ポン太の墓参り

紫 李鳥

ポン太の墓参り

 


 ぽんぽこ山にやって来たポン太。


 木陰でひと休みすると、麦わら帽子を脱いで、首に巻いたタオルで汗を拭いた。


「ふ~。今年は一段と暑いな」


 ペットボトルの水を飲むと、また歩き出した。片手に小玉スイカをぶら下げて。



 小川のほとりにある小さな洞穴ほらあなには、ポン太の父ちゃんと母ちゃんが眠っている。


「母ちゃん、墓参りに来たよ」


『おー、ポン太、よう来てくれたな』


「母ちゃんの好きなスイカ持ってきたよ」


『何? よく聞こえねぇ』


「ス・イ・カ」


『なんだおめぇ、人間に化けて電車乗ってんのか』


「そっちのSuicaじゃねぇ。食べるほうのスイカ」


『おう、母ちゃんの大好物、よく覚えててくれてたな』


「いま、川で冷やしてっから、あとで食べてくれ」


『ありがとの。父ちゃんと一緒に食べるよ』


「父ちゃんは?」


『いびきかいて昼寝中』


「そっちで父ちゃんと仲良く暮らしてくれりゃ、それで安心だ」


『なんも。さっきもケンカしたばっかだ』


「なんで」


『ポン太が早く結婚してくれたらいいなって言ったら、そんなに焦らせるなって。アイツが自分で見つけるまで待てって言うから、生きてるうちに孫の顔が見たいって言ったら、バカ、俺たちはもう死んでんだよって言うから、信じられないって言ってケンカしたの。ポン太、母ちゃん、死んだのか?』


「……ああ。けど、こうやって話ができるから死んだとは思えねぇ」


『だろ? 母ちゃんもその派なのよ。ま、ポン太がこうやって会いに来てくれるだけで母ちゃんは幸せだよ』


「そう言ってもらえてうれしいよ。じゃ、そろそろ帰るから」


『もう、帰るのか? 父ちゃん、起きて! ポン太が帰るって』


『おー、ポン太。かわいい嫁さんだな』


「えっ?」


『父ちゃんには見える。かわいい嫁さんがめんこい子を抱っこしてる光景が』


「……父ちゃん」


『母ちゃんにも見えるよ。目の錯覚かもしれねぇが、めんこい子をおんぶしてるおめぇの姿が』


「……母ちゃん」


 ポン太は、父ちゃんと母ちゃんに真実を言えなかった。





 ……嫁さんにしたのは、キツネのコン子だと言うことを。


「あなた。お墓参りできてよかったわね」


 息子のポン助と手をつないだコン子が言った。


「ああ。けど、君のことを紹介できなかった」


「いいのよ、気にしないで。でもご両親には見えてたみたいね、私の姿が」


「みたいだな」


「タヌキに化けたまではよかったけど、姿を消すのは、まだまだみたい」


「かあちゃん、はやくおうちにかえろ」


 ポン助がコン子の手を引いた。


「ええ、帰りましょうね」


「……ちゃんと紹介してやれなくて悪かったな」


「ううん、気にしないで。言いづらいのはよく分かるもの。でも、こうやってあなたと結婚できて幸せよ」


「……コン子」






 家族は、蝉時雨せみしぐれのぽんぽこ山を下りて行った。――そんな、お盆のひとこまでした。




 おわり

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