The beginning...

 壁には新しく着る予定の制服が掛けられたまんまだった。


 「実愛みうー!準備できたら降りなさーい!!」


 祖母の声に慌てて制服をキャリーケースの中にしまった。


 引き出しの中身を確認し忘れていたのを思い出して見てみると、なくしたと思っていた中2の時の日記帳が入っていた。


 指は紙の端をめくり始めた。


 8月1日 初めてひとりでライブに行った。人が多くて熱気がすごかった。帰り道で隣のクラスの依月いづきと会った。同じライブを見てたらしい。少しだけベンチで話した。


 8月3日 髪が伸びたから思いっきり短くしてみた。今まで挑戦してみたかったから、すごく嬉しい!でもお母さんは長い方が似合ってるって言ってた。自分はこっちの方がいいと思うけど…。


 8月4日 依月とまた偶然会った。髪を切ってから初めて人と会ったから少し恥ずかしかったけど、依月は似合ってるって褒めてくれた。今度いっしょに楽器屋に行く約束をした。


 8月8日 依月と好きなバンドが一緒だった!楽器屋には、たくさん楽器があって、自分も依月もギターがすごく欲しくなったから、お盆のお小遣いで安いけどギターを一緒に買った!今日から練習頑張ろう!!


 9月11日 明日、お母さん達に本当のことを言うことにした。怖いけど、依月が応援してくれたから頑張れる気がする。







 9月26日 おばあちゃんの家に引っ越すことになった。自分のせいだ。ごめんなさい。ごめんなさい。もうやめるから。全部普通にするから。ごめんなさい。ギターも、依月も、置いてってごめんね。お母さん、悩ませてごめんね。

 




 ノートは半分以上残っていた。は日記帳を可燃ゴミの袋に入れて、あの街へ向かう車に乗った。

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