イエスロリータ・ノータッチ!



「アステール、ポッドの中身は?」


『生命体です。ポッド機能の低下もありかなり衰弱しているかと。生命反応は健在』


「よし、治療に回す。どこに連れていく?」


『ポッド輸送のため一時的に艦内の重力制御をオフラインにします。先程身につけていただいたブレスレットデバイスを通じ案内を行います』


「わかった。治療機器の準備を頼む」


『了解』


 微かな振動と共に俺の身体はフワリと浮かび、まだ慣れないながらもボロボロのポッドをアステールの案内で運び込んでいく。




 時は数時間前に巻きもどる。

 俺とアステールがカメラで捉えた謎のポッドを見つけた辺りだ。

 俺もアステールも情報が無いから、そのポッドが敵か味方かなんてわからなかった。


 仮に中身が人なら見捨てるのは寝覚めが悪い。それにもしかしたら何か新たな情報が得られるかもしれない。


 本音と建前を立てつつとりあえずそのポッドの救出作戦に移ろうとしていたのだけど、そこでアステールから待ったが掛かった。


『マスター。一つお伝えすべきことがあります。マスターがこれより向かうコロニーは様々な情報が集まり、現状最優先事項となっています。しかし、この星系には人工物と呼べるものは一切存在していないのです。あのポッドも見た目はコールドスリープポッドですが、場合によっては危険物の可能性があります』


 だそうだ。

 確かに言われてみれば、アステールはさっきからこの星系にこだわっていなかった。ちょっと考えればこの星系は無人かもってわかったよな。どうやらとにかく情報が欲しくて急いてしまっていたようだ。


『しかし、ポッドにはログボックスが存在します。あのポッドがいつまで活動していたかは不明ですが、解析すればここがクラル星系という情報以外になんらかの組織的な物の縄張りである情報も入手できるかもしれません』


 なるほどな。それにしてもアステールってまるで人みたいだよな。AIなんだろうけど、それならばとてもよく出来ている。


「わかった。まずはポッドのログボックスの回収を最優先。ドローンを使って確保出来るな?」


『可能です。C型装備ドローン六機射出。接近まで120秒』


 俺は艦橋のメインモニターでそのドローンがポッドの方へと向かうのを見ていた。

 テレビで見て知っていたが、宇宙空間で物を取るというのはアームなんかを使うのが当たり前だ。でも今回の場合はこちらはほとんど移動出来ず、相手は常に移動し続けている。さらに、ポッドの周囲にはポッドから剥がれたと思われる物体がかなり多く、アームでは上手く捕獲出来るかどうかわからないらしい。だから今回使うのはドローンにネットを持たせ、アステールが操作をし、対象のポッドをネットで包み込むように捕獲するらしい。

 宇宙空間でそんな上手くいくのかと気になるけど、ここはアステールに任せるしかない。

 俺の役目はその後。ポッドを船内に取り込んでからだ。



 ……と、今に至る。


 アステールのドローン操作によってこの船の後部にある格納庫からポッドを取り込み、気密をしっかり確保したら俺がそのポッドを運ぶ。

 アステールがデバイスを遠隔操作し、表示するARだかそれに近いホログラムによるマップで案内される。が、デザインしたとはいえ完全にこの船の構造を把握できているわけではないからどこに行けばいいのかイマイチわからない……

 さらに言えば俺は無重力状態での身体の動かし方を知らない。アステールによると、既にその状態での対処法はインプットされているようだから感覚でわかるという……


 だからもう身体を思うままに動かしてポッドを掴み、地面を蹴ったんだ。力を入れれば入れただけ前に跳ぶ。曲がるのは難しそうだ。

 ほぼ真っ直ぐなのは楽でいいんだけどね。


『マスター。次の角を右に。その先にある扉を開け、ポッドを所定の位置に。その後は私がハッキングを掛け、強制的に管理下へと置きます』


「わかった……あの扉か」


 両開きの扉にも見える大きな扉の前まで来た。止まるのは難しいが、近づくと勝手に扉が開き、まるで手術室のような雰囲気の部屋が現れる。

 ポッドを含め部屋の中に入ると、天井から折りたたまれていたロボットアームが伸びてポッドを掴む。どうやら所定の位置ってのはこのためだったようだ。


『マスター。重力制御をオンラインに切り替えます。その後に隣室へ。ポッドの様子がモニター出来ます』


「助かる。ログボックスの解析なんかは任せる。もしも中身が生きていたら……俺にも手伝わせてくれ」


 重力制御が元に戻り、俺は数分ぶりに床に足を着けた。ああ、床があるって素晴らしい。


 そのまま隣の部屋の扉を開けると、さっきまで壁しか無かったのに向こうが見えている。マジックミラーか何かか?


 アステールの言うように、そこにはいくつかモニターがあって、既にドラマで見るような心電図とかが表示されていた。


『マスター。コールドスリープ状態では人類の平常時とはかけ離れた身体状況へと変化します。しかし、ここから解凍処理を行いますがポッド内部の生命反応は先の通り微弱です。マスターには万が一を覚悟して頂きたいのです』


「そうだな。……大丈夫だ。ところで……俺を解凍するときになんらかの薬剤を投与しただろ」


 実を言うとなんか変な感覚はあったのだ。パニックにならないというか。似たような感覚を俺は知っている。


『はい。報告が遅れ申し訳ありません。コールドスリープ施術時と解凍時の環境の違いによるパニック症状を軽減するための鎮静剤投与に加え、施術直前の24時間の記憶の消去処理を行いました』


「なるほどな。道理で変に落ち着いていられるわけだ。一旦それはいい。記憶消去処理だと?」


『はい。我々AIが有するコールドスリープに関する記録だと、コールドスリープ技術開発初期は先程の通りパニック症状軽減のための対処として行われていました。しかしもう一つ狙いがあり、それはコールドスリープ技術の漏洩を案じてのことでした』


「そういうことか。ならしょうがない」


『はい。……ハッキング完了。ポッド全機能を掌握。現在ポッド生命維持機能稼働率4%……エネルギー強制注入開始。全システム再起動失敗。再度試行。……失敗。……ポッドライフキープシステムジャンプスタート。……ポッド全システム再起動を確認。ログ抽出開始……ポッド生命維持機能再起動完了。コールドスリープ施術者の生命維持を再開。……生命維持に緊急不安要素発生。ポッドシステムオーダーにより施術者の緊急コールドスリープ解除を開始。解凍まで600秒。……ログ抽出完了。管理者権限において緊急解凍における生命維持機能を除き全システムをシャットダウン。全リソースを生命維持に。……残り430秒。コールドスリープ解除シークエンス開始』


 へぇー、コールドスリープポッドって色んな機能あるんだな。アステールが逐一分かりやすく報告してくれたからどんな機能を持ってるのかよくわかる。アステール程とはいかなくても簡易的なAIは搭載されてるんだな。


 この報告の間目の前の計器がアラートを発したりしたけど、すぐにアステールによって消された。心電図の他に体温の上昇率や体内酸素濃度値、体内栄養素値など俺がパッと見れるだけでも数十の項目とそれに対応したモニターやウインドウが展開されている。


『マスター。緊急解凍処理の最中ですが新たに報告です。予定よりも早くエンジン出力が上昇しています。現在スラスター起動に必要なエネルギー出力量の最低値突破。エンジンの完全起動まで残り15時間』


「よし。ならば目的のコロニー方向へ艦首を向けることくらいは可能だな。……そうだ。コロニーへはどうやって向かうんだ?スラスター全開で進むのか?」


『いえ。二重粒子加速変換エンジンに搭載された空間歪曲跳躍ドライブシステム、通称ワープドライブを使用し、本艦の座標から星系外へ向かいます』


「ワープ!?そんなのが存在するのか!?」


 ワープ。SFに触れたことが無くとも知っている言葉だろう。ワームホールやらワープの方法は色々と言われていたが、まさか本当に実在することになるとは。

 あまりの衝撃にもし鎮静剤投与されてなかったら驚きのショック死があったかもしれない。


『ワープドライブシステムは私が受信した通信の中に含まれていた情報でした。その情報を元にアップデートの際に本艦のエンジン構造の中に含みました』


「そうなのか。でも俺の知識の中には無かったぞ?」


『現在マスターにインプットされているのは本艦の最低限の操艦知識のみです。今後、総合的な本艦の情報、宇宙空間における基礎知識、簡易戦闘術などのインプットを行います。これらは対象者の意識、つまりマスターの意識ががはっきりしていなければインプット不可能なものなのです』


「なるほどな。ならしょうがないな。じゃあ移動中にでもインプットできるならやってくれ。……ところで俺はまだここに居た方が?」


『いえ、艦橋に戻って頂いて結構です。しかし、そろそろコールドスリープの緊急解凍処理が終了します。ここはマスターが立ち会われた方が良いかと』


「わかった。それじゃあコロニーへ向かう操艦は任せていいか?」


『了解』


 目の前のモニターではバイタルが上昇し、多分一般的な人の数値に近づいているのだと思う。


 俺は隣の部屋に戻り、ポッドの横に椅子を持ってきて座る。


 さてさて、中身が無事だと良いんだが……

 あ、生きてるなら出来れば美人なお姉さんとかだと嬉しい。いくらロマンたっぷりな宇宙の旅とはいえ仲間は欲しいし男だらけのむさ苦しいのは嫌だ。

 理想は……そうだな、金髪で胸は大きめで身長は同じくらいのお姉さんを希望する。


『ポッドロック解除』


 パシューッと音を立ててポッドの上部分が開いていく。

 俺の時とは違い、ドライアイスみたいな煙がポッドから溢れ、中身は見えない。


 少しして、その煙が晴れたそこには……


「こ、これは………いやまさかな……」


 この見た目……いや、


「う、うう……?」


「くっ……、い」


「い?」


「イエスロリータ・ノータッチ!これ以上はアカン!」


 なんということでしょう。


 宇宙で拾ったポッドの中にはパイロットスーツみたいなピッチリした服を纏ったどう見ても一発ポリスメンなロリ巨ny……ゲフンゲフン、女性が入っていたのでした。そのスーツのせいで身長の割にやけに成長している身体のラインが浮き出てしまい、ついついあのような言葉を発してしまった。


 言語機能は生きているのか?

 衰弱していたはずなのに、目だけはちゃんとこっちを見ている。


 うわぁ……地球か分からんけど未来の技術ってすげー……


 そう感じた俺であった。







 さて、またまた時間はしばらく後。だいたいあのポッドの中身の女性が目を覚ましてから数時間ってとこか。

 しばらく様子をみて、彼女も落ち着き、たまに声を出しているから発声も問題ないだろう。


 アステール曰くコールドスリープからの解凍は俺に施したようなゆっくりと色んな検査を行いながら解凍していくものと、色んな検査をすっ飛ばした緊急解凍処理の二つがある。

 前者はもちろん安全性が高い。それだけだ。後者は数十分以内に解凍を行えるが、その分かなりの危険が伴い、場合によっては重篤な後遺症が残ることもあるようだ。そのため特殊な状況下でなければ行われない方法だとか。

 しかしさっきのポッドはその特殊な状況下にあったらしい。

 ポッドはコールドスリープ状態の女性が入っていた部分を除いてほぼ全壊。ログによると、小惑星の破片に衝突し、ポッドの保護システムが破壊され、本来ならば表に出ないはずのポッド部分が露出。

 

 アステールのログ解析からこのポッドは元々なんらかの脱出船に搭載された物で、宇宙空間の無重力により移動を続けていたところ小惑星の破片に衝突。脱出船は半壊、加えて進行方向もズレ、さらに脱出船の姿勢制御システムもダウンしたそうだ。その状態で宇宙空間を漂っているうちに少しずつパーツが外れていき、この船でポッドを捉えられるようになった頃には脱出船は細かな破片としてポッドの周囲を漂い中身のポッドだけになった状態だった。ボロボロだったのはそういうわけだ。


『マスター。ログの解析によりこのポッドが脱出船に搭載され宇宙空間に射出されたのは約285年前と判明しました』


「285年も漂ってたのか……しかもポッドだけでか。確かにポッドだけの耐用年数は3年とかって言ったよな」


『はい。脱出船の生命維持システムを司る機器が分解したのが二年前。ここまではポッドそのものの生命維持システムのみで生きていたようです』


「なるほどな……」


 俺は他にも報告を聞きながら目の前に寝転がる女性を見る。


 やはり緊急解凍処理を行ったから何か問題があるかもとの事で今はさっきの部屋の隣、モニターが沢山ある部屋のソファに寝かせている。

 相変わらずこちらをじっと見つめてくるから少し居心地が悪い。


「あー、とりあえず俺の名前はリュウジだ。リュウとでも呼んでくれ。えー、あー、その、自分の名前とか言えるか?」


 あーもう、コールドスリープなる前に女性と話したのなんて数人だけだからなんて言ったらいいのかわからねえ。

 好きな食べ物でも聞けばいいのかな。読んだ本ではデートに使える言葉十選の中に入ってた文章なんだけど。少なくとも政治宗教野球はダメだってことは知ってるからな。だったら卓球チームでも聞いてみるか?


「私……?」


 声は見た目相応か。なかなかかわいらしい。

 改めて彼女の見た目だが、桃色がかった白い髪に、桃色の瞳。身長はアステールによると147cm。どことは言わないが、とても大きく、某汎用人型決戦兵器人造人間に乗れそうなスーツを纏っているからかその大きさがとても強調されている。そう、乳袋とでも言うべきものは付いている。


「そうだ。名前、ネームだな」


「……ない」


「ない?ナイって名前なのか」


「ちが……う。無い。名前、無い」


 名前が無い?そりゃまた。でもコールドスリープするのにその人の情報一切無いってのはおかしくないか?アステールだって俺の情報持ってるんだし。


『マスター。彼女の情報はポッド内のログを参照しましたが一切発見できませんでした。意図的に削除された訳ではなく、元から入力されていなかったようです』


「なるほどな……」


「あ、あの……」


「お、どうした?どこか痛かったりするか?」


 彼女の頭の上に設置されているモニターを見ながら問う。


「今……のは……誰?」


「今の……ああアステールの事か。この船の管理をしているAIだ」


『初めまして。アステール、と申します。以後お見知りおきを』


「ど、どうも……」


「だいぶ調子も戻ったみたいだな。ならば名前決めちゃおう。なんか希望とかあるか?」


 さすがに俺の一存で決められることじゃないからな。何かあれば嬉しいのだけど。


「わから……ない?」


 コテンと首を傾げられてもなぁ……

 ん?


「そうだな、俺が決めてもいいか?」


「……うん!」


 おう、目を見開いてブンブン首を振ってくるな。ははっ、ちょっと思いついたから聞いてみたけど、なんかものすごく期待されてる感じだ。

 ただ彼女の見た目的に……いやもっとシンプルでいいか。


「そんなに期待に満ちた目をされても困るが……メーデンなんてのはどうだ?」


「メーデン?」


「古い言葉で0って意味だ。さっき名前が無いって言ってたからな。その『無い』から取らせてもらった」


「メーデン……メーデン……メーデン……っ!これ、これがいい!」


「おお、喜んでもらえたなら何よりだな」 


『メーデン。ギリシャ語の0ですね。マスターの言うように掛けたのでしょう』


「そんな解説せんでも……あ、そうだ。アステール、ワープドライブの使用準備を頼む。このままコロニーに向かおう。というかワープ使えるのか?」


『はい。エンジンは完全に起動はされていませんが、現段階で生成されている全てのエネルギーをワープドライブへ回せば可能です。また既にワープドライブは起動済みのため、エネルギーチャージを開始。チャージ完了まで180秒』


「よし、メーデン。今から少しだけ忙しくなるぞ。まずは艦橋に向かうけど、体調とかは本当に大丈夫か?」


「うん。大丈夫」


 そうか。顔色も良いし、艦橋に着いたら座ってて貰えば目も届くからなんとかなるだろう。


 俺とメーデン、新たな同乗者はワープのチャージが進む間に艦橋へと向かうのだった。





『ワープ開始まで残り40秒。メインスラスターに点火。全エネルギーをスラスターに強制注入。加速開始』


「了解、加速等の操艦はアステールに任せる。……メーデン、ちゃんとベルトは締めたな?」


「うん。大丈夫?」


「何がとは聞かないが……アステールを信じろ」


「わかった」


『加速開始。加速値30%』


 少し背が椅子に押し付けられる感覚がある。


『加速値60%』


 艦首を別の方向に向けているから、最初に見えた星は真横だが、その星が少し動いているように感じる。


『加速値90%』


 船の振動が少し強くなる。

 正直怖い。でもそれだけなのは鎮静剤のおかげだな。メーデンの方は見れないわ。怖がってたなら後で謝っとこう。


『加速値100%ワープドライブ出力全開。ホール展開』


 二つの艦首から二本のビームが伸び、かなり先に光の渦みたいなものが形成される。


『ワープホール突入』


 そのアナウンスと同時に船は眩い光に包まれた。


 思わず目を閉じたが、もう収まっているようなので目を開ける。

 するとそこはとんでもない不思議空間だった。


「(な、なんだこりゃあ……)」


 船の外はなんというか……虹色みたいな色。見渡してみると、船の中も似たような色。


 メーデンも驚いているようだ。何か言っているようだが聞こえない。ワープ中はそういうものなのだろう。自分の声すら怪しいし。


 周囲を見渡して、メーデンと目が合いフフっと笑っていると、俺が座っている操縦席前のメインモニタにアステールからの一文が表示される。


『ワープホール脱出まで残り25秒。万一の事態に備え、武装システムのフルオンラインの許可を求めます。その場合、脱出後エンジンによるエネルギーは全て武装へ回されます』


 その文の下にキーボードが表示されたから俺は『許可』と打ち込んだ。


 確かにな。万が一ワープ直後に襲われたら俺達にはどうしようもない。備えあれば憂いなしってやつだな。

 このワープ空間では音声による伝達が出来ないだけで電子的な操作は出来るみたいだからAIであるアステールは船の武装制御も出来るのだろう。


 すると画面でカウントが始まる。


『5、4、3、2、1』


 ドオーンッ!!


 宇宙では存在しないはずの凄まじい音と強烈な衝撃が俺たちを襲う。


「いてて……」


「頭、ぶつけた……」


『主砲、重レーザー砲チャージ開始。現在本艦はワープ直後の惰性で進行中』


 ワープ中に伝えてきたようにアステールはすぐさまこの船の武装を展開する。


「アステール、主砲はどれくらいで撃てる?」


『主砲チャージ完了まで約十秒。ワープ直後のため少し時間が掛かります。次点で船体下部電磁投射砲です。レーザー砲は既にエネルギーはチャージ完了しています』


「わかった。アステール、しばらくワープ直後の勢いのまま進む。スラスター再点火は周囲の安全が確認されてから──」


 ピーッピーッ


『マスター、周囲にワープホール脱出反応。数は三。本艦の進行方向と同方向』


「なに?」


 すぐにレーダーを確認すると、この船のすぐ近くに三隻の船の反応がある。

 窓の外を見るとまるでサランラップの芯みたいな円柱状の宇宙船が左に一隻右に二隻陣取っていた。

 

 すると、帯域を指定しない無差別通信が入る。


『マスター。あの船からです。所属などは不明。確認できる武装はレーザー砲、陽電子砲。加えて電子シールド装置。スペックは不明ですが、おそらく本艦よりも下かと』


「なるほど。繋いでくれ」


『あー、聞こえてるか?本来なら一発ぶち込んでから話すんだが、あんたは一隻だ。一応猶予を与えてやる。積荷を全部置いてきな。そうすりゃ、見逃してやるよ』


 ふむふむ、テンプレな海賊……いや宇宙賊か?


『時間は30分だ。それまでに外に積荷を放り出しな』


「……なるほど」


「リュウ?」


「メーデン安心しろ。怪我ひとつさせねえよ。──アステール、俺に投与した薬……まだ効いてんだよな?」


 場合によっては殺す必要が……確実に殺してしまう。地球での仕事柄、人の生き死ににはある程度慣れてるつもりだけど……


『はい。効果時間内です』


 よかった。これでなんとかなる。


「ならば……」


 俺はコックピットに備え付けられたトランシーバーみたいなマイクを手に取りオンにする。

 窓に向けて中指を立て、


「はっ、手前らの要求なんか聞くかバーカッ!俺たちはコロニーに向かうんだ。逆に手前らから情報全部貰ってやんよ!──アステール、連中からの無線は一切拒絶。左舷の敵艦を優先!主砲四門で沈めろ!右舷は前方砲塔を敵艦に各一ずつ向けて発砲!後部主砲はチャージ状態を維持!」


 俺は無線を切り、アステールに指示を出す。


『了解。発射します』


 コックピットから見える艦の前方に配置されている左右計四基の主砲がそれぞれの目標に向き、仰角俯角などがアステールによって修正され発射される。


 発射された主砲──モニターの情報だと敵艦と同じ陽電子砲だ──は青白い光を引き、敵へと向かう。


「なっ、弾かれた!?」


 右舷に向けて放った主砲計四発の内三発が弾かれる。その時に何やら敵艦の周りで何か光った気がしたが……

 辛うじて命中した一発は敵艦に穴を開ける。が、致命傷にはなって無さそうだ。


『左舷は全弾命中。致命傷ではありませんが、沈没も時間の問題かと。──あれは敵艦の電子シールドです。本艦の陽電子砲は弾かれる可能性があります。が、それは敵艦も同じです』


「この船にも電子シールドが?」


『はい。既に展開していますが、エンジン出力の関係でどこまで弾けるかは未知数』


「そうか……。よし、主砲のチャージは継続。後部主砲は改めて敵艦を照準。同時に重レーザー砲を発射!」


『了解。発射します』


 アステールがそう答えた瞬間、船に強い衝撃が。


「うおっ!」


「きゃあっ!」


『全艦より本艦に向け主砲の発砲。計七発。内命中五発。本艦直撃三発。しかし装甲板で防ぎました』


「損害は軽微、加えて相手の主砲の照準もある程度外れることもある……と。主砲と重レーザー砲は?」


『全弾命中しました。致命傷にはならず。しかし、主砲で右舷奥敵艦の電子シールド発生装置を破壊。左舷敵艦は先のこちらへの砲撃で自壊、加えて本艦の重レーザー砲でさらに破壊。現在は副砲による砲撃を行っていますが、本艦のシールドで防がれています。現在エネルギー消費量の少ない副砲で本艦も迎撃中』


「シールドで防ぎ続けてもいつまで持つか……。よし、先に左舷を潰す。次に右舷奥。手前に関してはシールドで防げることを祈る」


『了解。発射します』


 発射された主砲は左舷側の敵艦を撃ち抜き、敵艦は爆発。何か爆発物にでも引火したのだろうか。


 右舷側からは青白い光を放つ主砲や、薄赤色の光の副砲が発射されている。

 時折シールドを抜け船の本体に直撃する。

 今は装甲板で耐えているが、耐えられるのは副砲クラスまでだろう。さっきは多分シールドである程度減衰したものだったから耐えられただけでシールドで防げずに直撃したら多分穴が空く。


『右舷損傷率軽微。右舷奥敵艦に主砲命中。沈没せず』


「アステール、電磁投射砲最大出力で用意。これで手前の船を潰す。照準は俺がやる。操艦、主砲、重レーザー砲は任せる」


『了解。電磁投射砲の照準操作を移譲します』


 その声と共に俺の右側に戦闘機の操縦桿みたいなレバーが現れ、目の前のモニターにカメラ映像が映される。


「リュウ……大丈夫?」


「ああ。大船に乗ったつもりでいろ。なんなら景色を楽しんでてもいいぞ」


 俺はメーデンに光線飛び交う外の景色を指さす。

 戦いじゃなけりゃすごく綺麗でロマン溢れる光景なんだがな。


 俺はレバーを動かし、モニター上の敵艦を狙う。

 実は戦闘開始から船の位置はほとんど変わっていない。と言うのも、こちらはワープ後の惰性で進み、相手はそれを追うように動いている。最初のこちら側からの斉射で左舷は推進能力を失い、右舷奥は主砲で空いた穴はエンジン近くで推進能力はかなり低下。唯一まともに動ける一隻も仲間意識が強いのか動こうとしない。

 と、普通ならただの的なのだけど、それはこちらも同じだ。エンジンはまだ出力は上がらず、推進力に回すエネルギーが無い。武装に回すしか今は取れる対処がないから今や

的VS的の戦いとも言える。


「アステール、相手の状況は?」


『こちらがスペックで勝っている状態です。連射性能、出力など辛うじてですが』


「そうか。先に奥を撃て」


『了解。発射』


 右舷に加え回頭させていた左舷側の主砲も同時に発射し、まずは奥の敵艦を破壊する。さすがに主砲八発分は効いたようだ。すぐに爆発四散。俺はそれに紛れるように手前の敵艦のエンジン部分を狙うように電磁投射砲を発射する。

 弾頭は炸裂弾。

 距離は約五千メートルくらいか。かなり近いな。

 宇宙空間は空気が無いから電磁投射砲の敵の空気抵抗が無い。つまり熱を持たないという訳だ。その代わりレーザーなんかで迎撃されたらどうしようもないが、この近距離、加えて爆発に合わせたから視覚情報に頼って発射しているならば……


『電磁投射砲命中。敵艦、推進能力喪失』


「よっしゃ。アステール、畳かけろ!」


『了解。しかし主砲のチャージは現在54%です』


「構わない!」


『了解。発射します』


 いかにシールドで防げるとはいえ、いかに主砲の出力が通常以下とはいえ十発以上の主砲の砲撃を受けて耐えられる船はそうそう無いはずだ。


 目の前の敵艦も例に漏れず、すぐに撃沈。

 俺たちは勝利した。


『戦闘終了。マスター、勝利です』


「おう……はぁ、さすがに疲れた」


「リュウ、お疲れ様」


「メーデン、ありがとな」


 メーデンがいつの間にか持ってきていたタオルを受け取り、汗を拭う。


『マスター、目標のコロニーの視認可能領域に到達しました。中央の強い光を放っている場所。あれが目指していたコロニーになります』


「あれが……」


 とても明るい星みたいだ。だが、少し違う色も混ざっている。なんというか、夜の新宿を遠くから眺めたような感じとでも言えばいいか。そんな感じだ。


「アステール、副砲による迎撃はいつでも出来るようにして、スラスターに再点火。進もう」


『了解。マスター敵艦から物資の回収は行わないのですか?』


「ああ、すっかり忘れていたな。──ドローンを射出。持ってけるものは全部持っていくぞ。強奪物資の確保とデータ整理はアステール、少し任せていいか?さすがに疲れた」


『はい、構いません。ではその間にデータインプットを行ってしまいましょう。マスター、その椅子をフラットにし、寝転がってください』


 俺は椅子の脇に付けられたレバーを引いて、車の椅子の角度調節のように倒す。


『ではそのまま眠って頂いて結構です。マスター、おやすみなさい』


「そうだメーデンも、少し休んでおけ。コロニーに着いたらまた忙しくなるから」


「わかった。リュウ、おやすみ」


「おやすみ」


 メーデンの声に手を振りながら俺は目を閉じる。


 初めてのコールドスリープ、初めての宇宙、初めての宇宙での出会い、初めてのワープ、この時代で初めての戦闘。


 ああ、なんて濃密な一日だったのだろうと。

 頭では現実と分かっている。しかし、片隅ではこれは夢だと考え、願いながら………




★★★★★★★★



前回、早速戦闘やるよ!と言ったな。あれは嘘だ。


でも、戦闘やったから許して!!


あともう1話投稿してあるよ!

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