第5話 セレブ婚への道のり

「婚約パーティー?」


 そろそろコートもいらなくなるくらいに暖かくなり始めた三月最後の木曜。落ち着いた料亭の個室で、一通り注文も終えると、今度の週末に兄の婚約パーティーがあるから一緒にいかない?と慎吾から切り出された。


「うん、二番目の兄が今度結婚するらしいんだ」


「わぁ、そうなんだ~、おめでとう!

それって、私がいってもいいの? 迷惑じゃない?」


「うん、家族だけじゃなくて、友達もくるし、パートナーがいたらぜひ一緒にって言われてるから。もちろん真由が嫌だったら、断ってくれても大丈夫だよ」


「そんな、嫌だなんて。慎吾のお父様やお母様、お兄さんたちにもぜひお会いしたいし、行ってもいい?」


 行くわよ! 当然行くに決まってる。

 

 残念御曹司九条慎吾と付き合い始めて、そろそろ二ヶ月が経った。あれからもお互いの部屋へも何度か行き来してるし、慎吾との仲も極めて良好。


 全てが順調に行っているけど、ここで焦ってボロを出したら、全てが無駄になる。

 まだ付き合いたてということもあるし、次の段階に進めるのには極めて慎重になっていたけれど、ここにきてビッグチャンス到来。


 いつものようにゆるふわ系を演じてみせると、慎吾も良かったと笑顔を見せる。


 当たり前でしょ?

 家族への紹介なんて、結婚へ進展する……かもしれない大事な機会を逃すわけがない。


 終始和やかなムードで食事を終えると、慎吾は店の人を呼び、カードを渡した。店の人がそれを受け取り、部屋を出ていったのを見届けると、私は自分のバッグから財布を取り出す。


「いつも払ってもらってて申し訳ないから、今日は私が払うね」  


「いいんだよ。これくらい、払わせて」


「そう? ......じゃあ、甘えちゃおうかな。

いつもありがとう、慎吾」


 まったく粘りもしないであっさりと引くと、さっさと財布をしまい、うふふと笑い合う。


 和やかなお花畑ムードだけど、慎吾は知らない。私が最初から全く払う気がないくせに、あえて財布を出そうとして好感度を稼いでいる外道女だということを。


 結局はどうせ慎吾が払うのに、このやりとりも毎回毎回面倒。はっきり言って省略したいけど、そういうわけにもいかない。


 男に払ってもらって当たり前!なんて態度でもいけないし、逆に、強情になって絶対払う!と下手に突っぱねてもいけないし、店員の前でどっちがお金を払うかもめるなんて、もっての他。


 全く、男を立てることができて、気遣いのある優しい女を演じるのも大変ね。だけど、どうにか結婚にこぎつけるまでは、決してシッポを出すわけにはいかない。

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