第34話 団体行動は大切(するとは言ってない)


⚫︎マヨイ


 なんとか暁を送り出した後、独自に行動するよりも団体行動を取るべきだと判断した僕らはソプラの街の兵士やKING'Sのメンバーと合流することにした。しかし、僕らがノウアングラウスさんのいる場所へ向かうと何やら様子がおかしい。


「どうしたんですか?」


 僕の予想では他の方角からもモンスターが現れて戦力の再配置について話しているのだと思ったが、


「どうやらソプラの街の東区画にある工房が襲撃を受けたらしい。犯人は2人組の男女で駆けつけた衛兵に対して「NPCの分際で邪魔すんじゃねぇ」と言ったそうだ」


「NPCに死傷者は?」


「幸いな事に死者はいない。衛兵に怪我人は出たが軽症だ」


「そいつらが何処にいるか分かりますか」


「うちのサタナリアが掲示板に書き込んだところ、ソプラの街の木工品を売ろうと組合を訪れたプレイヤーがいたそうだ。ほぼ間違いなく犯人か犯人の仲間だろう」


 NPCの殺害を厭わないプレイヤーは少なくない。

 ただ、僕としてはNPCの命を軽視するプレイヤーはそのゲームに参加するべきではないと思っている。藍香の思想を尊重しているという面もあるが、1つのNPCが喪われる事のメリットよりデメリットの方が基本的には多いからだ。


「領主からはアルテラの領主宛ての書簡を届ける依頼を受けているが、KING'Sのメンバーは防衛戦と復興のクエストを受けていてね。たぶん、俺達に気をつかってくれてたんだろうがマヨイ君も参加してくれないか」


 ば、ばれてた……だと……

 でも手を出すとしたら藍香や暁の討ち漏らしがソプラの街に迫った状況で、クレアちゃんとバルスでは対応できなくなってからだ。


『藍香、ソプラの街にNPKerが出た。KING'Sが対応してくれるようだけど、ソプラの街に迫っているモンスターが懸念材料らしい。モンスターの群れどのくらい削れる?』


『もう戦闘を始めてるわ。たぶん3から4割削れれば上等かしらね。特に先頭の犬の足が早くて抑えきれなかったわ』


『それは神器の効果を使っても無理?』


『どちらもタイマン専用みたいな感じの効果だから難しいわね』


『分かった。ひと段落着いたら合流しよう』


 タイマン専用の効果を持った神器が2つあるのか。僕の場合はアバターの操作性と攻撃の汎用性を高めるものが多いから同じ神器でも方向性は随分と違うんだな。


「クレアちゃん、降りて来てくれるかな。高所から1体ずつ狙うより、地面と水平になるよう射て数体まとめて倒して欲しい」


「わかりました、任せてください!」


 バルスとマリモのためにパーティを再編成するか。

 クレアちゃんにパーティを抜けてもらい僕とバルスのパーティに加わってもらった。


「もうすぐ射程圏内になります」


「バルスはクレアちゃんの射線を意識して立ち回って欲しい」


「マヨイは?どうするんだ?」


「決まってるだろ。クレアちゃんの正面に来ない敵だけ倒すんだよ」


「いや、無理だって」


「ほら、敵が来たぞ。魔力弾×10」


 魔力弾の場合は貫通するわけではないので撃ち下ろすイメージで近い敵から10体ずつ倒していく。

 完全に手抜きというか舐めプだが、今のところは後ろに抜けそうな敵だけ倒していればいいので2人が根を上げるまではこのままでいいだろう。


「このペースのままなら問題ないないね」


 僕は街壁の上で指揮を執っているノウアングラウスさんに状況がどうなっているのか確認することにした。




⚫︎ノウアングラウス



『ノウアンさん、敵のくるペースが今のままなら僕らだけでも問題ないです。敵は増えそうですか?』


 やはりマヨイ君は視野が広い。視界が広いのではなく視野が広い。自分が何を把握しなければならないのかを理解している。


『後方から来る敵のペースも一定だ』


 ここから確認できるだけで複数の種類のモンスターがいる。普通ならモンスターの敏捷ステータスの差によって群れの中で過疎になっている部分があるはずだ。


『たぶん、アイが過密状態にある部分を意図的に解散させたんだと思います』


 そんなことが可能なのか?


『何のためにそんなことを……』


『ほぼ間違いなく僕らのためでしょうね。敵の襲撃ペースが常に同じならクレアちゃんが集中を切らさないで済むと考えたんでしょう』


 あの弓使いの少女か。あの子も大概ヤバいな。

 おそらく複数体倒すためだろうが、片膝をついたまま弓を射るなど普通は無理だ。

 かつて弓道の経験のあるゲーマーと交流を持ったが、現実の弓道とゲームの弓は似ているようで全くの別物らしい。彼女はどこで技術を身につけたのだろうか。


『僕からはワイバーンの姿は確認できませんが、ノウアンさんの方はどうですか?』


『こちらもワイバーンは確認できてない。ただ敵が横にバラけてきている。少し後退し────』



 ────ドドドドドドドドッ



 それは敵の群れの左右を均等に削る爆撃だった。マヨイ君の魔力弾だろうけど、午前中も見たが同時に何発も撃てるのは修正が入るんじゃないか?


『リーダー!今の何!?ワイバーン?』


 そうだよな。外壁の上から分かるが地表で戦闘しているメンバーからすれば分からないだろう。


『今のはマヨイ君の攻撃だ。横に広がってた敵の両翼が文字通り消滅した』


『え、えぇ……もう彼だけでいいんじゃない?』


『マヨイ君は既にレベルがカンストしているようだからな。おそらく俺らが経験値を稼げるようにしてくれているんだろう』


『ノウアン、マヨイにもう終わらせるように言ってくれ!例の2人組の片割れか分からないが森の方からソプラに来る人影が見えた』


『掲示板によると問題の2人組合は組合を追い出された後、噴水近くで露店を始めたらしいから別人だろう。マヨイ君には言ってみるが……』


 たぶん、マヨイ君は自分の立てた予定や目的を崩されるのを嫌う性格だ。そして彼は今回、仲間のレベリングやプレイヤースキルの確認をするために過度な手出しをしないよう細心の注意を払っている。


 そんなマヨイ君に「舐めプしてないで早く終わらせてくれ」と言っても大丈夫なのか。


「あぁ……VRなのに胃が痛い」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る