第3話
ガチャ、とスタジオのドアが開いた。そこには伊月とさっきの女の子がいた。
「遅れてすみません……えっと、長途先輩、哀原に何か……?」
零は答える言葉を考えているのか、その表情は真剣そのものだった。
やがてその口が開いた。
「俺は長途 零。君は?」
「哀原……実愛、です」
「楽器経験ってあったりする?」
「えっと……」
その子は伊月の方を気にした。急にこんなことを聞かれるんだから助けを求めたくなるのも当然だ。
「昔……ギターはやってました。今はもう、弾きませんけど…」
「じゃあ歌は?好き?哀原が良かったらなんだけど、俺らのバンドのボーカルになって欲しいんだ。だめかな?」
驚いたのは伊月の表情だ。伊月は明らかに期待を隠せないといった目で哀原を見ていた。零もきっとそれに気がついているはずだ。
伊月とは裏腹に哀原の表情は次第に曇り始めた。そこでやっと伊月が仲介に入った。
「ちょっと長途先輩?突然どうしたんですか?なんで哀原に……」
そこで伊月が止まった。まるで何か思うところがあるみたいに。
「わたし、バンドとか、入る気ないです。すみません。失礼します。」
哀原は一礼した後すぐに扉を開けて出て行った。俺ら3人の間には妙な空気が流れたままだった。
「あーあ、失敗かー!練習しよ練習」
扉が閉め切られると、零はいつもの調子に戻っていた。
その日の音はバラバラで揃わないまま練習が終わった。
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