第4話

一歩とはあれから一度も話していない。


 クラスも違うし、授業も被ってるものはほとんどないから、部活が無かったらこれが普通なんだと思った。


 1回だけ依月と話してる所を見かけたけど、一歩は俺に気づかなかった。


 まあ、そんなもんだよな。


 「長途先輩、いいかげん片瀬先輩と仲直りしてください!学校祭出られなくなりますよ!」


 伊月はあれから何回も俺のところに説得に来た。


 仲直りって言ったって、喧嘩じゃないし。伊月には悪いけど多分もう無理だ。


 「長途先輩は片瀬先輩のこと、どうでもいいんですか!」


 「……どうでもいいわけないだろ」


 咄嗟に口からこぼれた。


 「だったらなんで……」


 何でってそんなの、俺だって分からない。でもあの時、俺からちゃんと手放さなきゃいけなかった。俺は一歩の思うように一歩のことを好きにはなれない。どう頑張ったって無理なんだよ。


 「片瀬先輩は、長途先輩の作る曲、すごく好きって言ってましたよ。片瀬先輩は、長途先輩のこと待ってますよ、絶対。早く仲直りしてください。俺のためにも、バンドのためにも。」


 伊月の声は少し寂しそうだった。


 足音がだんだん遠のいていく。


 俺は振り返った。


 「依月、お願いがある」





 俺は伊月から貰った番号に電話を掛けた。


 『……はい』


 「長途 零です。」


 『えっと……?』


 「哀原、今、どこにいる?」

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