1話その1
2025年。長きにわたった平成だけでなく、新型ウイルスやらオリンピックやらも終わり良くも悪くも何の変哲の無い平和な世界、地球。
そんな地球という世界の日本という世界の中にある
神話や異世界系アニメのような
そんな風景だけで異世界転生したかのような町に今にも異世界転生しそうな有象無象の一人と言える男がやって来た。
中肉中背で黒髪でスポーツ刈りの男、
真侍自身、視聴数は大した数ではなかったが一時期動画投稿が趣味であったことを除けばそこそこの運動神経と学歴の平凡な人生だった事もあり、入社早々いきなりの出世に胸を踊らしていた。
土日出勤、残業覚悟、情報の流出をしないなど厳しい条件もあったが、これまでの平凡な人生に終止符を打つため茨の道へと踏み込んだのだ。
「さて…ここか…」
真侍は携帯から目を離すと目の前に大きなビルが立っていた。
エデンコーポレーションのある
お陰で真侍は村雲区から十駅くらいある街亜区(がいあく)に住んでいる。
「うわぁ…緊張するなぁ…」
真侍はこの中に入れば自分が課長になるという事実に武者震いし、会社の中に入れないままでいた。
早めに来たとはいえ無駄な時間が過ぎ去ろうとしたその時。
「すみません、ここになんか用があるんすか?」
いきなり声をかけられ、真侍は驚きながら振り向くと、目の前に男がいた。
その男は体格は真侍と同じくらいではあったが、顔の右半分を覆い隠す黒髪と爽やかさとチャラさが綺麗に混ざり合ったような隠キャとも陽キャとも捉える事ができるそこそこ整った容姿の若い男であった。
しかし無地のTシャツに長ズボンという服装が休日に町をふらついてる残念な男という印象を強く持ってしまう。
だが、ラフな服装が逆に話しやすい雰囲気を醸し出していた。
「えっ、いやぁ今日から本社勤めだけじゃなく課長にもなったんで緊張して…」
真侍は照れながらも見ず知らずの男に話した。
「まぁ足跡を残すどころかぶち抜いて落ちるくらいの勢いで踏み出せば、やったまった〜みたいなやらかした感は残るけど、後戻りができないから否が応でも進むことができますよ。それじゃあ」
片目隠れの男はそういうと真侍に手を振りながらエデンコーポレーションへと入って行った。
真侍は見ず知らずの男が会社の関係者だと知るとだんだん勇気が湧いて来た。
真侍は胸を張りながらエデンコーポレーションへと足を踏み入れた。
異常に満ち足りた表情は何処か変かもしれないが、休日のため人に見られることはほとんど無かった。
信士はエレベーターに入り動画広告編集課のある地下二階を押すと扉が閉まった。
「気味が悪がられるかもしれないが、地面をぶち抜くようなスタートを飾ろう」
真侍がエレベーターを出て薄暗い廊下を歩くと物置同然の場所に「動画広告編集課」と立札が立っていた。
真侍はそんなことも気にせず勢いよく鉄扉を開けた。
「おはようございます!」
真侍は重い鉄扉の音をかき消すくらいの大きな声で挨拶した。しかし目の前の光景を皮切りに真侍の勢いは急減速するのであった。
「ごめんなさい!二度と仮病なんて使わないので、罰として黒タイツで頭を踏んづけてください!お願いします!」
「
「黒タイツで踏んづけては初めてです」
「そっちじゃない!」
「ぐあっはぁっん!ありがとうございます!」
先程の真侍にエールを送った片目隠れの男が椅子座った目つきの悪い女の子に踏まれていた。
いきなりの光景に真侍は目を疑った。
先程「ぶち抜いて踏み出せばいい」と言っていた男が今にもぶち抜かれそうな勢いで踏みつけられているのだから当然である。しかもその顔は何処か嬉しそうでもあった。
真侍は「あっここ部屋間違えたな」と思い、入った勢いとは逆に静かに鉄扉を閉めようとした。
「ん?あっ!待ちなさい!」
目つきの悪い女の子は踏みつけた片目隠れの男の頭をトランポリンのように勢いよく踏みつけながら大きくジャンプし真侍が閉めようとした鉄扉を止めようとした。
が、跳躍で威力をつけた掌底が重い鉄扉を勢いよく閉め、真侍は後ろに飛ばされてしまい壁に頭を打ち、意識を失ってしまった。
「おい店長!起きろ!異世界転生させねぇぞ!」
真侍は朦朧とする意識の中、男の声が聞こえてきた。
真侍は男の声で目を覚ますと聴覚だけでなく、次第に他の感覚も覚めてきた。
体を揺すられている感覚、何故かニンニク臭い嗅覚、そしてぼやけていた視覚もピントが合わさり自分の前に立つ人影が鮮明に確認できた。
肩までかかった黒髪に威圧的だが何処か可愛らしい目つきの女の子。
信士より頭一つ分大きくラグビー選手やプロレスラーのような巨体と黒髪のツーブロック、そして表情一つ変えないため変な威圧的に感じてしまう精巧に作られたロボットような男。
そして右半分を覆い隠すように分けてはいるが、先程とは違いきっちりと髪の毛が整っている無地のTシャツを着た男。何故だかこの男からニンニクの臭いがする。
合計三名の男女が真侍の前に立っていた。
「いやぁよかったよかった!このまま倒れていたら
「冗談でも本人の前で何も起きないはずもなく…なんて言うね…」
嬉しそうに話す片目隠れの男の言葉に目つきの悪い女の子は呆れながら片目隠れの男の背後からチョップを放った。
だが、片目隠れの男は瞬時に振り向き、女の子の手首を掴んでチョップを止めた。
「彩愛…いい加減わかってほしいんだが、俺はお前の胸、尻、足を使った攻撃以外は通用しない」
「こちらもいい加減わかってほしいんだけど、いつもそんなセクハラ台詞を堂々と言えるね…」
片目隠れ目の男は鋭い目つきで話すが、目つきの悪い女の子は汚物を見るような目で呆れていた。
「あの…すみません…この状況は一体…」
真侍は困惑しながらも少しでも状況を理解したいため弱々しいが声を出した。
「動画広告編集課の部屋だが、田中真侍さんが気絶している間に士がニンニクたっぷりラーメンを食べに行ってたせいで臭いが充満している」
真侍の声が聞こえたのか、表情の硬い男が感情が入って無さそうな言葉を出した。
「店長!四時間も寝てたから暇で暇でしょうがないんで寝癖直してラーメン食いに行ってましたわ!」
「私と切矢さんはお昼以外は真面目に働いてたんだけど…士は20分前くらいに帰って来たよね」
「え?四時間?」
二人の会話から気づいたのか、真侍は携帯を取り出して時間を確認すると14時25分と写し出されていた。
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