十二、騎士ゼバドの繰り言

 窓からは、大光玉の光が眩く差し込んでいた。

 

 ハヌディヤー通りとは光の質も強さも違う。

 大光玉とひとくちにいったって比重はそれぞれ異なるわけで、街の中心部であるこのあたりは密度の濃い大光玉がまわされてくる。

 太陽の輝きとまではいかずとも、強く暖かい光は庁舎を包む。

 

 つまりおれが言いたいのは、それだけあの猥雑でうそ寒いハヌディヤー通りからは遠く離れてきたということであり、この後おれはその道を引き返さねばならないということだ。

 

 なんのために苦労をして庁舎までやってきたのか?

 きつい酒を浴びるためであればまだよかった。

 

 

「それで? 件の盗人はどうなった」

 

 

 少々立派すぎる男爵髭を称えた騎士カルキが、眉間に親指と人差し指を押し当てながらいった。

 

 

「調査中であります」

 

 

 おれは、生真面目な声で答える。

 騎士カルキたるもの誠実であれ、だ。

 

 「ゼバド隊長ジャーは関心のない局面では半目になっていてすぐに分かる」とかなんとか抜かしていたのはレティアだったか。

 生意気な部下だ。

 しかし遅ればせながらそいつは改善してみることにしよう。

 

 不自然に目を見開いてみると、覗き込むような百人長バッタと目が合った。

 こういう時だけ、この男は目敏い。

 

 

「鬼神足の道化イサイは?」

 

「調査中であります」

 

 

 百人長バッタの声はやや震えているようだ。

 おれは実直さを全面に押し出した声で応じる。

 口を開いた拍子に小さな舌打ちが出てしまうのはおれの悪い癖だ。

 聞こえていないことを祈ろう。

 

 

「レティア副長ベタはどこだね?」

 

「暇をやりました」

 

 

 欠伸を噛み殺したような声になったのは失敗だった。

 おれだってここのところ碌に寝ていないのだから、それも仕様のないことだろう。

 

 けれど心ない百人長バッタは、勢いよく机を叩いて立ち上がると、眉を吊り上げ怒鳴り散らした。

 

 

「ゼバド十人長ジャー、職務を全うする気があるのか、貴様!」

 

 

 そう、おれはわざわざ説教をされるために戻ってきたのだ。

 

 そうやって頭から湯気を出すくらいなら、わざわざ中間報告なんぞという下らんもののために集合をかけるなといいたい。

 また瞼が落ちてきてるのに気づいて、慌てて目をしばたかせる。

 

 

「聞いておるのか、ゼバド十人長ジャー!」

 

 

 再度ぶちまけられる大声に、流石に参ってきたおれはなんとか取り繕おうと言葉を返した。

 

 

「聞いていますよ、ポンプ百人長バッタ

 

「ポルパじゃ、ばかもん!」

 

 

 さまざまな騎士団長カルキジャーの寄せ集めを纏めあげるために都市参事会が定めた序列があり、古臭い百人長バッタって官職はそいつに乗っ取った呼び名だ。

 こういう地位にしがみつく種類の騎士カルキにとっては大変な誉れなのであろうと思い呼んでみたのだが、なにをどう間違ったのか百人長バッタの機嫌はだだ下がりである。

 

 騎士カルキたるもの質朴であれ、という言葉がある。

 報告は素早く正確であることが求められるわけだが、おれはそもそもこの質朴な報告ってやつが得意ではない。

 

 起こったことを洗いざらい正直に話せば、やれ民間人への被害だとか破損させた公共物についてだとか、余計なことをほじくりかえされる。

 

 悪は成敗された。

 以上。

 それでいいじゃねぇか。

 騎士カルキたるもの悪に痛烈であれ、だ。

 

 だからこそこういう面倒は普段レティアに任せてきたが、あの女め、ここに来て暇が欲しいだなんて抜かしやがった。

 まあいい。

 あいつの“暇”は使えるからな。

 

 しかし、黒風と鬼神足の二人と遭遇しておきながら逃しちまったのは流石にまずかった。

 くそったれめ、鼠よりも逃げ足の早い連中だ。

 

 それでもどうやら奴らになんらかの繋がりがあると知れたのはでかい。

 

 奴らはいっぱしの歌舞伎者ダリルだ。

 とくれば、捜索の舞台はアムカマンダラ。

 やりようを考えねばならん。

 

 最近話題の例の問題だって、騎士団カルキジャーチにはうまくない話であり、事態の収拾は急がれるはずなのである。

 その辺りの上の判断を、そろそろ探っておくっていうのも面白いな。

 

 おれは姿勢を正し、なるべく従順な部下を装いつつ百人長バッタを見つめた。

 

 

「ところでですね、パルポ百人長バッタ

 

「ポルパじゃというとろうが!」

 

 

 おれが口を開くたびに百人長バッタの眉間の皺は深くなる。

 しかし、けれども、おれにとって重要なのは百人長バッタのご機嫌などではない。

 

 おれは腰に当てていた手をはずし、顎髭を擦りながら百人長バッタを見た。

 せっかく醸し出した実直さがどこかに飛んでいってしまったようにも思えたが、まあこの際どうでもいい。

 

 

「アムカマンダラでの調査が大々的にできんことにはどうにもね。やりづらいんですよ。百人長バッタだって大立ち回りをやったんでしょう。聞きましたよ。うちの団を、丸々アムカマンダラに突っ込ませて下さいよ」

 

 

 おれの言葉に、百人長バッタは面食らったように静止した。

 

 一時ほどおれの顔を凝視した百人長バッタは、やがて目を閉じて大きく頭を振った。

 次にはとうとうこの世の終わりみたいなため息をついた。

 

 

「それは、ならん」

 

 

 うってかわったような弱り様である。

 

 それは、百人長バッタがさらに上からすでにお叱りを受けていることを物語っていた。

 大方、ソソ絡みだ。

 思い当たる節はあったが、さらに突っ込んで聞いておく必要がある。

 それによってこちらの出方も考えねばならない。

 

 さて、探りをいれるにあたって適当な話題を探していたおれは、近頃のアムカマンダラでおきた血生臭い流血沙汰について取り上げてみることにする。

 

 

「お隣プネー市と、歌舞伎者ダリルどもが物騒な内輪揉めをしてるみたいですが」

 

 

 文字どおり地底に押し込められた同じ穴の狢なのだから、ご近所付き合いよろしく穏和にやっていればいいものを、どうにもそういうわけにはいかないようである。

 それには、アムカマンダラみたいな周縁の地に追いやられた歌舞伎者ダリル特有の切実な問題が絡んでくるからだ。

 

 光。

 悲しいかな、地底で偽りの光にしがみつく様は、ランプに集る闇夜の虫けらと何ら変わらない。

 

 百人長バッタは、すとんと席に腰を下ろした。

 何も言わずに手を組んで、そいつに額をつけてだんまりだ。

 

 ならばと、おれは言葉を続ける。

 

 

百人長バッタも地底にいらして、光のありがたみってもんが身に染みている頃じゃあないですか? しぶとい歌舞伎者ダリルだって光がなきゃ生きていられないってもんですよ。まあ、いっそ死に絶えちまった方が気持ちのいい連中なんですがね」

 

 

 おれは話しているとついつい礼儀やら作法やらに疎くなる癖があるようで、気付けば机に俯く百人長バッタを相手に腕組をして見下ろしていた。

 

 

「どうにもアテがあるみたいなんですよねぇ、連中。おっこどされる光る石があるもんで、それに群がって流血沙汰を起こすんです」

 

 

 おれはついついならず者を恫喝する時の声色が顔を出すのを感じながら、しゃべり続けた。

 

 

 「アムカマンダラの赤月商会ウィーイーン。ソソ。あいつにいらん世話を焼いて石を流してるもんがいる。いや、そいつはたぶん共同体ジャーチぐるみで──」

 

「もういい」

 

 

 百人長バッタは遮るように大声を出した。

 組んだ両手で顔は見えないが、先程の怒気を含んだものとは程遠い、悲痛な響きを帯びていた。

 

 しばしの沈黙が、部屋に降り立った。

 おれはやや小さくなったように見えるその姿を見下ろす。

 

 

「もういい、とは?」

 

「……アムカマンダラの捜索は中止されている。これは都市議会の決定だ」

 

「どういう、判断なんですかね。さっきいったようにアムカマンダラは今、危険な状態にある。それに鬼神足も……」

 

「ゼバド十人長ジャー

 

 

 組んだ手を下ろした百人長バッタの目は血走っていた。

 強く握った指先が白くなっている。

 百人長バッタはゆらりと立ち上がると、手を腰に当てて一歩、また一歩と歩く。

 

 

騎士団カルキジャーチは組織だ。個人の武勇は求めていない」

 

 

 なるほど、ごもっともなご高説である。

 おれはついつい腕をほどくのを忘れたままの姿勢で、横目に百人長バッタを見た。

 

 

「組織として市民の平和に忠誠を誓う我らは、組織たらしめるために破ってはならん不文律がある。分かるな」

 

 

 どん、と強い力で肩を叩かれる。

 百人長バッタの力ごときではおれの身体を揺らすことすらできないが、いい加減な姿勢を気づかせるだけの意味はあった。

 

 

騎士カルキでありたければ利口になることだ」

 

 

 百人長バッタの地を這うような声が、どこか遠い所の出来事のように感じた。

 

 なるほど、これはなにをいっても無駄だ。

 

 頭の片隅でそういうことを感じている自分を発見して、おれは即座に態度を改める。

 そう、どうせならこの場は純朴で誠実な部下を演出しておけ。

 おれはきびきびとした態度で踵を鳴らして姿勢を正すと、模範通りの敬礼を残して、回れ右をした。

 

 

「はっ。失礼します。ポッポ百人長バッタ

 

「ポルパじゃ、たわけ!」

 

 

 百人長バッタががなる声に後押しされるように、部屋を後にした。

 早足に庁舎の廊下を歩く。

 

 やれやれ、これからまたあの掃き溜めのようなハヌディヤー通りまでえっちらこっちら戻らなきゃならねぇ。

 時間の無駄とは、こういうのをいうんだろう。

 

 すれ違う従卒や騎士カルキがこちらをちらちらと見てくるのが、この形相と口に咥えてるもんのためだっていうことなど、知ったことかという心持ちだった。

 そのままやりたいようにやらせればいいものを、すきま風みたいな声が火をつけようとしたおれの手を止めた。

 

 

「舎内は禁煙ですよ。ゼバド隊長ジャー

 

 

 おれはぴたりと歩を止めて、目を閉じる。

 葉煙草ビデイを口から外すと、代わりに嫌味を口にする。

 

 

「良い休日だったか? レティア」

 

「はい」

 

 

 臆面もなく答えて、レティアは柱からついと進み出る。

 しっかり騎士カルキの捜索様軽装を着込んで、外套マントまで羽織っている。

 準備は万端といった様子だ。

 

 

「ソソ……赤月商会ウィーイーンのことで分かったことがあります」

 

赤月商会ウィーイーンだぁ? イサイとディディのことはどうした?」

 

「黒風と鬼神足にも関わることです」

 

 

 レティアが寄越してきた羊皮紙を受けとると、そいつはかさっと音をたてた。

 

 目を通してまず見えた文字は、採掘工共同体ジャーチ

 奴らと赤月商会のやり取りを記録した帳面だ。

 どうやらそれを書き写したものらしい。

 

 このレティアはちょいと目を通したものをそのまま覚えきって書き起こすことができる。

 どうやったかは知らないが、ソソの懐まで潜り込んで赤月商会の帳面を盗み見てきたようだ。

 

 

「採掘工共同体ジャーチめ、やはりソソに光玉を横流ししていやがったか」

 

「確証までは至っていませんが」

 

「充分だ」

 

 

 おれは紙をレティアに押しやるように渡すと、窓から差し込む光に眩しく目を細めて外を見やった。

 外には角ばった建物がにょきにょきと影を伸ばしていて、その上を浮遊槽が二隻、平行して漂っていき、そうかと思えば飛籠を抱えた半鳥ガルダがふわりと逆方向へ飛んでいった。

 

 荒れた洞穴だった大空洞の地面は、今や馬車が走れるほどに踏み固められ、整然と居住棟インスラが立ち並んでいる。

 天を穿つ大穴から浮遊艇が大勢の人間と積み荷を乗せて降り、また上がっていく。

 生命の息づきなど欠片ほどもなかった暗闇に光が灯り家畜が鳴き散らせば、地上のように不自由のない食事にありつける。

 

 この地底の繁栄は大したものだ。

 小人ドワッフ半鳥ガルダみたいな魔族アスラの活躍は無視できないが、その功績のほとんどを担うのは採掘工共同体ジャーチの連中ということになる。

 

 衝撃を与えると浮かび上がる光玉の性質は、天駆ける船すら実現した。

 地底の街に恵みを生んだ。

 ウヴォを支えているのは間違いなく光玉産業だ。

 

 その産みの親である採掘工共同体ジャーチとソソが繋がっている。

 もはやまつりごとに精を出してばかりの親方筋には、暴力的な方法も含めて他を排除する術が必要になったのだろう。

 ソソが見返りとして採掘工共同体ジャーチに提供してるのはおそらくそういうものだ。

 

 

赤月商会ウィーイーンの元へ踏み込みますか」

 

 

 レティアが感情のない声でとんでもないことをのたまる。

 おれはそいつに条件反射で鼻を鳴らした。

 

 

「残念だったな。そいつはたった今禁じられたところだ」

 

「従うのですか?」

 

 

 レティアは結い上げた銀髪の下の焦茶の目で、おれを真っ直ぐ見つめた。

 立ち姿から顔立ちから目力まで、何もかもが真一文字といった感じだ。

 だから、おれはそいつに表情を砕いて見せる。

 

 

「さあな」

 

 

 笑いながら、おれは再び葉煙草ビデイに火をつけた。

 

 

「続きを話せ」

 

 

 諌める気も失せた様子のレティアは、目を閉じてひとつ息をつくと、再び面白味のない単調な声で語り始める。

 

 

「近頃、この賄賂を乗せた浮遊槽を狙う強盗の類いが出るようになりました。場所は、採掘工共同体ジャーチが横流しの経路に使っていた縦穴。アムカマンダラ北部に小人ドワッフが開けた非承認のものです」

 

 

 おれが煙を吐き出すと、庁舎の階段の見張りがぎょっとした顔でこちらを見た。

 それに構わず、煙をひらつかせながらその前を通りすぎる。

 

 

「ソソのしのぎを荒らそうってのはアムカマンダラの歌舞伎者ダリルじゃねぇな。流れの魔族アスラか、そうじゃなきゃプネー市の歌舞伎者ダリル

 

 

 プネー市か。また厄介な文句が出てきたものだ。

 プネー市で厄介な人間と言えば、思い浮かぶ顔は一人だ。

 

 

「狙わせているのはバティカンか」

 

「はい」

 

 

 淀みなく、後ろからレティアの返答が返ってくる。

 

 

「どうやらバティカンの息のかかった歌舞伎者ダリルが、最近このシバ市のアムカマンダラ郊外に、ある程度の縄張りを持っているようなのです」

 

「ソソの奴が放置している辺りだな。どうせパンパワッド沼の北部や魔族街アスラがいだろう」

 

 

 騎士カルキがアムカマンダラに疎いなんて思ってもらっちゃ困る。

 日頃歌舞伎者ダリルを追い回していれば詳しくもなるってもんだ。

 

 大々的にこそ踏み込めないものの、おれたちは幾度となくアムカマンダラに潜り込んできた。

 同時に入り組んだ地底の階層関係にも鼻が利く。

 

 パンパワッド沼の北部。

 そこの真下には掘り起こされてそのままの弐階層ドゥツーンってもんがある。

 そこには、光玉が灯って木綿畑が広がっている。

 バティカンがシバ市に持つ数少ない土地だ。

 

 だが、なぜこんな地底深くの僻地に隣街のバティカンが出張ってくる必要がある?


  そう、こいつはとんでもなくきな臭い木綿畑だ。

 恐らくは中で、藤黄を栽培してる。

 

 花まで育ったそいつを摘んで、藤黄の花薬と呼ばれる劇薬を魔族アスラ相手にばら蒔いてやがるってのがその実態なのである。

 そこまで分かっていて手が出せないのは、騎士団カルキジャーチってものはバティカンらが幅を利かせる都市議会の言いなりだからだ。

 

 つくづく騎士団カルキジャーチってのは業が深い。

 騎士カルキのおれがいうんだから間違いはない。

 

 けれどそいつは、今に始まったことじゃない。

 いずれ騎士カルキの仮面を被った悪党どもはこのおれが縛り上げてやるさ。

 だから、今は見えてきた道を踏み外さないように進むのだ。

 

 ほうっと煙を吐き出す。

 焦ることはない。盤面は見えてきている。

 つまりは、こういうことだ。

 

 都市議会の中で行われているバティカン率いる織物工共同体ジャーチと採掘工共同体ジャーチ連中の権力争い。

 そいつは回り回って汚れ仕事を引き受けるアムカマンダラの歌舞伎者ダリル連中に降りかかった。

 

 バティカンは、アムカマンダラに持っていた小さな勢力圏を使ってソソと採掘工共同体ジャーチの取引を狂わせにかかった。

 何も知らないソソがそうした哀れな歌舞伎者ダリルを片っ端から制裁すれば、あっという間に血生臭いアムカマンダラができあがる。

 

 

「それがここんとこの歌舞伎者ダリルどものいざこざの原因だな。アムカマンダラは織物工共同体ジャーチと採掘工共同体ジャーチの代理戦争をさせられている」

 

 

 煙と一緒に吐き出す。

 おれが振り向き様に見上げたレティアは、相変わらず面白味も無い均一な面をしていて、その首を静かに頷かせた。

 

 点と点が繋がった。

 アムカマンダラの歌舞伎者ダリルどもの小競り合い。

 百人長バッタの反応と都市参事会。

 

 百人長バッタが黒風に出くわした時、なぜハヌディヤー通りなんぞをふらついていたか?

 それは、バティカンの影に気づいて牙を研がんとするソソをどうにか抑制するため騎士団カルキジャーチから遣わされた、その帰り道だったのだ。

 ところが、果たしてあの男では力不足だった。

 大物の睨みあいを手打ちにするどころか、アムカマンダラで余計な騒ぎを巻き起こして、音を上げるほど絞られたというわけだ。

 

 待てよ。

 急速に回転し始めた頭を、理性が止める。

 

 本来の的は、バティカンやソソのような巨悪の下にのさばる子悪党だ。

 

 

「そのねたに、道化と黒風がどう関係する?」

 

 

 おれの問いに、レティアはやや俯いた。

 

 平然と罪人を斬り捨てる奴らしくない顔だ。

 そいつにどういう理由があるかは、おれの知ったところではない。

 知り得た事を全て話すつもりがあれば、の話だが。

 

 おれは、覗き込むようにレティアの目線に回り込んだ。

 睨み上げているおれの目を捉えて、銀の睫毛がふと見開かれる。

 

 こいつがどういう経路で情報を手に入れてくるか。

 詳しく問い詰めることをおれはしない。

 なぜなら、その情報のほとんどは正しいものであり、小細工を使っておれを欺くほどこの女騎士セトカルキは器用ではない。

 やり方は好きにすればいい。

 結果が手に入ればそれでいいのだから。

 

 けれども、出し抜かれるってのはおれの性に合わん。

 全てを話せ。

 

 表面上鉄の仮面を外さないレティアが口を開くべく吸った息は、しかしずいぶんと浅いものだった。

 

 

「どういう経路を使ってかは分かりませんが」

 

 

 落ち着かない声色を、レティアは出した。

 

 

「ソソの元から、光玉をバティカン側へ流している人物がいるようなのです」

 

 

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