第11話 復縁、そして疎遠、だからぴえん

そして違和感に気付いた。靴が多く並んでいるのだだ。


 そう、こういう場合は決まっている。俺と心桜の両親同士が話し合いをしている時だ。それはとても大事な時にしかしない。きっと前の誘拐事件のことに違いないだろう。


「お帰りなさい山田。今大事な話してて少し長引きそうだから心桜ちゃんの家で待っててくれないかな?」


 俺の帰宅音を聞きつけた母親がリビングから出てきて、俺にそう言ってきた。


「分かった、じゃあ終わったら連絡して」


 そう言って俺は心桜の家に行き、インターホンを押した。数十秒して出てきた心桜に事情を説明し、俺は上げてもらった。


 心桜は持ってきた紅茶を目の前のテーブルに置き、ソファに座っていた俺の横にストンと腰掛けてきた。


「そっか……山ちゃんの両親にも迷惑かけちゃったな、私」

「大丈夫だって。俺たちは無事だったんだし、それでいい」

「……」


 なんでこんなに今日気まづいんだ俺たち。会話がくっそ弾まねぇ。そうだ、ここはテキトーに話題を振って、


「心桜って好きな人いるの?」


 そういえばこの質問は、前心桜とゲームをした時に聞いたが答えが聞けなかった。


「……言わないし」

「言えよ」

「……やだ」

「よし、こうなったら」


 俺は必殺こちょこちょ攻撃に入った。


「ひゃつ! ちょ! やめぇ! やめって!」


 心桜の両脇をくすぐると、彼女は笑いがながら悶えている。


「やめっ、山ちゃ! くすぐっ! はひぇっ!」


 心桜は悶えながらソファから床へ転げ落ちるも、俺は手加減せずに、仰向けの彼女に馬乗りになりなる。今度は足の裏をくすぐるも効果は絶賛だ。


 分かったから、言うからやめてと言う言葉を待っていたが、彼女が口を割る気配がない。流石に鬼ではないので俺は手を止めた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 心桜は両腕を広げて、虚空を見るような目で息を荒くしていた。


 なんだが物凄くエロい。俺が心桜を犯してるみたいだ。これは……本当にやばい。


「心桜……」

「はぁ……何……やま……ちゃん」


 俺は心桜の頭部の両端に腕を俺起き、真下の心桜を覗き込む。照明と重なった俺が、心桜の額に暗い影を落として、雰囲気がもうそれだった。


「……」

「……」


 心桜は目を見開かせながら俺を凝視するも、頬を染めると目を逸らしてしまった。


 あれ、おかしい。今日心桜がめっちゃ可愛い。なんでだ。こんなに心桜が可愛いと思うことなんて全然なかったのに。


「……もぅ」


 あ。


 小さい頃からずっと一緒で、家族のような存在だったのに。異性としてめちゃくちゃ可愛い。


 俺は、こんなに可愛いことずっと一緒にいたのか? いや、これは何かの間違えだ。俺は今疲れてるんだ。心桜に対してこんな気持ちが芽生えるはずがない。


 言葉と裏腹に、俺の顔が勝手に動き出し、心桜に近づいてゆく。それに気づいた心桜は目を見開かせる。


 すると、やがて心桜は目を閉じた。瞳は強く閉じられ、唇も心なしか震えている。


 その時だった。


「ただいま」

「えっ!? ──あうっ」


 心桜の両親の帰宅した。それに慌てた心桜が顔を上げるも、そこには俺の頭。ごっつんこだ。


 俺も慌てていないわけではない。馬乗りして立ち上がれない心桜から俺は身を引いた。おでこを痛そうにさする心桜はソファに座り込み、平然を装った。


 そもそも終わったら連絡すると母は俺に言ったはずだ。このやろ。


「それじゃ、お邪魔しました」

「ごめんね、話し長引いちゃって」

「大丈夫です」


 心桜の両親に挨拶を済ませ、俺は玄関を出た。いつも顔を合わせる時より、心なしか気まづさがあったように思った。


 すると物凄い温度差を感じた。先程までの出来事が全て無かったかのような、そんな温度差。


 もしあの時、心桜の両親が帰って来なければ俺達はどこまでやっていたのだろうか。


 答えの分からない問いを投げ続け、俺は玄関に入った。


 するとお母さんが大事な話があるとリビングに呼ぶので、促されるままついて行った。


 こんな事は本当に珍しい。だから、俺にとても大事な話がある事は歴然だ。


 ソファに座り、机の向かい側の母は口を開く。


「心桜ちゃんの事なんだけどね」

「うん」

「二人とも凄く怖かったと思うの。高校生のうちにあんな体験をして」

「まぁ、一時はどうなるかと」

「それでさ、やっぱりもうそういう、なんで言うか、危ない事はさ……えっと」

「何が言いたいんだ?」


 俺は知っている。母がこんな感じに挙動不審な言動を見せる時は決まって大事なことだ。母もきっととても気を使う事なのだ。


「……率直に言うね?」

「うん」


 少し嫌な予感がした。俺と心桜との両親が大事な話し合いをして、その後に真剣な表情の母を見た瞬間、実は分かっていた。何か俺にとって悪いことが起こると。




「心桜ちゃんとは……しばらく関わらないで欲しいの」



 は? 


 覚悟はしていた。それでもまさかそんな事言われるとは思わなかった。


「今ちょうど心桜ちゃんの所でも同じ話をしていると思うわ」


 なんだよそれ……。


「本当にごめんなさい。気持ちは分かるけれど……貴方達はまだ高校生。高校生の男女が真夜中に人気のない所へ出歩くような事はやめて欲しいの」

「……待ってよ。今回は本当に俺が馬鹿だった。もう二度としないって。だから──」

「知ってるわ。貴方がそんな事もう二度としない人なことくらい……」

「じゃあ!」

「でもね。私は許してもあっちが許してくれなかった。貴方達を疎遠にさせないように頑張ったけど、ダメだったわ……」

「……そんな」

「ごめんね。でも、どうしようもないの。分かってくれるわよね?」

「……」


 いても立ってもいられなくなった俺は、ソファから立ち上がり廊下に出ようとするも、そこに立ちはだかっていたのは父親だった。


 だが俺は父親の脇を通り過ぎ玄関に向かおうとした時だった。


「どこへ行く」

「……」


 俺は黙って靴を履き替える。


「余計に悪化させたいのかお前は」

「だって……」

「しばらくと言ってくれているのだぞ、それくらい我慢できないのかお前は」


 今心桜の家に行っても、どうしようもないことくらいは分かっていた。だから正直止めて欲しかったのかもしれない。


「……しばらくっていつまで」

「お前の行い次第じゃないのか? 今みたいなことをしてれば当然無理だろうな」


 俺は靴を履き替えることを止めた。もうどうしようもないのだ。元々俺と心桜は疎遠みたいなものだったのだ。復縁なんて一時的なものだ。


 それでも、完全に復縁したいと心の奥底で願っていたのは事実だった。もし本当にそうしたいのであれば、父の言う通り、今は我慢するしかないんだ。


 

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