エピローグ

 その昔、世界は闇に包まれていた。



 草木は枯れ、闇が世界を支配し、破壊と殺戮の舞台となった大地には無数の屍によって埋め尽くされた。


 だが、すべては永遠ではない。あの時代に、光が失われ闇が跋扈した様に、長い年月を経て、数多の犠牲の果てに、再び光が差し込む時が訪れた。


 闇に包まれていた大地の上に、まばら模様に光が差し込む。


 光あるところに、雨がふり、やがて小さな芽が大地に顔を出した。


「ねえねえ。また生まれるのかな?」


 小さな花がひとり、脇に立つ大きな者の袖を引いた。


「……ああ」


「やった! これでわたしもお姉さんだ!」


 小さな花は嬉しそうに跳ねた。


「それはどうかな。もしかしたら、お母さんかもしれない」


 大きな者は優しい声で言った。


「お母さん? そっか。そうか。そうだね! 早く会いたいな、お母さんに!」


 無邪気に跳ねる小さな花を見つめて、大きな者は微笑んだ。

 遥か昔に聞いた言葉を思い出す。


(闇があれば光もある。いつか再び光が大地を照らす時が来るでしょう。その時に、その種を撒いて欲しい。光があれば花が咲く。世界中に花を。皆が優しい気持ちになれる花を)


 約束は果たした。血に塗れ生き延びた。ただこの一瞬を夢見て。



「だから、今度は君が約束を果たす番だろう」


 大きな者がひとりごちた。


 すると、小さな芽がしゅるりと伸び、弾ける様に白くて綺麗な花が咲いた。

 懐かしい、綺麗な花だった。

 


「……種を蒔いてくれて、ありがとう。また、会えたね」





 おわり


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【種蒔く者】 ボンゴレ☆ビガンゴ @bigango

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ