第10話 女子高生 夕焼け 帰り道 一緒

 その後、おっさんは自首した。俺と心桜は警察の事情聴取により、しばらくの日々が潰れてしまった。


 心桜を守ってくれた、根は優しいおっさんだが、心桜を誘拐したことは変わらず誘拐罪として刑務所へ移送された。


 そして、事件の噂は学校中どころか、この地域一帯に広がっていった。俺も心桜もずっと質問責めされ、飽き飽きとしている。


「──そのおっさん、かっこよすぎだろ!」

「だろ?」


 だがおっさんの話には耳を傾ける。なぜならおっさんがめっちゃカッコよかったからだ。あの瞬間俺はおっさんに一目惚れしたのかもしれない。抱かれていいかも。


「お前それは寒気するからマジやめろ」

「あ……うん」


 一応調べた事なのだが、おっさんは懲役3ヶ月と比較的短期間だそうだ。釈放されたらどんなお礼の品を渡そうか。ずっと迷う。


「ってか、そのおっさんの技どんな感じだったんだ?」

「やべーぞ。迅雷風烈拳って言って相手の顔面に打ち込むんだ」

「おぉ!」

「もう目に見えなかったわ。あの速度は異常だった」

「見てぇなー」



 そんなたわいもない話を繰り返し、放課後のことだった。下駄箱で靴を履き替えているその時だった。


「山……ちゃん」


 あろう事か、心桜が背後から声をかけてきたのだ。彼女から声をかけてくるのは何十年ぶりだろうか? そんなにないと思うけど、これは誇張表現だ。


「心桜?」

「……いっしょに帰ろ」

「……あ、うん」


 驚いた。心桜が帰りに誘ってくるのは本当にいつ以来だろうか。人気者の心桜は、いつも友達たちと戯れながら帰っている。だから、そんな彼女が友達とは帰らず俺と帰ると言う。


 きっと昨日の事がきっかけなのだろう。 


 今まで俺に対する冷め具合。それが急に変わってこの様だ。これでやっと幼馴染というただの関係でなく、ちゃんと仲良くできるのだろうか。


 とても嬉しい。親密度が取り戻せたという事だろう。


 


 夕暮れ空にカラスが鳴き声を響かせながら飛び交っている。真っ赤に包まれた世界で俺は今の状況を再確認する。


 俺、jk、並進。これはとても自慢できる事なんだと思う。校門を出てからほぼと言っていいほど俺達は無言だった。


 なぜ昨日はあんなに話せていたのに、今こんなに気まづい感じなんだ?


 何より心桜と並んで帰れるのが凄く嬉しい。


「ちょ……やめてよ山ちゃん……」


 あ、まただ。ってか今のは結構恥ずかしいかも。心桜もなんか顔赤くなってるし。


「……」

「……」


 本当に無言のままだ。お互いの足音だけがやけに響く。まさか家までこのまま無言なのだろうか。


 そして俺達は繁華街に突入した。


 これはチャンスだ。どっかしらの店にでも誘おうか。ここら辺は飽きる事のない店ばっかりだから、どこに行ってもいいだろう。


「ここ──」

「ひゃっ!」

「……え、どうした心桜」

「……もぅ。急に喋らないでよ」

「あぁごめん。で、心桜って今日予定とかないよね?」

「……うん」

「じゃあさ、ここ行こーぜ」


 俺は心桜を見ながらテキトーに後ろに指を指す。


「──っ!?」


 え、心桜がめちゃくちゃテンパってる。ってこいつめっちゃ顔赤くなるやん。りんご病か?


「ダメか?」

「……ダメっ……ていうか、私達まだ高校生……だから」

「は? お前何言っ──」


 振り返った俺は思わず絶句した。俺が指さしていたその建物はラブホだった。ラブホだったのだ。俺はここに心桜を誘おうとしていたのか?


「それに……パパとママが許してくれないでしょうし……」

「あっ……えっと。ごめん帰ろうか」

「……え? あ、うん」


 そして俺達は何事もなかったかのようにまた歩き始めた。


 

 そうして、お互い家の方まで帰ってきた。もちろん無言のまんまでだ。


「山ちゃん……」

「ん?」

「……また明日」

「ああ。また明日な」


 お互い別れ、玄関に入った。

 

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