バイ・スターヅ

・俺



「出力上昇……」


 スロットルをさらに動かし、サブスラスターの出力を上昇させていく。

 メインスラスターにはまだ点火しない。動かすのは姿勢制御スラスターだ。


「アステール、上昇に使用する姿勢制御スラスターを起動。少しでも出力が欲しい。あと射出したアンカーのワイヤーを少し弛ませろ」


『了解』


 アステールの声に合わせ俺は操縦桿を手前に引く。ミシミシという音が少し強まり、姿勢制御スラスターの噴出音が聞こえてくる。


 本来姿勢制御スラスターはこのように使う訳では無いから出力回路にはそれなりの負荷が掛かるだろう。それでもここから抜け出すためならそれも安い。


「アステール、ドックのレールは?」


『問題ありません。ガントリーロックが解除されれば自動で所定の位置に設置されます』


「わかった」


 俺は操縦桿を引く角度をより強めていく。

 よりミシミシと音がするが同時に何かが擦れてズレるような音もし始めた。


「このまま行けば……!」


「お、おい本当に大丈夫か?勢いのまま天井に突っ込んだりとか……」


「安心しろオッサン。なんのためにアンカー刺したと思ってる。上に飛び出さないためだ」


 ドック内はコロニーによる擬似重力が働いている。だからレールでコロニーの擬似重力圏内から脱出するわけだけど、今はガントリーロックで挟まれた状態で無理やり脱出しようとしてスラスターを動かしている。普通の宇宙空間だったら吹っ飛ぶし、擬似重力圏内でもそれなりの勢いで飛んでしまう。宇宙船のスラスターとはそれほどの出力がある。

 ただ今回わざとスラスターを動かしているからもし上手く脱出出来た時吹っ飛ばないためにアンカーを刺してある程度動きを抑制するわけだ。


「けど、これじゃ埒が明かないな……アステール」


『はい。なんでしょうか』


「姿勢制御スラスターのリミッターを一時解除。指示あるまでそれを維持。次で決める。一気に噴射しろ」


『了解しました』


 一旦操縦桿を戻し、少し休憩する。そしてアステールからの『準備完了』の声と共に今度は足元のペダルを強く踏みしめなから操縦桿を引いていく。


 ジェットエンジンのような音と共にミシミシという音が再び聞こえ始める。姿勢制御スラスターは通常、出力はある程度抑えられた状態にある。今のリミッター解除の状態が100とするなら通常は60くらいだな。


「補助エンジン出力さらに上昇」


 スロットルをさらに動かして上昇する力と前に進もうとする二つの力でガントリーロックから抜け出そうとする。

 その操作をしたまま計器やモニターなどを見て船の状況を確認する。


「よし……みんな捕まってろよ!一気に飛び出すぞ」


 スロットルレバーを最大まで押し込んで、ペダルを踏み込んだまま衝撃に備える。

 スラスターの甲高い音が少しずつ大きくなり、ガントリーロックと擦れる音もし始める。

 そして振動もだんだん強くなり……


 ガコンッ!!


 盛大な音と上への移動を思い切り押さえられるような衝撃が俺たちを襲った。


 ペダルこそ離さなかったものの、後頭部を椅子の背にぶつけた。他の皆もどうやらどこかぶつけたようだ。


「いてて……アステール、状況は?」


『ガントリーロック解除成功。レールが既に展開されています。スラスターを弱め、レールに乗り移動すればドックより発進可能です』


「わかった。レールに乗った時点でアンカーを解除。宇宙空間に移動するまではアステールに任せる」


 アステールに指示し、今度はサブスラスターの出力でアンカーを引っ張っているから出力を一気に弱め、姿勢制御スラスターの出力も弱めていく。

 少しずつ艦を下げてそのままレールに乗せる。レールに乗せる作業はそのまま下に下がれば良かったからかなり簡単だった。


「よし、お疲れ。こっからしばらくはアステールに任せて大丈夫だ」


 俺は椅子を回転させて皆の方へむく。

 メーデンはいつも通りだけどオッサンは冷や汗かいてるしアンジュは震えてる。


「こっから一気にワープホールまで向かう。飛び込んでしまえばこっちのもんだからな。オッサン、出来るだけ早く船を改修したいって言ってたよな。それが出来るのはどこだ?」


「あ、ああ。惑星ルファ。観光地としても栄えてるが、そこで俺の知り合いがデカい造船所をやってる。こっからなら四つくらい先の星系だが、ここのワープホール超えてしまえばあとは楽だ」


「よし。目標はそこだ。で、直近の目標はワープホール。アステール、ワープホールの位置をモニターに出してくれ」


 平面の図ではなくて3Dのホログラムでの図が艦橋内に表示される。ワープホールの位置は自分達が時計の6時なら今は1時の場所。コロニー自体がゆっくりと回転しているからな。ワープホール自体は動かなくても位置は変わる。


『ドックより発進。20秒後に擬似重力圏内より出ます』


 特に音もなく、静かに船が動き出す。船の周りに居る連中は騒いでいるが、聞こえない。


 他の皆はゆっくりしているが、俺はもうゆっくりしていられない。休めたのほんの一瞬だったな……


『擬似重力圏脱出』


 船の中には既にアステールによって擬似重力が働いているから無重力状態になることは無い。ただ擬似重力圏内から出る時にちょっとだけ胃の中の物が浮くような感覚があった。多分コロニーから船の擬似重力に切り替わる時に起きる現象なんだろうな。

 俺は椅子を元に戻し、万一のために操縦桿を握る。


「よーしアステール。レーダー感度を最大にして出来るだけ広範囲を探ってくれ。何がどこにあるかだけでも知りたいっ!?」


 いきなり艦橋の目の前を横切った緑色の光に俺は反射的に操縦桿を左へ。

 リミッター解除された姿勢制御スラスターによって弾かれたように左を向くグウィバー。俺は容赦なくサブスラスターの出力を叩くように最大まで上げてコロニーの影に隠れようとする。


「今のはなんだ……?」


『マスター。コロニーを囲む敵艦の所属不明。数は202。恐らくそこからの攻撃かと』


「多いな……」


 俺はレーダーに表示される赤点、つまり敵艦の位置と自分の位置を比べて上手くコロニーの影に入るようにする。ただ、囲まれているからどこに隠れても見つかりかねない状態だ。早いとこ脱出する方法を見つけねば。


「アステール、周囲警戒と操艦を一旦任せる。少し皆と相談したい」


『了解しました』


 俺は全てアステールに任せて、さっきと同じように皆の方をむく。


「さてと、コロニーから脱出したはいいが、やばい事になってる。簡単にはワープホールまでは行けなさそうだ。こちとら徳を積んできたつもりは無いし、むしろ地獄行きではあるが、これは酷だと思うんだが?」


「敵艦は約200、こちらは一隻で味方を増やせる見込みもなし……そうだ、コロニーに入る前の船はどうなんだい?まさか全部いないなんてことは無いだろう?」


『はい、アンジュ様。残念ながらコロニー周辺に存在する船は確認出来ません。敵艦が移動を妨害しているか、ワープホールで送り返されたか、仮説はそこまで多くありません』


「ならばこっからワープホールまでの距離は?」


『直線距離で200キロです。本艦ならば数十分と掛からずに抜けることが可能な距離です』


 駆逐級宇宙船の取り柄はその機動性だ。被弾しながらでいいなら多分一気に直進してワープホールには飛び込めるだろう……

 でも、


「オッサン、何発まで被弾できる?」


「主砲級は出来れば一発も、だな。副砲はどうてことない。相手の武装レベルがわからんが、主砲は下手すりゃ腹に当たっても貫通されるぞ。そもそもこの船は僅かとはいえ傷がある。時によっちゃそれが致命傷になりうる。死にたくなきゃ祈れ」


「なるほどね……あれが鉄の塊じゃなくてピーナツバターならなんてことねえのにな」


 オッサンが呻きながらそう答える。

 レーダーを見ると赤点はコロニーを囲むようにして微動だにしない。さっき俺が撃たれたのはコロニーから出てきたからだろう。現にコロニーの陰にいる今はどこからも撃たれていない。


「アステール、電子シールドの出力を最大にしておいてくれ。神に祈るのは最後だ。どうせこんな状況だ。神様なんてどうせカジノだろうよ。だったら俺らも賭けしようじゃないの」


『了解』


 俺はニヤリと笑いながらもそっと呟く。


「なんもせず大損よりかは抗って儲けようぜ」


 モニターに表示されたレーダーとにらめっこしながらオレはこっからを考える。

 下手に動けば蜂の巣。

 かと言って出なければコロニーにも戻れない。


 そもそもコロニーの外に出たのが間違いだったか?いやいやまさか。こっからよ。


 すると艦橋の窓の端で爆発が見えた。


「なんだ!?攻撃か?」


 レーダーと窓の外の間に視線を往復させて何があったのかを観察する。アステールが何も言わないあたりこの船に特に影響がある訳でもないが、何が起きたのかわからないのだろう。


「いや違うな。あれは事故の爆発だ。船の部品が散らばっている。陽電子砲での攻撃ならもっといい勢いで散らばる」


 窓に張り付きオッサンが冷静に窓の外の状況を分析する。


「なら何故事故が……」


「わからんが……あれは?」 


 オッサンが指さした先にはコロニーから出てくる船が何隻も。

 そしてそれが攻撃されてどんどん爆発していく。まるで爆竹のようにだ。


「リュウ、多分私たちと同じだよ」


「同じって……まさかスラスターで無理やりか?」


 そんな無茶な!やった当人な俺が言うのはどうかと思うが、無茶すぎる。


「うん。でも私の……勘だよ?」


「勘でもいいしむしろ助かる。でも同じようにやったからって上手くいくとは限らないのに」


「みんな考えることは同じだよ?」


「そうだな」


 みんな脱出したい。それで俺たちはスラスターを全力で動かして無理やり脱出した。多分それを見ていた誰かが真似したんだろうな。最初の爆発は何かで失敗したか。


「アステール、さっきの脱出で船に出来た損害は?」


『ダメージコントロールが必要な損害はありません。しかし全てのアンカーにかなりの負荷が掛かりこれ以上の使用は危険です。またガントリーロックとの接触部は解除時の衝撃による凹み有り。姿勢制御スラスターはコロニー内部での駆動にて温度が危険域に突入。現在冷却を行っています。部品破損などの問題は確認されません』


「一応損傷はあるけど問題無しか。もう一つだ。実弾兵器の残弾は?」


『ミサイル残弾106発、電磁投射砲残弾54発、魚雷残弾20発、拡散発熱弾フレア20発です。全武装使用可能です』


 結構余ってるな。一度も使ってなかったし、買い物した日に結構買い込んだのもあるからな。それのせいで残金が例の4000万以上を除いて100万切ってたわけだが。だけど今では十分な投資だったろうと思える。


「なら電磁投射砲以外いつでも発射出来るようにしておいてくれ。特に拡散発熱弾は頼んだ」


『了解』


 これで一先ず万一の時の防衛はなんとかなるだろう。

 宇宙空間での熱源感知はミサイルなんかの誘導兵器にはもはや必須機能と言っていいほどのものだ。宇宙空間では熱は伝播しない。だけどスラスターからは熱が放射されている。細かなとこまで突き詰めると電磁波とかそこら辺まで行き着くそうだけどそこら辺はもうわからない。とりあえずミサイルとかはそれを感知して誘導されるってことだ。それに対抗するにはやはり熱を放つものでって訳だな。


「……そういえば、みんな怪我とかは無いかい?これでも私は医官だ。ろくに道具とか無いけど応急処置くらいは出来るよ」


 金髪真紅の瞳の医官、アンジュが手持ち鞄を見せながら皆に話す。聞いた感じだと本当に着の身着のままって感じだな。でも医官を置いていくとは……本庁ってとこは何を考えていたんだ?衣食住は生命が生きるのに必須……って訳でもないか、食はともかくな。だがどんな生命体でも医療の恩恵は受けるそうだし、本来食料と同時に連れ出すべきなんだけどな医官は。


「アンジュ、助かる。ねえ、ここ赤くなってない?」


「大丈夫だよ、メーデンちゃん。君の白い肌は白いままだ。ぶつけてもこの分だと痣になることもないからね」


「ありがと」


 他にもオッサンの娘さんとかもアンジュに見てもらっている。俺もだけどさっき思い切りぶつけたからな。あ、俺はなんともないぞ。アンジュが皆の手当をしている間、何とかして極力戦闘を避けてワープホールに飛び込む方法を考えなければならない……と言ってもなんも浮かばん。さっきも言ったが飛びだしたら蜂の巣だ。しかもこっちは一発も当たってはならないと来た。

 難易度ルナティックの弾幕並だぞこれは。それに弾幕消去のボムなんか持ってないんだ。


 すると椅子に座ってじっと外を見ていたメーデンがアステールに問いかける。


「ねえアステール。ワープホールじゃなくてこのコロニーが動いているんだよね?」


『はい。擬似重力の発生のためにも十二時間周期で回転しています』


「なら、私たちが居るこの辺りとワープホールが一番近づくのはあとどれ位後?」


『少々お待ちください』


 

「……メーデン、それどういうことだ?」


「リュウ、簡単な事だよ。それにさっき話したよ?自分たちは動いてるって。だったらそれに合わせてこの船も動いて、ワープホールに近づけばいいの」


「確かに……確かにそうだ。どうしてそれを思いつかなかったんだ!」


 ワープホールは動かない。こっちはコロニーに合わせて動いてる。太陽と地球みたいな関係だ。地球が動くから太陽は昇って沈む。全く同じじゃないか!


『マスター、メーデン様。試算段階ですが計算結果が出ました。直近ですと、我々とワープホールが最接近するのは約300分後です』


「だいたい五時間か。よし、それまで一時休息。アステール、船の簡単な確認を頼む。あと、最接近したそのタイミングでワープホールに向けて直進する。撹乱のためにミサイルを放とうと思う。準備を頼んだ」


『了解』


 よし、次だ。レーダーを操作して広く浅くのような探知では無くて狭い範囲の正確性の高いものに切り替える。ワープホール周辺の敵艦の総数を知るためだ。


 ワープホール周辺にはやはり敵艦は集中している。ただ重巡級以上の船が確認出来ない。しかも軽巡級すらもほんの数隻であの場にいるのはほとんどが駆逐級だ。これはいい情報なのだけど悪い情報でもある。駆逐級が多いということは機動力があるということであって、仮に突っ込んだら駆逐級の速度で追われかねないという事だ。他のところに誘導しようにもこれだけの数だと難しい……



 ただそう考えている間にも時間は経ち、軽食や仮眠など休息を摂って辛うじて考えがまとまった所でついにタイムリミットとなったのだった。





「アステール、メインスラスター点火」


『メインスラスター点火。各機関異常なし。全スラスター最大運転可能』


「よし。上々だ。電子シールドは現状を維持。多少主砲の威力は落ちても構わないからシールドに回せ」


『了解』


 後ろを振り向くと皆静かに頷いてくる。俺はそれにニヤリと返し、メインスラスターのスロットルを奥まで押し込んだ。


「300メートル駆逐級宇宙船グウィバー、発進!」


 メインスラスターとサブスラスター、さらに姿勢制御スラスターの全力運転でグウィバーは一気に加速する。

 同時に敵艦も俺の船に気がつくが、もう遅い。発進と同時に発射していたミサイルが敵艦に降り注ぐ。

 あちこちで球状の巨大な爆炎が広がる。命中した証拠だ。


 今のグウィバーはまるで炎の矢だ。色んなスラスターから火を吹いて高速で進んでいる。

 姿勢制御スラスターで戦闘機もびつくりな機動を行いながら敵艦の攻撃を避けていく。後ろからたまに悲鳴が聞こえるが気にしない。


 ミサイルが着弾し撃沈した艦の横を通り過ぎるとミサイル反応。どうやら相手の反応はも悪くないらしい。出来ればミサイルとかは温存したいので一気に船を右側にロールさせながらフレアを一発分炊く。上手い具合にフレアのところをミサイルが何発も通過し、爆発する。ロールした先には駆逐級宇宙船。葉巻型で、俺がコロニーに着く前に襲われた宙賊の船に似ている。


 その船にはアステールが右舷主砲をそちらに向けて即座に発砲。電子シールドに弾かれることなく敵艦に大きな損害を与える。

 前方に何隻か集まり始めているので誘導機能付き魚雷を2発発射。その間に艦側面のレーザー砲類を乱射しミサイルを撃墜したり、先の宙賊を撃沈したりする。

 さらに左舷主砲全基を軽巡級に向けて発射、一発弾かれたものの残りの五発で致命傷を与える。と、ここで2発目のフレアを発射しミサイルと魚雷を同時に避ける。

 アステールによって周囲に集まり始めていた駆逐級を一斉にロックオンし、ミサイルを一斉射する。そのタイミングで姿勢制御スラスターを駆使して一気に船の位置を下げて真横からグウィバーを狙っていた船から見て下の方に入り込む。


「アステール、主砲!」


 砲の仰角のみを変えて主砲が敵艦を撃ち抜く。致命傷かはわからないが損傷は与えた。

 艦をロールさせてフレアを展開しながら敵の攻撃を避けた瞬間、船に強い衝撃が。


「「きゃあ!」」


『艦尾電子シールドに陽電子砲被弾。艦本体に損傷無し』


 かなりの速度で抜けてるつもりだったけどこれだけの乱戦なら一発くらい当たるな。でもシールドを抜けてくる可能性の高いミサイルじゃ無きゃいい。


「我慢してくれ……まだまだこっからなんだ」


 この高速機動で進めたのはまだ四分の一程度。加速もまだ出来るからそれなりに時間は短縮出来るだろうが……


「ね、ねえアステール。ワープは無理、なの?」


 ああ、それか。実は休息中に俺はデバイスでアステールに聞いて答えを聞いていたのだが……


『メーデン様。設置されたワープホールが近すぎるのです。本艦のワープドライブは起動しワープも出来ますが、設置されたワープホールと干渉してしまいます。結果がどうなるかはデータがありませんので回答不可です』


「そっか……」


 ワープホール同士の干渉なんて何が起こるかわからない。予想しか出来ないが良くて変な所へのワープ、悪くて次元の狭間への落下。この前まとめた資料にワープについて書いたが、そもそもこの宇宙世界の生命体もワープ技術が何故出来ているのか不明なのだ。物質とか亜空間とか……



『電磁投射砲、発射準備完了』


 おっと、用意ができたようだ。


「よし、主砲の代わりに発射できるのなら発射しまくってくれ」


『了解。発射します』


 モニターの端に電磁投射砲のマークが出る。アステールの管理下にある表示がある。

 電磁投射砲が発射されると同時にレーダーの赤点が消えていく。

 確かに実弾兵器のなかでも主砲並の威力はあるから当たりどころが良ければ一発で沈められる。


『主砲角度調整、発射』


「アステール、残弾は気にするな!」


 ミサイルの発射音は相変わらずだがどこか力が入っているようにも感じる。


 3D表示レーダーをモニターに表示して戦闘機ゲームのように敵艦を避けていく。


 ミサイルが真横で着弾する。ミサイルが遅いんじゃない。敵艦の位置が悪かったのと船の速度が早すぎるのだ。

 船を右に左に動かして敵艦の破片などの隙間を抜け右舷主砲を限界まで外側に動かして発射する。発射と同時に左へロールさせることで発射された主砲で相手を切るような動きをする。船下部の姿勢制御スラスターを一気に稼働させてさっき下降した分を元に戻してそのまま上がり続け、電磁投射砲の射程内に敵艦の大半を収める。主砲やミサイルの的となるが、アステールの電磁投射砲とフレア、さらにレーザー砲で実弾兵器はほとんど撃墜される。主砲は全力展開しているシールドに防がれ、強い衝撃を与えてくるが問題ない。

 

「アステール、距離は!?」


『現在目的地までの距離は52%踏破』


「半分か、心臓に悪いことで!」


 レーダーにミサイル反応が映ると同時に姿勢制御スラスターで加速し船の角度を変えてワープホール方向へは慣性で進みつつ左舷側に弾かれるように移動する。俺の操作ではなくてアステールによるものだ。避けた瞬間砲撃が通り過ぎたから発射を感知していたのだ。


 レーダーを見ると少し先に広い空間が。


『マスター。先に開けた空間があります。退避できるかと』


「ダメだ。そこに入ったら袋叩きに会うぞ」


 罠ってのは見え見えだ。でも距離的にはそろそろ6割だろう。希望は見えてきている。


「メーデン、オッサン、誰でもいい。機関の状態を教えてくれ。アステールはそこまで回らない!」


「おっしゃ任せろ。……うおっ!」


「悪い!かなり揺れた!」


 船を一気に右へ曲げたからオッサンが吹っ飛ばされかけた。こっから少しの間揺らせないな。


「アステール、主砲のエネルギーをシールドへ。少しの間一気に直進する」


『了解。主砲のエネルギーをシールド発生装置へ全注入』


 姿勢制御スラスターの角度がアステールによって調整され、それを確認すると俺はスラスター出力の調整ができるよう設定されたペダルを一気に踏み込む。

 速度が変わったようには感じないが、変に角度を変えたりしていないからやたらと早くなったように感じる。


「リュウ、機関正常!ぶん回してるから数字はデカいが問題ない!」


「ありがとよ!……このまま突っきれるか?」


 ミサイルと電磁投射砲、魚雷を同時に放って前方の敵を粉砕し、突き抜けているとそんな考えが頭をよぎる。

 だけどその緩みが命取りだった。


 ドガンッ!


「「うおっ!?」」

「「きゃあ!!」」


 あまりの強い衝撃に俺は操縦桿を奥に一気に倒してしまった。幸いアステールがすぐに持ち直してくれたようだが、皆を危険に晒したことは変わりない。また、ペダルからも足を離してしまったから操縦桿を握り直してもう一度ペダルを踏み込む。


「アステール、なにが……あった?」


『右舷船体艦首側にミサイル被弾。右舷船体艦首喪失ロスト。右舷一番砲塔及び右舷船体魚雷発射管使用不可。右舷電磁投射砲衝撃により小破。連射は危険。被弾による内部気圧の調整、弾薬庫への引火は問題ありません』


「ついに被弾したか……航行に支障は?」


『ありません。しかし姿勢制御スラスターの効果は薄れます』


「ならば結構。魚雷への引火だけは気をつけろ。距離の残りはどれくらいだ?」


『残り30%』


 三割か……今まで通り抜ければ行けるか。


『マスター、目的地であるワープホールへのネットワークアクセスに成功しました。ワープホールの展開状況問題ありません』


「敵艦からの干渉は無いのか?」


『はい。しかし私もワープホールそのものには干渉出来ません。なので敵艦もおそらく放棄したのかと』


「なるほどねっ!」


 モニターに通知が来ていたが気にする余裕も無く艦を傾けフレアを展開しミサイルを誘導。何発かシールドに掠り爆発したが船にダメージは入らない。


「アステール、残りの距離は短い。ミサイルも魚雷もフレアも使い切って構わない。このまま突っ込むぞ!」


『了解。ミサイル発射』


 熱源誘導によってミサイルは散開。あちこちで爆発を起こす。同時にミサイルよりも爆発の威力的には上の魚雷が左斜め前方に居た軽巡級に直撃。ミサイルなんかに引火したのか艦が一撃で大破する。主砲も絶えず放つが右舷側が使用できない今主砲によって与えた損害はかなり少ないように感じる。


「……今まで気にしてなかったがこうして見るとかなりデカイなワープホールってのは!」


 敵艦を避けるので精一杯で気が付かなかったが、目の前には直径だけでも数百キロはあるんじゃないかと思うくらいデカい大きな青白く半透明な渦があった。


「このまま飛び込めばいいんだな?」


『はい。データベースによるとこのワープホールには加速は必要ありません』


「なら加速したまんまでもいいってこった。よっしゃあと少しだ!」


 最後のフレアを展開しミサイルを避け、いつ壊れるかわからない電磁投射砲をぶっぱなして敵艦を潰す。ミサイルも残弾少なく、ああ言った手前ここぞと言う時にしか使えない。


「うわっ!」


 また衝撃だ。ミサイルの時よりは小さい。でも毎回心臓に悪いな!


『敵艦主砲左舷装甲板に直撃。副砲10、重レーザー砲1使用不可。ダメージコントロール成功。艦内気圧問題なし』


「レーザーがやられたか……」


 ここに来るまで何度か被弾しているが、気にしていたのは主砲やミサイルなんかのデカいやつ。副砲みたいな弱いやつは一々気にしていなかったのだ。それは敵艦も同じで、副砲程度の弱い攻撃は気にしない。だが副砲には大事な役割があり、それはミサイルの迎撃である。フレアが間に合わなかったもの、フレアに誘導されなかったもの、これまでにも何発か来ていたが、それらは皆シールドに当たる前にこの船の副砲のレーザー砲が迎撃していたのだ。今回それが半分やられたという事は……


『敵艦ミサイルシールドに直撃。衝撃により副砲3使用不可』


 こうなるわけだ。敵艦の副砲で少しずつ蓄積されたダメージは主砲やミサイルの衝撃程度でも武装を壊していく。


『ミサイル残弾0、リソースを電磁投射砲制御に切り替え』


 ついにミサイルが切れた。でもワープホールは目の前だ。距離も10%を切った。


「アステール、全武装が破損しても構わない。何とかして周囲に居るやつだけでも一掃しろ!後のことは気にしなくていい!」


 この船の長としてはどうかと思うだろう。だが俺には一つ確信があった。

 さっきの通知。これが正しければ……


『右舷電磁投射砲大破。使用不可』


 ドカンッ!!


『左舷装甲板にミサイル被弾。左舷レーザー砲全基使用不可』


 アステールが淡々と報告し、皆の悲鳴が聞こえるが、もう避ける必要は無い。


『右舷船体に主砲擦過。航行に支障なし』


 細かな傷は増えていく。いくらシールドで防いでいると言っても防げるのは一部。また一部は抜けてしまう。こちらはフレアというミサイル誘導手段を失い、レーザーという防衛システムも半壊し、細かな傷のせいで無事な砲塔など一つもない。だけど……


「みんな!俺たちの勝ちだぞ!!」


『ワープホール突入まで残り10秒』


 とうとう敵艦連中は俺たちの前に船を突っ込ませてまでワープホールに突入させまいとしてきた。だがそれは不可能だ。


『主砲、電磁投射砲発射』


 陽電子砲と近距離での実体弾の直撃により撃沈。

 まだこちらの武装は生きている。ミサイルなんかは使用出来なくなっても主兵装の陽電子砲や電磁投射砲は生きている。


『右舷装甲板に複数被弾。後部甲板主砲1重レーザー砲1、副砲7使用不可』


 艦橋をとても強い衝撃が襲うが、さっきまでの悲鳴とは真反対に皆の顔は呆けたり、笑顔だったり。もうわかっているからな。


「もう大丈夫だ」


 残り3秒。

 おーおー、連中味方に当たるのも構わずミサイル一斉射か。


「くっくっく、あばよ!!」


 俺たちはワープホールへと飛び込む。


 大量のミサイルと一緒に……船からの破片を撒き散らしながら。



★★★★★★★★★★★


あと2話ありますよ!

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