【友達】
【
「たまにはお前も飲み会に顔出せよ」
久し振りに話しても久し振りな感じがしなかった。
「今度結婚式やるからお前も来いよ」
アイツが俺を誘い、誘われた俺が行き、結婚した本人達は俺に喜んでくれた。
「今度また誘うから絶対来いよ」
俺から誘うことがなくてもそう言って強引に誘ってくるアイツに従うのではなく応えていた。
俺よりも長く時間を共にしている連中はどこかアイツに一目置いていた。アイツと連中との関係は基本的に対等なんだろうけど、対等以上の想いを抱いていたと思う。常にアイツが中心にいるのがそのグループだった。
ただ、俺は違った。
どのグループに入っても俺の中心は俺だけだった。
どんな奴がグループの中心にいても俺はそれに縛られる事はなく、俺は俺のやり方でそこにいた。
それが気に入らない奴も気に入る奴もいただろう。
それでもアイツは常に俺とは対等だった。
「お前のこと嫌いなやつなんかいねえだろ」
最後に会った夜、そう言って笑ったアイツはもういない。
俺の知らないところで酔って事故を起こして知らないうちに死んだ。
死んでから数日後に執り行われた葬式は別の
連中とは特に仲がいいわけでもなかったが、そこに俺がいることに疑念を抱く様な関係でもなかったし、アイツが死んでから不意に連絡が来てグループの一人の結婚式に参加して欲しいと言われ、俺はそれに応えた。
アイツは事故ってから半月近く意識もない状態で入院していたらしいが、生きている間にもう一度会うことは出来なかった。
けど、それでよかったと思う。
もしまだアイツが生きている間に会っていたとしたら酒呑んで運転しているのを知って止めさせなかった連中や最後に一緒に呑んでいた奴を病院送りにしていたかも知れない。
死んだ後になって経緯を知ったお陰で俺は「バカやってんなよ…」というアイツへの想いだけで済ませられた。
俺はずっと地元愛とか愛国心とか天皇とか国民の代表とか、どうでもいい飾り物よりもただ一人に対する想いを大切にしている。
カタチよりもココロで示している。
それが少しでも伝わっていたであろうアイツはもういない。
今となっては悲しくもない。ただ事実だけがそこにある。
もうアイツとは会うことも話すこともない。
墓参りにも行ってない。墓の場所も知らない。
誘われれば行くだろうが、俺はカタチに拘りがないから恐らく一人で行く事はまだまだ先だろう。
そんな中でたまにアイツを思い出すと「コイツは俺の友達だ」って胸を張って言える奴が生涯で一人だけでも持てたんだなあと実感する。
勝手に死んでんなよ、馬鹿野郎。
自殺した奴の事を「アイツはバカだ」と言って批判されたお前がつまんねえ死に方してんなよ。
俺と同じ意見を俺のいない場所で突き通して来たお前が俺にバカって思われてんじゃねえよ。
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