第35話 探り合い


⚫︎マヨイ


 戦闘は20分弱で収束した。

 KING'Sのメンバーから「手抜きする必要ないよ」とも言われたけど、そもそも今回の目的はクレアちゃんたちのレベリングだ。


 やや過保護だった面はあるけど、今回の襲撃でバルスはレベル17、クレアちゃんも23までレベルを上げることが出来たので目的は果たせたと考えていいだろう。


 ソプラの街に追加の被害がなかったことも喜ばしい。

 ちなみに戦闘の途中にアイルというプレイヤーがやって来た。どうやらソロで森を突破して来たらしい。


「ただいま」


「ただいまー」


 戦闘が収束してから5分ほどで藍香たちが戻って来た。


「おかえり」


「あの子がそう?」


 藍香の視線の先にいるのは金属製の鎧をした金髪の青年だ。おそらく彼がアイルさんだろう。


「違うよ、あっちの男っぽいアバターのプレイヤー」


「じゃ、ちょっと挨拶して殺してくるわ」


「い、いってらっしゃい」


 視線をバルスから外そうとしない藍香はまるで獲物を見つけた肉食獣のようだった。こうなった藍香を制止するのは僕にはできない、というかする気がない。今回は藍香の気持ちも少しは分かるからだ。


 それより僕はソロで森を突破したというアイルさんに興味がある。暁とクレアちゃんはKING'Sのサタナリアさんとお話し中だ。おそらく僕がソプラ山に行っている頃に知り合ったんだろう。


「こんにちは」


「こんちは、もしかしてマヨイさん?」


「そうですよ、アイルさんでいいですか?」


「あ、呼び捨てにしてください。敬称付けられるのむず痒くて……」


「なら僕もマヨイでいいですよ。それにしても森をソロで突破なんて凄いじゃないですか!」


 実際、ソロで突破するのは難しいはずだ。

 僕のようにステータスが異常に上昇しているなら話は別だけど、アイルさんの公開設定ではレベル20となっている。素質も騎士と神官の2つが公開されている。あ、性別は見た目通りの男性だ。


「それを言ったらマヨイもだよね?」


「僕の場合は覚醒した後だったからね。ステータスでゴリ押しただけだよ」


「マヨイは覚醒をどうやって獲得したの?」


 それについては僕の中でまだ推論でしかない。

 もし間違った情報だった場合、それでキャラクターの育成方針を決めた人に迷惑が掛かってしまう。


「まだ推論でしかないから拡散は控えてるんだ。僕以外にも覚醒したプレイヤーが増えて情報の確度を上げてから掲示板に書き込みするよ」


「デマ流して叩かれてたら溜まりませんもんね」


「確度低いって前置きしても叩いてくる人はいるからね」


「マヨイの素質って魔術士しか表示されてないけど、ワールドアナウンス流してたし、少なくとも信徒か神官はあるよね。なんで隠してるの?」


 そりゃ使徒まで上がってるからだよ。

 言わないし、教えるつもりはないけど。


「あー、ワールドアナウンス流したの僕だってバレてるのか。でも獲得しているのと設定しているのでだいぶ違うからね」


「あ、4つ以上獲得していると隠す意味が出てくるのか」


「そう言うアイルこそ、騎士や神官なんて珍しい素質は公開してるのに1つ隠してるじゃないか」


「まぁね」


 まぁ……察しはついてる。

 僕と似たような理由だろう。


「あ、そうだ。マヨイ、よかったら決闘しない?」


 手の内を晒せと?

 いや、僕の手の内なんて配信を見ていればバレているだろう。つまりアイルは分かった上で勝てると判断したんだ。その根拠は知っておきたいな。


「いいよ」


「やった!」



…………………………………



……………………………



…………………



「開始位置はこのくらいでいいかな」


「はい」


 5mほど離れた位置から決闘を開始したがアイルは動こうとしない。僕の動きを待っている可能性もあるけれど、何か準備をしているという線もある。

 念のため広域探知を使用する。このスキルは隠密状態のマリモも看破できたので見えない敵や攻撃に対しても有効であることが分かっている。


「ハイド!」


 少し焦れてきたのかアイルはスキルを使用した。

 ハイドは僕の習得可能リストの中にもある狩人系のスキルで、その効果はマリモの気配遮断とは相互互換だ。

 気配遮断は使用中に攻撃を行おうとすると解除されるのに対して、ハイドは攻撃を行なうと解除される。ただし、ハイドは効果時間が設定されている上に街中での使用は戦闘行為と見做されてしまう。


 ──キンッ


 広域探知の効果でアイルの姿は見えている。

 アイルが放った攻撃は僕のナイフによって防がれた。

 アイルからすれば自分を見失ったはずの相手が察知不可能な攻撃を防いだように見えたのだろう。かなり驚いているのが分かる。


「ハイド」


 先ほどの攻撃の威力は通常攻撃のはずだが想像異常に押された。おそらくは攻撃威力調整を併用しているか、僕にとって未知のスキルのどちらか、あるいは両方だろう。

 僕は再びアイルの攻撃を凌いで距離を取った。


「魔力弾は使わないんですか?」


「まだ使わないよ」


 ハイドだけでエリアボスに勝てるとは思えない。

 現段階では覚醒してるプレイヤーは少ないのだから僕は情報が欲しい。それに僕や藍香は覚醒した時に神器やスキルを手に入れている。


「覚醒した時に手に入れたものは使わないのかな」


「……!? まだ使いませんよ」


 動揺したな。

 何か持っているのは間違いない。

 装備ではないだろう。まだアイテム欄から有効化させてないのであれば別だけど、それはアイルの様子からしてなさそうだ。


「常時発動型のスキルかな。発動条件が厳しく制限されている可能性もあるけど、それにしては攻撃が単調過ぎる」


「分析とか余裕ありすぎでしょっ」


 まぁ……事実、余裕あるからね。

 ハイドからの不意打ちが効かないのが分かっているのにハイドを使い続けているところからすると不意打ちでのダメージ上昇ではなく、隠密状態からの攻撃に補正が入るといった感じだろう。あとは金属製の鎧をしているのに移動する際にガチャガチャと音がしない。まだ他の効果もあるかもしれないが、ここまでくれば何に覚醒したのか予想できる。


「覚醒したのは狩人系の素質からだね」


「ここまでやればバレますよねっ」


 ステータスは器用と敏捷に特化してる。

 筋力に関する補正もありそうだけど補正値が低いせいなのか、それとも元の数値が低いせいなのか僕より少し高いくらいだ。

 ここまで分かれば今は十分かな。


(魔力弾)


「ぐっ」


「ご注文の魔力弾ですよっと」


 こちらから見えているアイルの体力バーを目測で測った僕はトドメを刺すことにした。


(魔力弾×60)


「慈愛の抱擁!」


 慈愛の抱擁は信徒系のスキルではない。

 信仰対象によって変化するタイプのスキルには必ず信仰対象が冠するものの名前(僕の場合は灰や蒼)が入っているからそれもない。

 おそらく暁の忍耐と同じ七美徳の名を関するスキルなのだろう。僕の攻撃でも体力の3分の2までしか削ることができなかった。

 咄嗟に使ってしまったのだろうけど、これは良いものを見れた。


(魔力弾×120)


「い゛ぐあたぁぁぁぁあああ」


 やはり再使用に時間の掛かるスキルだったようだ。倍に数を増やした魔力弾を防ぐ手立てはなかったようで、アイルの体力は0になった。


 さて、藍香とバサラはどうなっているやら。


───────────────

実力の探り合いはマヨイに軍配が上がったかな。アイルも現時点では決して弱いプレイヤーではありません。


ただ相性が悪いせいで戦闘になってないだけです。アイルの覚醒先は暗殺者、固有スキルと専用装備は以下の通りです。専用装備は隠してました。


名称:暗殺者

分類:補助

対象:自身

射程:なし

効果:全ステータス+50%(隠密使用中)

   対人特効

   遮音


名称:暗殺者の佩刀

分類:武器 刀 暗器

効果:即死(対人/不意打ち/中確率)

   状態異常付与(猛毒・昏睡・衰弱・狂乱・窒息・幻覚/中確率)

   耐性無効

   攻撃力+器用/2

制限:暗殺者と名のついた称号


話タイトル変更しました(2020/9/4/7:41)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る