03 いつもの学校

「――えー…以前は火力発電などで温暖化ガス排出量が増加の一途をたどっていましたが、皮肉にもそのために降水量が増えたことで、火力や原子力に代わって再生可能エネルギーである水力発電が主流となり、現在は温暖化の緩和が期待されていたりもします…」


 湿度の高い静寂と、微かな雨音に支配された教室内に、単調な教師の声だけが聞こえている……。


 おそらく、あまりおもしろみのないこの授業風景だけは、親世代の人々ともほとんど変わってはいないのであろう。


 それよりも、変わったといえばやはり体育の授業だ。


 かつては校庭と呼ばれる屋外運動場で行われることもあったようだが、現在はすべて体育館の中でが当たり前である。


 といっても、昔の人が想像するような体育館とはたぶん少し違う。


 屋外でやっていたものをすべて屋内でやるのだから、そりゃあ、昔風の小さな体育館では力不足だろう。


 以前、校庭だった敷地を使い、今はいわば屋根付きスタジアムのような、野球もサッカーも陸上も、あらゆる広いスペースをとる競技がすべてできるようになっている。


 もちろん、プロスポーツにおいても同様である。


 高校野球の聖地・甲子園も含め、露天だった球場はすべてドーム化され、サッカースタジアムも屋根が取り付けられた。


 もちろん雨対策のためであるが、季節に関係なく快適な温度と湿度に保てるという副産物もあったりなんかしたため、野外のスポーツに慣れ親しんできた年配世代にも意外と好評のようである。


 そういえば、そんなドーム型施設が最初に作られ始めたのも東京だったんだよな……。


 タイムリーにも、そうしたかつての東京に思いを馳せていた日のホームルーム……。


「――ええ、それでは、うちのクラスは東京タワーと渋谷、それにお台場とレインボーブリッジを回ることとします」


 学級長が取り仕切る多数決により、今度の修学旅行におけるクラスごとの見学先が決められた。


 ほんとはもっと自由に、班行動とかにしてほしいところだが、そうするとかなりお金もかかるだろうし、まあ、クラス単位が限界なのであろう。


 東京タワーか……スカイツリーは全体でも行くが、こちらの方が古い時代のものであるし、何より赤色が映えて見応えありそうだ。


 レインボーブリッジもおもしろそうだが、渋谷は何を見るのだろう? まあ、若者の街だったということなので、いろいろ興味深いものもあるのかもしれない……。


「渋谷行ったら八公見れるかなあ?」


「台場のガンダムって、まだそのままあるんだっけ?」


 行き先が決まるや、教室内にはキャッキャと喧騒が沸き起こりクラスメイト達もまだ見ぬ東京の地にそれぞれ想いを馳せている。


 そうして皆がいやがおうにも期待に胸を弾ませている中、いよいよその修学旅行当日がやって来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る