第3話 ID情報

 刑務所!? 月!? 刑務所はまだいいとして——いや、全然良くないけど!——月ってどういうこと? 一介の高校生が行ける場所じゃないでしょ? そもそも、月にこんな施設があるなんて聞いたことないし。


 さすがに月は嘘でしょー。そう思いたいところだったけど、ある事実に気がついてしまった。っていうか、違和感は最初から感じていた。身体が——具体的に言うと、おっぱいが異様に軽いのだ。


 別に自慢じゃないけど、あたしのお胸はGカップある。ぶっちゃけ、かなり重い。本当かどうかは知らないけど、このサイズになると片方一キロ近くあるとかないとか。それが今は、ほとんど重さを感じないのだ。


 これはつまり、重力が違うってことだよね? 重力が違うってことは、少なくとも地球じゃないってことだよね? いやいや、こんなの夢でしょ! 夢に決まってる! 頭を叩いたら目が覚めるかな? 覚めろー!


 ポカポカポカ……あうー、痛いよー。


「……お前、何やってんだ?」

「いや、だってあたし、昨日まで普通に高校に通ってて、家で寝てたはずなんですよ? こんなの夢に決まってるじゃないですか」

「いや、ここは夢じゃないぞ。記憶喪失か? 少なくとも、裁判は受けてるはずだがな」

 うーん……普通、夢の中の人間は「ここは夢じゃない」なんて言わないよね。ってことは、夢じゃないのかぁ……。


「ってか、ほんとに高校に通ってたのか? そんなエリートには見えねぇけどな」

「ほんとですよー! ピチピチのJKですよー!」

「JK?」

「あ、女子高生の略です」

「ふーん?」

 そっか、長いこと刑務所にいるから、JKって知らないんだ。そんな年配には見えないけど、何歳なんだろ? っていうか、高校がエリートっていつの時代だよ。高校なんて、今どきみんな通ってるって。……ん? いつの時代?


 見たことのない素材でできた部屋。

 世界的に有名な女優を知らない人。

 月に刑務所が存在するという事実。


 なんか、パズルのピースがカチッとはまった気がする。いや、まさかね……。まさかだけど……。


「あのー」

「ん?」

「今って、西暦何年でしたっけ?」

「んー、今は西暦……何年だっけなー。もう長いことここにいるから、忘れちまったな。PDで見てみろよ。囚人専用のが支給されてるはずだぞ」

「PD?」

「あ、パーソナル・デバイスの略です」

「えー、真似しないでくださいよー。それ、どこにあるんですか?」

 名前から、なんとなくスマホ的なものをイメージしたけど、それらしきものはどこにも見当たらない。っていうか、まずは服を支給してほしいんだけど!


「ほんとに覚えてないのか? 使った記憶ぐらいはあるだろ?」

「いや、そもそも無かったんですけど……」

「ふーん? じゃ、教えてやるよ」

 疑わしそうにしつつも、向かい側のベッドから立ち上がってあたしの隣に座ってきた。


「手を前に伸ばして。いや、片手でいい。うん。それで、その手をこうやる」


 ビッチさんがあたしの手首を掴んで、上下左右に何回か動かした——

「ふおぉ!」


 突然、何もなかったはずの空中にタブレット端末が出現した。いや、よく見ると端末が浮かんでるわけじゃなくて、二次元の「画面」だけが浮かんでる感じだ。何これ? どういう仕組み? もはや魔法じゃん!


「どうせなら、カレンダーを見る前にID情報を見ておくか。なんでここに来たのか全く覚えてないみたいだしな」


 そう言いながらビッチさんが、空中に浮かんだ画面を自分の方に引き寄せて操作していく。うん、信じたくないけど間違いない。何がどうなってこうなったのかは分からないけど、どうやらあたしは未来にいるらしい。


 問題は、どれくらい未来かってことだ。お父さんとお母さんはまだ生きてるのかな。お兄ちゃんはどうでもいいけど——お、目的の画面に到達したっぽい。


「「……マジか!」」


 え? 何これ? どういうこと!?



 名前:丸峰まるみね さく

 生年月日:西暦2005年6月24日(1043歳)

 犯罪歴:殺人(西暦2023年)

 服役歴:懲役30年(西暦3048年〜)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る