第33話 言葉の足りない兄、危機感の足りない妹
⚫︎マヨイ
「兄さん!そいつから離れて!」
この場合の『そいつ』とは何だ。
僕の側にいる『そいつ』に該当し得る存在は2つ。
そのうちマリモは気配遮断を使っていて暁からは認識されていない。だとすると『そいつ』とはバルスのことだろう。
「兄さん?マヨイ、あれはマヨイの妹なのか?」
「そうだよ」
「兄と妹が一緒のゲームで仲良いんだな」
僕と暁の仲は悪くないが微妙なところだ。
どちらかと言えば暁は藍香に懐いているから、このゲームを始めたのも藍香がやるからだろう。
「兄さん、藍香
今『ねえさん』の文字おかしくなかった?
「はぁ……ショウ、アイと僕は交際関係にはないって知ってるよね。例えあったとしてもゲームで女性アバターのプレイヤーと一緒にいることを咎めらる
「マヨイ、ボクお邪魔か?」
話に入られても面倒な事態になるのは予想がつく。
なんで不義理も何もしてないのに修羅場みたいになってんの?
「ショウ、バルスを連れてきた理由の半分はアイから頼まれたからだぞ」
「そうなの?」
「すまん、アイって誰だ?」
「あー、名前まで言ってなかったね。バルスと決闘したいって言ってる僕の仲間だよ」
「アイとショウって言えばアイ&ショウを思い出すな。ショウは男だったけどよ」
そういえば自分の実力を測る基準にアイ&ショウを例に使ってたってことは元は僕らのリスナーさんか。
『暁、藍香がドッキリ仕掛けるつもりみたいだから僕らのことは話すなよ』
『はーい』
「と、とりあえず街に戻りましょうか。兄さん達はリスポーン地点登録するんでしょ?」
「そうだね、いつモンスターが来るか分からないし今のうちに登録済ませちゃおうか」
…………………
……………………………
…………………………………
僕らがリスポーン地点の登録を終えた直後、クレアちゃんからモンスターの大群が来たという連絡を受けて僕と暁、バルスの3人はソプラの街の北の外壁までやって来た。
「お兄さーん!」
「クレアちゃん、連絡ありがとう。あれ、全部モンスターなの?」
「そうみたいです。視力強化でもギリギリですけど犬や熊や猪でした」
「クレア、それモンスターじゃなくて動物なんじゃ……」
「ショウ、根拠なく過小評価するな」
暁は先入観から油断する癖でもあるのか。
ミライの時も『配信者なら適当に断っても問題にならない』みたいな油断があったのだろう。実際に迷惑行為を行ったミライやミライのリスナーに問題があったことは間違いないが、おそらく暁にも何らかの問題があったはずだ。
「はーい」
「クレアちゃん、バルスの位階はまだ低いから支援お願いね」
「え?あ、はい!任せてください!」
「クレアさん、よろしくな!」
「え、私は?」
「それじゃショウはモンスターの集団に突っ込んで。クレアちゃんと僕は外壁の上、バルスは北門近くに待機ね」
「ちょ、私に死ねって事!?」
「そうだよ。相手を過小評価して慢心してる奴に近くにいられるのは迷惑だ。ほら、早く前線に行ってくれない?」
「慢心なんてしてないわよっ」
「してる奴はそう言う」
「ならしてるわよ!」
慢心してない奴は過小評価を口にしないって意味で言ったんだけどなぁ……
「なら行ってこい」
「分かった!ん?あれ?」
暁、たまにアホの子になるよな。
藍香が向かったのはソプラの街から見て北西の村だ。そしてモンスターはソプラの街の北北西から来ている。
なら村を守るためにも藍香はモンスターの群れをソプラの街へ誘導させる可能性が高い。しかし、モンスターの数や強さによっては手が足りなくなるだろう。
「KING'Sの人らには僕が説明しておくから、お前はさっさと突っ込んで藍香と合流しろ」
「え、どういうこと?」
僕が行けば経験値が欲しいKING'Sの迷惑になるし、クレアちゃんは耐久面に不安がある。これはショウにとって対多数の経験値を積める貴重な機会なのが何故わからないのか。
その後、暁が僕らの意図を理解するのに数分を要した。KING'Sの人らが途中から話に入ってくれたおかげで彼らに説明する手間は省けたが、暁を送り出すのが遅れてしまった。
暁が藍香に殺されないか心配だ。
⚫︎アイ
私はワイバーンに襲撃された村に来ていた。
どうやら早い段階で狩人をしている住民が北の山から飛来してきたワイバーンに気がついたらしい。報告を受けた村長の指示で村人全員が村長宅側に入り口がある地下食料保管庫に避難したそうだ。そのため幸いなことに転倒による怪我人はいたものの死者はいなかった。
「つまりワイバーンに追い立てられたモンスターが北の山から溢れ出てきているのですね?」
これに関してはノウアングラウスさんからの報告にあった通りだ。ただし、事前情報よりも数が多そうだ。
「はい、ここ1ヶ月ほどワイバーンが飛来する度に北の山からモンスターが溢れています。北の山とソプラの街の間にある、この村から東の村は領主様からの御命令で避難したと聞いています」
「この村は?」
「この村には避難の命令は来ていません。もっとも村から出れば頼りになる相手の居ない者たちばかりです。どこに避難したものやら……」
「それで山から溢れたモンスターはこの村を通るかしら」
「いや、普段通りなら街道を沿ってソプラの街へ行くはずです。それに今の村にはワイバーンの死体があります。数の多い風犬などがワイバーンを避けるでしょうから、他のモンスターもこちらには近ずかないでしよう」
経験則から来る確信は危険だけど、この村を出てモンスターの群れをソプラの街の方角へ追い立てれば村を守ることはできる。
たぶん、真宵は暁を前線に出してくるはずだ。クレアは後衛だから外壁の上から攻撃させたいでしょうし、同行者もいるようだから真宵が前線にくることはない。
問題があるとすれば暁かな。あの子は反射神経こそいいけれど他に長所がないのよね。
こちらが一から百まで作戦を伝えなければ理解できず、経験と知識が足りないから直感で解決しようとする悪癖がある。
まぁ……今回成長できなければ今後も足手まといのままだから切り時だろう。
クレアと暁を引き剥がしてクレアだけ身内に引き入れる方法はある。
そもそもクレアは真宵に惚れかけている。
あの年の女の子なんて恋に恋して悪循環になるのが特技みたいなところがあるし、真宵に少し演技して貰えば簡単に言いなりになるだろう。
「では村長さん。私はモンスターの群れの数を減らしてきます。もしモンスターが来るようなことがあればシェルt……先ほど避難した地下食料保管庫に隠れてください」
それだけ言い残して私はモンスターの群れへと向かった。
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書いてて「誰だよ、藍香を腹黒設定にした奴!」って思ったけど私だったわ。
実は熱中症で病院に運ばれました。
救急車の中って意外と狭いんですね。
既にストック尽きてるので毎日2話更新は無理だと思います。申し訳ありません……
(2020/8/31/15:47追記)
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