最期の日

ほの

奥手な少女の話





『地球滅亡まで、今日が最期の一日となりました_』





無機質にテレビから告げられるアナウンサーの声。もう地球がなくなるって言うのに、私の心はどこか冷静でいた。





「美保。」





「ママ…。」





「…一週間楽しかったわ。今日はたっくさんお友達と遊んできてちょうだいね。」





「うん…ママ、ありがとう。大好き。」





ママとお別れのハグをして、炎天下の中外に出る。





地球滅亡が決まってから、私は残された日々を、存分に満喫しまくった。





小学校の頃の友達とレジャー施設に行ったり、ずっと行ってみたかったハワイに行ったりなんてこともした。昨日は家族との一週間旅行から帰ってきたばっかり。





今日は親友の莉亜と一緒に東京に遊びに行く。少し早く着いた駅では、すれ違うどの人たちも怯えたような表情をしている気がした。





「美保ー!」





改札口の向こう側から、無邪気な笑顔の莉亜が、ふわふわの髪を揺らしながら手を振っている。二人して電車に乗り込み、揺られながらぼーっと窓の外を眺めていた。





「地球滅亡って聞いてから一年ってあっという間だねぇ。高校生活まだ一年くらいしか堪能してないんだけど〜。」





「ね。莉亜は最期は翔と一緒?」





「うん。最期だから、一緒にいようってねだられて。」





「幸せそうで何より。」





翔は、莉亜の彼氏で、私と小学生からの幼なじみ。中学校から一緒だった私達三人で、高校でも仲良し三人組、なんて言われていた。





嬉しそうに翔のことを話す莉亜の顔は、小さな蝋燭が灯っているかのように見える。





「美保。着いたらまず何する?美味しいもの食べ歩くのもいいし、お洋服屋さんとか、雑貨屋さんとか見て回るのもいいよね!」





「莉亜の好きなところから行けばいいよ。私はどこでもいいし。」





「美保は最期まで自分の好きなことしないんだからぁ…じゃ、最初にちょっとなんか食べない?私朝なんも食べて来てなくって。」





「ん、いいよ。」





電車はゆっくりと駅で停車し、中にいる人を吐き出すように扉を開ける。人の波に呑まれないよう、私達は駅の出口をめざした。





「やっぱり東京は人が多いね〜。美保、はぐれないでよ?」





「莉亜こそ。迷子になって泣かないでよ。」





お互いの手を繋ぎながら、人と人の間を縫うようにして駅の外に出た。日差しが、歩く人々を溶かそうと言わんばかりに照りつけている。





「駅の近くにおすすめのカフェがあるんだ〜。行こ行こ!」





莉亜に引っ張られるようにしてカフェの入口をくぐる。





今日で地球がなくなるって言うのに、莉亜は笑顔を絶やさなかった。あまりに普通の話ばかりするから、また明日も会えるんじゃないかって錯覚してしまう。





それから私たちは残された一日をひたすらに満喫しまくった。





ありったけのお小遣いでお揃いのストラップ、お洋服、美味しそうで可愛い食べ物を大人買い。お昼ご飯の後は、レジャー施設ではしゃぎまくった。





楽しい時間はあっという間に過ぎ、現在午後五時半近く。莉亜はこの後翔と一緒に最期を過ごす予定らしいから、少し早めにお開きにすることに。





「あ〜楽しかった!美保、最期の日一緒に遊んでくれてありがとう!」





「私も莉亜と一緒で楽しかった。」





「…ねえ、美保。」





「何?」





「…美保と、親友で良かった。」





沈みかけている太陽を背に、莉亜は少し苦しげに微笑んだ。いつも笑ってる莉亜のそんな顔を見たら、私までも苦しくなってくる。





「私も、莉亜が親友で良かったよ。ねえ、来世も親友だよね。」





「うん!絶対!…あ、もうそろそろ行かないと。翔が待ってるしね。」





「うん、ばいばい。」





私は、莉亜が改札口を通って、見えなくなるまでその場に残っていた。そして、姿が見えなくなり、私は莉亜と反対方向の電車に乗り込む。





着いた先は、私が住んでいる街が一望できる小さな丘。私が小さい頃、翔とよく遊んでいた場所だ。





「もう、会えないなぁ…。」





ずっと前から、私は翔に片思いをしていた。





昔から奥手で、引っ込み思案だった私は、翔に思いを伝えられないまま小学校を卒業。中学生になって莉亜と出会い、親友に。高校生になり、なんか距離感が変わったな、と思って問い詰めてみたら、付き合い始めた、と言われた。





「結局最期まで言えなかったなぁ…。」





丘から見える空は、今まで見たことが無い色をしている。もう残された時間はきっと少ない。





「翔…。」





空が知らない色に染まる。頬を撫でる風は熱を持っていく。歪み出した景色は、この異常のせいか、私のせいか。





「…ばいばい。」





私は目を閉じて、最期の日を終えた。

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