蝉が死んだ!-ゾンビセミ-事件簿シリーズ

龍玄

蝉が、死んだ。

 「ママ、セミさんが死んでるよ、ほら」


と、如月葉月は誇らしげに、睦美に拾い上げたセミを見せた。


 「ダメよ、死んでるものに無闇に触ちゃ、病気になるわよ」


と、睦美は、子供の好奇心だと聞き流しながら、木陰で友達とのメールに夢中になっていた。


 葉月にすれば大発見。なのに無関心の睦美。欲求を満たされない葉月は、睦美の関心を引こうとセミの亡骸を睦美にもとに持って駆け寄った。


 「はら、見てママ。このセミさん変だよ。お腹が減っているのかなぁ、ぺったんこだよ、ねぇ、見て、ママ」

 「五月蝿わねぇ、だから、そんなの…」


と、注意しようと葉月の方を見ると、目に飛び込んできた葉月の持つセミの姿に驚愕した。そのセミの腹部が脱落していたからだ。最初は、微生物や蟻などの他の昆虫が食べたのではと思った。

 葉月が遊んでいた周辺をよく見ると他にも同じようなセミの亡骸が幾つかあった。


 「きゃ!」


 その内のいくつかの足が動いているのに気付いた。


 「えっ?なぜ?可笑しくない?いやいやいや、変よ、こんなの」


 そう思うと睦美は言い知れない恐怖に襲われた。


 「葉月、ママの言う事を聞いて。そのセミさんは病気なの。だから、そっと下に置いて」

 「病気なの?病気ならママ、助けてあげて」

 「そうね、でも、ママには出来ないの?それより今は、葉月がセミさんの病気にうつらないか心配なの?だから、よ~く聞いて。セミさんを触った手で絶対、顔や服に触らないで。ママ、悲しくなるから、ね」

 「うん、分かった」

 

 睦美の頭に浮かんだのは消毒だった。近くにドラッグストアも思い浮かんだ。葉月を置いて消毒液を買いに走るのは簡単だった。でも、まだ三歳になったばかりの葉月ひとりに待たせるわけにはいかなかった。


 「葉月、セミさんを持っていた手はどっち」

 「こっちぃ~」

 「偉いねぇ。その上げた手を降ろしたら、葉月の負けだからね。そしたら、おやつはなしよ。でも、ずーと上げていたら、葉月の好きなおやつを上げるわ、わかった」

 「うん、わかった」

 「いい子ね。じゃ、おやつを買いに行こう」

 「おー」

 

 睦美は葉月の機嫌を取りながらドラッグストアに着くと


 「葉月、ママ、お腹が痛くなっちゃったからお薬をかってくるから、ここで待ってて。動いたら葉月の負けだからね、いい?」

 「分かった」

 「じゃ、アンパンマンの歌をママがいいって言うまで歌って、その間に、お薬を買うから。競争よ、よーい、ドン」


 葉月が歌いだすと同時に睦美は消毒液を買いに走った。幸い店内は空いており商品を探し、支払いもスムースに終えられた。その間、無邪気に歌う葉月の声が聞こえていた。


 「ママ~」

 「あっ、見つかちゃったぁ、ママの負けだね」

 「わぁ~い、葉月の勝ちぃ」

 「そうね。手は上げたままだった?」

 「うん」


 睦美は、葉月の眼を見、話しながら、商品の梱包を外して素早く消毒液を取り出し、葉月の上げている手首を優しく掴み、


 「葉月の勝ちぃ~、チャンピオンで~す」


と言いながら、両手に消毒液をたっぷりと吹き付けた。

 何も知らない葉月は、嬉しそうに笑顔ではしゃいでいた。


 如月睦美は、微生物研究所の研究員。娘、葉月は三歳だった。


 中国地方のある県境にある通称・中共公園での出来事だった。

 

 睦美は家に帰ると葉月の手や顔を入念に洗い、うがい薬でうがいをさせ、着替えさせると、研究員仲間の師走速雄に連絡をとった。彼は、本業の研究以外に昆虫学にも精通しており、昆虫に寄生する微生物や菌を趣味の範疇で行っていた。


 「もしもし、師走先生」

 「どうしたんですか、今日は休みでしょ」

 「ええ、久々に娘とゆっくり過ごしているわ」

 「それはよかった、で、どうしたんですか?」

 「公園で娘が変なセミの死骸を見つけたの」

 「変なセミの死骸?」

 「腹部が滑落しているのよ、なのに動いているの?」

 「そんなバカな?」

 「だから、電話したのよ、あなたなら何か分かるかもって。葉月がそれを手で持っていたから、もしかの事があったら大変だから。取り敢えず、消毒はしたけれど」

 「いい処置だね。うがいもさせた?」

 「ええ」

 「ちょうどいいや、今、培養の時間待ちだからその公園を教えてくれないか、サンプルを採集するよ。万が一の事もあるだろうから調べてみるよ。如月さんも私にそうさせたくて連絡してきたんでしょ」

 「うん」

 「人への感染は、前例を見てもないと思うよ。それより、珍しいケースだし興味があるよ」

 「はいはい。でも気を付けてね、何があるかわからないから」

 「ああ、最低限の防護策はとるよ。大袈裟にすれば人目もあるしね」

 「任せるわ」

 

 師走は如月から公園の住所を聞き出すと、すぐさま装備を済ませて、その場所に向かった。

  

 「ここか。確かあのあたりだと聞いていたけど」


 師走の好奇心に満ちた視力は、いとも簡単に対象物を見つけた。 


 「なるほど、これは興味深い。確かに腹部が、何かに食われたような様子だが足は何もなかったように動いているものがあるな。これは面白い」


 師走には思い当たる処があった。

 それは、病菌が操る「ゾンビゼミ」のことだ。

 腹部脱落したまま飛行し、交尾を行わせて感染を拡大、と言ったようなタイトルのリポートだった。

 その内容は、病菌に感染して心と体を操られ、「ゾンビ」と化して仲間の間で感染を拡大させるセミの集団が見つかったとして、米ウェストバージニア大学の研究チームが学会誌に調査結果として発表したもの。


 病菌に感染した「ゾンビゼミ」の生態。 


 同大学の発表によると、セミに感染する病菌の「マッソスポラ」は、幻覚作用のあるマジックマッシュルームと同じ成分をもち、宿主に感染するとホラー映画のような症状を引き起こす。

 セミに感染したマッソスポラ菌は、まずセミの生殖器と尾部、腹部を食い落とし、菌の胞子と入れ替える。胞子に入れ替えられた腹部は、徐々に消しゴムのように摩耗していく、というものだった。


 感染したセミは2020年6月にウェストバージニア州で見つかった。マッソスポラ菌に感染したセミの集団が発見されたのは、これで3度目だった。


 論文共著者のマシュー・カッソン氏はこう解説している。


 「感染したセミは、体の3分の1が脱落しているにもかかわらず、まるで何事もなかったように、交尾や飛行などの活動を続ける。これは昆虫を殺す菌としては極めて特異だ」


 宿主を殺すのではなく、生かし続けて操ることで、胞子を最大限にまき散らす厄介な菌だ。

 ゾンビゼミは繁殖機能を失っているにもかかわらず、感染を広げる目的で健康なセミと交尾しようとする。菌がオスのセミを操って、交尾を誘うメスの羽ばたきを真似させ、寄ってきたオスに感染させることもあるという。

 交尾はマッソスポラ菌にとって最も簡単に感染を拡大できる方法だが、感染を広げる方法はほかにもある。

 マシュー・カッソン氏は更にこう続けた。


「セミたちは飛び回ったり木の枝の上を歩いたりする際にも胞子をまき散らす。私たちはこれを、空飛ぶ死のソルトシェーカーと呼んでいる。逆さまにした容器から塩が振ってくるように、胞子がまき散らされる」


  ただし、ゾンビゼミ軍団が人間を危険にさらすことはないとカッソン氏は強調する。現時点でセミ全体の個体数に深刻なリスクを生じさせることもなさそうだと推定している。


 師走は思った、現時点では、か…。


 中共コロナウイルスも自然由来ではなく、人工的なもの。ただ、幸いと言うか結果を早急に求める国民性から、過程の課題にも目もくれず、管理の重大性など気にも留めない。その研究過程で彼らの準備不足が招く、変異にも気づかないのも当然のなせる業だと言う事は、疑いようもない。だから、本当の脅威に気づかない。気づければ、扱い方も熟知していることだから。


 当初は人畜無害の振りをし、相手を油断させ近づき、内部に入り込むと突然悪意の本性を顕にする。まるでどこかの国のような仕業だ。

 有効的な低姿勢で相手に近づき、相手の喜ぶ融資条件やインフラ整備を率先して薦め、食い付くや否や掌を反して、無理難題の要求を突きつける。応じられなければ利権や資産を奪い取り、隷属下に置き、牛耳る。その過程で、権力のある者には甘い汁を吸わせ、それでも応じなければフェイクニュースやハニートラップを仕掛けて追い込む。一般のお気楽な国民は気づかず、マスコミによって流される偽りの情報に支配されていることさへも知らされない。洗脳とはそう言うものだ。

 マッソスポラ菌も似たようなものだ。発生源は特定されないが、気づいた時には既に遅い。感染し、心も体も支配され、破滅させられる。 

 自然界とは時に人間の傲りで招いた過ちを示唆、或いは強硬な手段で弾劾してくる。神仏のへの冒涜の罪と罰のように。


 中共は崖っぷちに立っている。マッソスポラ菌のように寄生しなければ生きる術を見いだせない。考えの貧困な者が大金を手にすれば、消費するだけで生産性に大きな欠如を伴う。

 食料を無計画に食い潰せば、イナゴのように他のものを奪いに行く。食い潰せばまた他へ。さんま、マグロの乱獲。資源があるとみれば、自分の領地だと宣言し我がもの顔で強引に手に入れる。

 海洋資源と領海権搾取を目論み南シナ海・南沙諸島海域に人工島を作り、インドとの抗争を有利に進めるためにブータン王国に、ここは中国領土だと宣言する始末。尖閣諸島も島ではないから我らの領土だと乗り込み実効支配を試みる。自らは人工島を作っておいてだ。

 それを注視し、その脅威を世界に告知するアメリカも、もとを正せば、無策の前大統領オバマが中国資本にねじ伏せられた。その重臣だったバイデンが次期大統領に着こうとしている。バックに中国資本で甘い汁を吸う大投資家たちの援助を受けて。投資家たちはマスコミに大金を注ぎこみ、支配下に置き、または広告費を投入し情報を操作している。

 世界が反中共に動いているとみるや自らも反中共と豪語して見せる。それに多くの国民が騙される。


 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」


 選挙に勝ちひと段落すればコロナで落ち込んだ経済を立て直すことを目的に中共との関係を修復、いや強固なものにする手はずだ。

 国民が気づいた時にはアメリカは香港になっている。意義を唱えるものは、企業、人関係なく容赦なく弾圧される。

 世界はゴミに溢れ、温暖化は急速に悪化し、作物や魚などの食料が枯渇する。無駄な人間に与える食料はない。死刑制度を復活し、奴隷国民を粛清していく。地球上の人間は支配される者とされる者に明確に区分され、カースト制が引かれ、猿の惑星さながらの事態となる。

 今回のアメリカの選挙とはその分岐点だ。バイデンは悪意の投資家と共にこの地球を食い潰す。トランプはその責任のすべてを被らされ、史上最悪の大統領として名を残すことになる。

 批判を受ける者には理由がある。少なくとも問題提起を促し、闇に光を当てていること気づくべきだ。

 完璧など、結果論でしかない。ならば、懸念を懸念でなくす動きを起こせるか起こせないかだ。

 行動あるのみ、それはルール順守のもとにだ。国際ルールを守る気もない輩を仲間しよう、利用しようとする者には必ずや報いがあると信じて已まない。


 師走のお蔭でほっとした睦美のもとに、不可思議な届け物があった。

 注文した覚えのない商品が届いた。中国郵政とあった。中身は、何らかの種子だった。自分で調べてみた。中身は単なる植物の種だった。安心はしたが不気味さは増すばかりだった。

 こんなの送りつけて何の得になるの?睦美はそう思った。

 師走に相談してみた。師走は微生物と昆虫にしか興味がないと一笑に付してきた、がその師走が面白い、いや怖い事を言いだした。


 「これって100円に満たないよね。こんなの送りつけて金儲け?そんなはずないよね」

 「これって、郵送料の方が高いんじゃない?」

 「普通ならね」

 「どう言う意味?」

 「詳しくは知らないけどこの郵送費は日本の血税で賄われているから、送りつけてきた者の損金は品物分だけだよ」

 「どう言う意味よ」

 「中国郵政ってあるだろ。発展途上国が先進国に出す郵便物の料金は先進国が持つらしいよ」

 「中国って経済大国でしょ?」

 「数字的にはね。でも、昔、取り決めた中国は発展途上国の認定をいまだに中国の反対で改正されていないんだ。特権がたくさんあるから、もう充分儲けているだろうと聞かれると、まだまだ途上国で御座いますと卑下する。一方で中国は世界をリードする先進国であると言う。好き勝手な奴さ。それを是正できない世界も国際機関もだがね」

 「そうなの?でもこんなことをして何の得があるのかしら」

 「それは送り主に聞いてよ。ただ、僕は思うんだ。何故、住所を知っていた?ひょっとすれば、確かめたのかも。手に入れた住所で行動をおこせるかをね」

 「何の行動を?」

 「狂った国家がやるとすれば、炭疽菌などのウイルスや菌をピンポイントで送り付ける準備だとしたら。だってさぁ、送られてきた国が、中共に反旗を唱える国でしょ。そう考えるのが妥当だよ。TiikTookを禁止するのもわかるよ」

 「よく聞くわその話。でも、私たちの情報なんて意味ないじゃないの」

 「そうか。現に住所がばれているよ。中共が狙う人物が君の近くにいたとする。本人の住所がわからない。なら、立ち寄る付近にバラまけばいい。なんせ安価だから広範囲に配布しても大したことはないが効果は覿面だろう。さらに、TiikTook以外にLiineもあるよ。携帯で金融機関とやり取りしたら、その情報は抜き取れるってこと。大胆に預金を他に送金って簡単だろうね。また、資金繰りに困った大国が一人から100円をこっそりどこかに添付して振り込ませたら毎月大金を手に出来るってわけさ。だから、携帯電話の機種を選ばないとね。ギャラクシーなんて危ないだろうね。便利は裏を返せば困ったちゃんだよ。機種に最初からデータの抜き取りのアプリを組み込んでおけばいいんだから。ほら、時折、webカメラが使用されていますってセキュリティーからの警告を目にしたことがない?私はある。本当に行われているのかはわからないけどね。だから、カメラレンズにテープを張ってあるよ。気持ち悪いからね」

 「そうなの?私もノートパソコンには貼っておくことにするわ」

 「使うときに剥せばいいだけだからな、そうしたらいい」

 「悪い奴らって、悪事に関しては豆よねぇ」

 「油断大敵さ。本人に関係ない、悪意の第三者にとればお宝なんてことはゴロゴロしているからな。安いからって信用のおけない品物は買わないのが一番の防御だよ。銀行の残高が0になってから慌てても遅いからね。犯人が検挙されても100%何も戻ってこないからね。信用は将来への投資と思う事だよ」

 「そうね」

 「今回は蝉だけだったからよかったが、あれが人間にも寄生する進化、または操作が人為的に加えられたら、今頃、君や葉月ちゃんはどうなっていたか」

 「おおお、怖。驚かさないでよ」

 「ごめん、ごめん」

  

 師走と如月睦美が話している背後のテレビがニュース速報を流していた。

 そのニュースは文字のみで流され、二人は気づいていなかった。


 そのニュースの内容は…


 臨時ニュースをお伝えします。本日午後6時頃、渋谷交差点で集団レイプが発生した模様です。襲った者の特徴は、腹部が異常に凹んでいるそうです。緊急配備により容疑者の何人かは確保された模様。可笑しなことに生体反応はあるが、意識が朦朧またはないと言う状態であり、詳細を調査中とのことです。

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