第5話おれたちでばがめ軍団

 侍女はすぐに明智方の兵士たちに捕らえられ、

光秀の前に連れ出された。彼女は

あわれっぽい作り声でこう言った。


「どうかわたくしを殺さないでくださいまし!

 上様は白い着物をお召しになって、

 森兄弟をはじめとする小姓どもと共に

 本堂の仏像の台座の下から裏の林に通じる

 隠し通路の中に逃げ込みました」

 

「もうよい、この者を連れていけ」

と光秀は配下の武将に女の身柄を預けた。


「私は殺されるのかしら? まあそれでも構わないわ、

 去年恋人を殺された恨みをこれでようやく

 晴らす事ができたのだから」

 この女は安土城に仕える侍女で名を百合と言ったが、

前年の四月に信長により侍女仲間である恋人を手打ちに

されて以来、復讐に燃えていたのである。

信長は自分の留守中に無断で本丸から抜け出して

遊びに行った侍女たちに加え、彼女らの助命を願い出た

桑実寺の長老までも容赦なく処刑したが、

犠牲者の中に百合の恋人も含まれていたのだった。


 ところで大半の雑兵らは自分たちの敵が織田信長であると

知らされていなかったので「上様」が誰のことを

指しているのか分からず首を傾げていた。

光秀は端正な顔に腹黒い笑みを浮かべながら


「ふっふっふ、そば近く仕える者に裏切られるとは

 つくづく人望のない男だな。先回りして

 全員始末してやろう。森の小せがれども

 など物の数ではないわ」

とつぶやいた。



 その頃、信長一行は石で塗り固められた地下道を歩いていた。

森兄弟を初めとする小姓たちの多くが


「どんなことがあっても上様をお守りするのだ!」

と張り切っていたが、中には


「もし崩落したらどうしよう」

と落ち着かない気持ちでブルブル震えている者もいた。

だが信長は平然とした態度で


「思いのほか整備されておるな。途中に小部屋まである。

 外のドンパチが収まるまで少し隠れていようじゃないか」

と言って立ち止まると、森お乱(蘭丸)を手招きした。


「乱、近う寄れ。この先万が一わしが命を落とすことがあった

 ときはわしのこの体が絶対に明智の手に落ちぬように

 するのだぞ」

 お乱は神妙な顔でうなずくとこう切り出した。


「はい上様。しかとうけたまわりました。

 ところで最後かも知れぬので今

 申し上げておきたいことが……」


「またあんなことを言われるのは耐えられない!」

とあわてた信長はとっさにお乱の唇を自らの

唇でふさいで言葉を遮ったのでその場にいた小姓たちは

目のやり場に困ってしまった。お乱の弟たちは

そんな光景に見慣れていたので互いにつつきあいながら、


「うわっ、あれ絶対、舌が入ってるよな」


「いつもより執拗だな。あんなに力いっぱい

 抱きしめられたら骨が折れちまうぞ」

などとささやきあった。

 しばらくしてようやく主君の腕をふりほどいたお乱は

色白のほおを真っ赤に染めて涙目になりながら


「上様……や……」

と切れ切れにつぶやいた。それを聞いた信長は


「ふむふむ。お乱はわしとやりたいと言っておるようじゃ。

 どうせ死ぬかもしれぬならここで思う存分

 愛し合おうじゃないか」

と言い出したのでみな啞然とした。

 その後、信長に押し倒されて雨あられと口づけを浴びせられ、

体中を愛撫されるがままになっていたお乱だったが、

いまだ狭い入り口に下腹部をこすりつけられたとたん、


「おりゃーっ!」

と叫んで自分より華奢な体つきの主君を

いとも簡単に組み伏せてしまった。


「兄さん! なんてことを! 気は確かか!」

と坊丸は兄をたしなめたが、

年下の恋人(男)に手荒く抱かれながら


「あーれー、そんなに激しく攻めないでー」

と甘えた声を出してうっとりしている主君の姿を

見ると口をつぐんでしまった。

小倉松寿おぐらまつじゅは真っ蒼になって

今にも死にそうな顔つきで


「なんということだ。あれほど家臣たちから

 恐れられていた義父上ちちうえ様が小姓に犯されて

 喜びの声をあげるとは!」

と嘆くのであった。そのほかの小姓たちも

この世の終わりが来たかのようなくらい表情を顔に

浮かべてうつむいていた。

 お乱は長いこと腰を振って猛攻撃を続けたが、

とうとう力を使い尽くしてしまうと

荒い息を吐きながら主君の胸の上に頭を乗せて

しばしの休息をとろうとした。すると信長は


「おい、坊と力もこっちに来てわしの相手をしろ!」

と4Pを命じたが、お乱に軽くつねられて大喜びした。


「これこれ。そんなにわしを独り占めしたいのかね?

 あん、ダメだって! ちょっ、そんな奥まで!」

などとすっかりメス墜ちしてしまった主君に


「あの、上様、声が外に漏れたら大変ですよ」

と恐る恐る松寿は進言したが、


「うるさい! せっかくわしが好きな男に

 抱かれているのに邪魔するな!」

と怒鳴られてすごすごと引き下がるほかなかった。

 果てしなく繰り広げられる愛の合戦に

うんざりした小姓たちは

 

「おれたち、まるでデバガメ軍団になったみたいだな」


「バカ言え、見たくて見てるわけじゃないや」

などと言いあってため息をついた。

 とうとう耐えられなくなった松寿は


「もう付き合ってられん! 先に行って外の様子を見てくる!」

と言い捨てると出口目指して一目散に駆けだした。


 

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