを成し遂げることができた。

 疑うのであればもし投稿主なのであれば、その作品のPV数を見ればいい。その作品ごとに必ず1人分、複数話投稿しているのならばその話数分の数のPVが反映されているはずだ。仮に投稿主でなくて俺の言葉が信じられないのであれば信じなくていい、証明する手段を持たないのだから、俺を嘘吐き呼ばわりしてくれてもいい。元来俺は嘘吐きだから、貴方は正直なことを言っているだけなのかもしれないのだから。


 とりあえず前置きはこのくらいにして、今回なんのためにこんなことを行ったのかと言えば目的はだいたい3つある。


 1つ目は、自分の作品を読んで欲しいからだ。


 物書きにとってなによりも辛いことは自分が丹精込めて作り上げたものをまるで路傍の石のように誰にも読まれず放置し続けることだ。

 これはマジで辛い。なぁそうだろ、画面の前のブラザー。

 許せ、深夜テンションだ。

 

 俺はここ1週間でかなり長い時間小説と触れ合ってきた。だが、その多くの時間は書くことばかりに集中していて誰かが書いた作品を読むということをまるでやってこなかった。たぶんこれは俺以外の多くのユーザーにも当てはまるんじゃないか?しらんけど。

 だからまぁ、自分が読まれたいのであれば人のモノも読もうぜって感じで始めたんだ。俺の計画ではこれがランキングの最上位に来て、これに感動したユーザーどもが俺の真似をして挫折すること間違いなし、そして俺と同じように指の腱鞘炎になるはずだ。ふはははは深夜テンションってまじぱねー!


 まぁ1つ目のことで言いたいのは、書きたいことだけじゃなくて、周りをみて、もっと小説を楽しもうぜってことだ。小説は書くことだけが楽しみじゃない。ここまで根気強く読んでくれてる兄弟ならンなこと言われなくても分かってくれてるよな。


 よっしゃ、次行こう。もうちょい付き合ってくれや。


 2つ目はランキングに眠る亡霊どもの墓参りに行きたかったからだ。


 全国の高校生どもが勉強もせずに文学作ってるんだぜ?そりゃ毎日数えるのもうんざりするぐらいの小説があってもおかしくないさ。そしてその中にはたまにいるんだよ、磨けば光る才能だとか、秀逸なのになんでこれが読まれてないのかって不思議に思う作品が。俺は割とそう言うのがきちんと評価されないってことが嫌なんだよ。

 だから普段読まない詩だとか、童話だとか萌え系のラブコメとかも全部読んだ。

 正直、こういうチャレンジしてるときに27話とかの詩が出てくると画面をぶち割りたくなったが、まぁいいやつもたくさんあったさ。


 ちょっと自慢になるかもだが、俺が最初にコンテストに応募した作品も意外と好評で出して初日で545作中の20位になった。今じゃ緩やかに下がって22位、25位となっている。たぶん、その作品も、いや俺自身でさえもその内ランキングの亡霊になっていくのだろう。前述したが、物書きは作品を評価されないことが何よりもつらい。今風に言えばぴえんだ。ってかなんだぴえんって知るかはったおすぞ。

 まぁいいや、とりあえず今晩にでも5寸くぎをもって藁人形で上位陣の作者どもを呪うことにしようと思う。


 だいぶ趣旨がずれたが軌道を戻すと、ランキングの上だけをみるんじゃなくて、時折下にいる亡霊どもの墓参りもしてほしいという単純な俺からの頼みだ。


 さて、最後の3つ目だ。そろそろ文字を見るのも嫌になってきた頃間だ。眠い。


 3つ目、それは上のどれよりも簡単なことだ。


 それは、俺自身の才能を比較してみたかった。


 は?自分語り乙低評価おしまーすお疲れさまでしたとか思ったやつ、タンスの角に小指ぶつけてシンプルに地獄を見ろ。

 

 まぁ、なんだ。前述した通り俺は初手で何百もの作品の内の20位にランクインしてしまった。だから少しだけ自惚れかけていた自分を諫めたかったのだ。

 高校生限定と言う、匿名だらけのこの真実も嘘も分からない電脳空間で如実に表れる全国の才能どもの作品を、この全く才能なんてない俺から見て、どう思うのか、何を考えるのか、何を学ぶのか、どう挫折するのか。知ってみたかったのだ。


 そして見事にそれら全てを綺麗に味わった。


 言葉の色を見る度に吐き気がした。何故こんな美しい世界をけるのか、どうして物語にいる住人をそんなに繊細に描く事ができるのか、どんな生き方をすればそんな文字を連ねる事ができるのか。 

 高校生如きの文章だと侮る事なかれ。


 彼らは皆、この残虐な今を名一杯生き抜く挑戦者であり、戦士たちだ。


 俺の恩師が授業中にほざいた言葉に、こんな言葉がある「子供はジジイババアの飯代稼ぐために存在してるんじゃない」

 俺たちは今、正にこんな世の中で、いつくたばるか分からないジジイババアどものために生み落とされ教育を受けている。

 この国が、今を生きている大人どもが、せっせと作り出した見えない仮想敵と戦わされ続けている。そんな超一流の戦士たちの言葉がどうして美しくないはずがない。


 そんな戦士たちが生み出した物語を五百も六百も読めばそりゃ挫折の五十や六十したくもなる。下手すら発狂もんだ。


 こんな経験はめったにできるものではない。割とガチでかなり有意義な経験だった。


 画面の前の諸君、試にやってみるといい。当社比マジで3日死ぬ気で読めば、自分の中の大切なものと引き換えに多くのモノを得ることができる。マジでやってみ?


 ま、3つ目を要約するならば俺と同じ犠牲者を増やしたかったのだ。


 とりあえず、理由は言い終わった。


 これがすべてだ。いろんな作品を読んでいると本当にいろんなことを学ぶことができた。表現の美しさや、絶えず訪れる臨場感、躍動する人物の心情、本当に言葉を失うものばかりだった。


 あぁ、後、割とどんな物語がいいのかだとかも傾向が見えて来る。

 例えば、恋愛で言えば3作に1作くらいの割合で人が死んでた。てめーら幼なじみに親でも殺されたのかってぐれー殺してた。もしかすると今の世代では人の死=感動的みたいな風潮があるのかもしれない。そんなに死は甘くないぞと言いたいよな。ホント。

 他に言えば、作者が作り上げた抽象的な表現を読者が自分で解釈してより素晴らしい物語へと読者が勝手に昇華させる、画家タイプの物語も多かった気がするな。そんな作品ほど割と人気が高かったりする傾向にある。

 まぁ読者側の闇を見れるような傾向な気がしたのは内緒の話だ。


 ついでに言うと応援のハートマークだよな、あれはめっちゃ多いのに星評価がないせいで埋もれてる作品とかめっちゃあった。そう言う作品に限って名作だったらするから是非見たほうがいい。


 ってか、こう思うと、それら全部高校生が書いてるって凄くねーか?多分こっからいずれ小説家として名を馳せる人間も出てくるのだろう。文化が死ねば人間は死ぬ。誰の言葉だったかは忘れたが、今の息が詰まるような世界に風穴を開けてくれるような物語を創る作家がこの中から出てくる事をちょっとだけ期待してる。


 だが、それとは逆にこんな素晴らしい文章を書く高校生たちもいつしか大人になり、評価される存在になっていくのだろう。そしてその中で、数字に埋もれる者、挫折するものもいるかもしれない。俺だってその一人だ。


 そして今回みたくランキングの亡霊になるものは必ず存在する。

 だけど亡霊たちよ、それを恥じるな。

 安い言葉だが、光があれば影がある。

 俺らみたいな才能がない連中は上手く日が当たらないかもしれない、でも日が当たらなくても育つモヤシって植物はマジで最強だぜ?モヤシを馬鹿にするやつはモヤシに泣く。これは自然の摂理だ。だから全国のモヤシよ、もう少し自信を持て。陰樹だって最初は陽樹に敷地奪われるけど、極相になるとスゲー頑張ってるんだ。

 何が言いたいかってと、頑張れ。

 時折、婉曲しまくった美的表現よりも純粋にストレートにぶつけられる言葉の方が泥臭くも美しく心に響く時がある。

 だから俺は言う。頑張れ。


 読者どもも、金がかかったうまい料理バッカ食べてないで、たまには俺らみたいなモヤシやゲテモノ料理を食べてみてほしい。そうすればきっとあなたの世界はもっと豊かになる、そして俺らの自己承認欲求も満たされる。これで感想なんてくれた日には舞い上がって腹踊りでもしてしまう。ホント何言ってんだ俺は。許せ、ホントに深夜テンションなんだ。


 とりあえずそろそろ閉めに入ろうと思う。

 上手く結びの言葉が見つからないが、コンテストに参加している高校生たちよ、感想が欲しければ俺のところまで直接来ると良い、必ず感想を伝えることを約束しよう。もう一度言うが俺は全て読んだからな。まぁそれだけは信じてくれいや。


 そして何度でも言うが、ランキングの亡霊であることに誇りをもって生きてくれ。たまには俺みたい偏食家もあらわれるさ。

 だから書く事を諦めないでくれ給え。

 それがいつしか誰かの未来を変える事があるかもしれない。俺はこの深夜テンションで書いたものでさえ、誰かに届くのではないかと本気で信じてる。

 だから、君も信じてほしい。


 俺はそこに読み手がいるのならば、永遠に亡霊だって構わないと本気で思っている。

 さて、ランキングにあった作品全部読むなんて、こんなバカでかい目標を達成してしまうと何か物足りない気分になってしまう。

 さぁ次は何を目標にして当面を生きて行こうか。


 さしあったて、暗号を使った小説にでも挑戦してみようか。
















       ――この物語は、全てフィクションです――































 

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