プロローグ008

「準備はいいか?」

「はいっ。魔法もかけ終わりました」


 家から山の上の方まで少し歩いて森の開けたところ。

 草木が低く芝生のようになっている場所で、身体能力を強化する魔法を自身にかけ、用意した剣を抜きお互いに3メートルほどの距離を取り向き合い抜いて構え合う。

 

 どちらも、真っすぐ正面に中段の構え。そうしてすぐに、初めの合図もなしにお互いの呼吸と感覚だけで始まりを告げて、それと共にまず相手の動きを伺う。

 

 油断はどちらも微塵に感じさせず、それとともに重苦しい圧と緊迫が放たれる。

 その圧は度合いはおそらくほぼ拮抗、子供でありながらも俺は一国の騎士団長に一ミリも臆していない。

 

 油断はできない。

 

 なにせ剣だ。

 才能に恵まれた魔法のように、片手間でどうにかなるようなことではない。それ相応の覚悟と気合いが必要で、こうしてにらみ合っているだけでも額に汗が浮かぶ。

 

 けれども、睨み見合うだけでは埒が明かない。

 

 ジンさんは動く気はおそらくないのだろう。あくまでそこは師として、俺の先手を受けどのように持ち運ぶのか見極めるつもりなのだろう。

 ゆえに初激はこない。だが――だからと言って油断はできない。

 どこから打ち込むか、どう攻めるか。パターンはいくつもあるがそのすべてはハッキリって敗北だ。

 その中で、唯一ある勝ちパターンを見つけるために油断などしていたら、読めるものも読めない。

 

 どういく……。

 

 見た目ただ真っすぐと剣を構えているだけのように見えるが、その実スキは一切ない。

 一度踏み込み剣を振るえば、カウンターが間違えなく襲い掛かってくるだろう。

 

 ならば……。

 

「ハアアアアアアアアッ!!」



 真っすぐ上に振りかぶり、正面突破。

 魔法で身体強化した脚力でおよそバッタの如く瞬時に力強い踏み込みで飛び出し、着弾点のジンに剣を振り下ろす。

 

 キイイィィンッ!!

 

 剣と剣、圧と圧がぶつかり。金属のぶつかつ轟音と震動が森に響き葉を揺らして木に止まっていた小鳥達が驚き飛び立っていく。

 

「タアッ!!」


 そこから俺は止まりはしない。

 両手に握る剣を左に引き、左から右に横へ振り、ジンの横っ腹に振り入れる。

 

 が――。

 

 カンッ!!

 

 弾かれる。

 

「引くのは後手だ」


 言って、大きく左に腕ごと弾かれがら空きになった俺へ右側から剣が襲う。


 そんなことは言われななくても分かっている。

 そして――。

 

「っ――」


 そう来ることも読めていたっ!!

 

 弾かれる威力を殺さず、そのまま俺は体をクルッと回転させて、右側から襲う剣を自身の剣で巻き上げ上へとジンさんの腕ごと持って行く。

 

「ぬぐっ……」


 いくら魔法で強化していると言えども、筋肉質のジンさんの筋力にはかなわない。

 だからあえてスキを作り、巻き上げた。ジンさんの振るう勢いを利用してそのまま力の流れに逆らわず受け流したのだった。

 

 そこから先は一本を取れるかと思った。事実、体制を崩してそこから流れるように一本寸前までは通ったし、速さでは俺の方が勝っていた。

 とはいえ、現実はそうは簡単にはいかず。

 

 二度三度、そこから四度に五度。そしれ更に数十度以上。

 いとも簡単に俺の剣は弾き返されて、剣と剣がぶつかり合う空気震わす刺激的な響きが周囲に伝播する。

 長く幾度となく繰り返される拮抗。はたから見ればこめかみを擦れるほどの危うい場面が何度かあるが、実際はそれはどちらも計算と予測のうちだ。

 見えている。まるで剣が自身の一部かのように、その軌道が見えているからこそそんなものどちらも気にはしない。

 ただ、互いに相手を切り伏せようと言うだけの為に、互いに負けず劣らず。剣の裁きに体裁きは鋭敏かつ端麗でその動きに一切の狂いはない。

 

 だが、俺には見えていた。

 

 この剣戟が終わる終着点。

 その最終的な勝敗が。

 相手がいかに卓越された技量と屈強な肉体の持ち主であろうと、今まで磨き上げた剣筋だからこそ信じ勝ち筋を見出せる。

 ゆえに迷いも恐れもありはしない。

 

 掴んだ流れをつかみ、あとはその流れに乗るだけで、その見える流れの終着点へとたどり着く。

 

 瞬間、今まで最も大きな音を響かせて、剣が一つ宙へと舞った。

 

「はあっはあっはあっ……」


 息も絶え絶えに、額には汗をにじませ、けれど内心は凄く清々しく。そして達成感が立ち込める。

 気づけば口元が緩み笑ていたのかもしれない。

 それに気づいたジンさんは唖然として呆けていた口を紡ぎ。

 

「よくやった」

「よしっ……」


 その言葉いにらしくもなくついガッツポーズを取ってしまう。

 勝利した。

 

 宙に舞ったのはジンさんの剣で、俺は横に大きく剣を振り払っていた。それが最後の絵図。

 自分が予測したビジョン通り。最後の一太刀までこの人の、ジンさんの動きを読むことができた。

 

「まさか、こんなにも強くなるなんてな。オレも久しぶりに熱が入っちまった。技量だけならもう達人レベルだ正直もうオレには教えることは何もなさそうだ」

「そんなことないです。たまたま今のは噛み合っただけです。一太刀でも読み違えていたらやられていたのは俺でした。それに、まだ魔法なしでは到底かないません」


 そうだ。まだ魔法というハンデがあったから。成し遂げたことに過ぎない。

 次はその先、魔法なし。

 本当の剣の技と技のぶつかり合い真剣勝負が本領。

 これはその前の、御前立てにしかすぎない。

 

「そうか?その年にしちゃ十分以上だ。しかもエルフだ。もしかしたらもう世界中さがしてもお前以上の奴はエルフでいないかもな」「そ、そうですか……。ありがとうございます」


 その言葉は心の底から嬉しかった。エルフで魔法使いとして育てられてきたというのもあるが、それとなによりも剣士としてという自分の目標に近づけたと思うと、国一番の剣士のジンさんに言われることは、自分の夢に近づけたほどうれしいものはなく、頭を下げお辞儀する。

 

 そんな謙虚な感じにジンさんは笑いかけてくれる。

 

「そういえばタクミ。お前鍛冶の方はどうした?そっちもそっちで頑張って居んだろう」

「はい。試してはいないんですが、試作品は完成しました」

「そうか、なら楽しみにしてるぞ。お前の剣。それに自分で撃った剣で戦うお前自身も」

「はいっ!!」


 ジンさんは俺が鍛冶をして魔剣を作っていることも知っている。それが少しづつ完成していることも。

 それに、それを強く応援してくれている。

 だから真っ先に俺が作った魔剣をこの人に使って欲しいとも思う。

 

 そうして、俺が元気よく返事をしたその時だ。

 

 異変が起きたのは。

 

 


 

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