縁側にて

紫 李鳥

縁側にて

 


 子供の頃から、この縁側で西瓜を食べるのが好きだった。


 浴衣を着て、うちわ片手に、花火の音を聴きながら。


 豚の置物に入った蚊取り線香の煙が扇風機の風に揺らいでいる。


 その横でテレビの野球中継を観ながら瓶ビールをグラスに傾ける父。


 子供の頃に見た光景と同じだ。


 何一つ変わらない夏の光景。


 ……ただ一つ変わったのは、母が居ないこと。


 でも、タンスの上にある写真立てには笑顔の母がいる。


 都会の垢にまみれた私の心を、洗い清めてくれる母の笑顔が。


 それは、お盆と正月休みだけだけど、私はあの頃のように子供に戻れる。


 チリンチリン……


 浦風が風鈴を鳴らしながら、頬の涙をぬぐってくれた。

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縁側にて 紫 李鳥 @shiritori

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